第44話

 ~ドゥードゥルバレー~


「お前が天戴か?」

「いえ……違います」

「じゃあ、お前か?」

「はーい。そうでーす」

「ふむ……」


 やはり天戴というのは何処へ行っても目立つ。というより意識をされるらしい。あまり目立つのが好きではない俺は心のどこかで「天戴じゃなくてよかった」なんて思っていた。一方桜木の方は、少しづつ「お前が天戴か?」なんて言われるのに慣れてきたようだ。


 それでも、大抵男の俺の方に聞いてくるのを見るとちょっと前に出すぎなのだろうか。チラッと桜木の方を見るが……。無邪気に初対面の人達に溶け込んでいる。なんか、桜木ってもともと天然だよなあ。って思うがこんな異世界の命のやり取りが普通にあるような場所でも割と馴染んでいる。

 女の子の強さってやつなのだろうか。


「鷹斗君~。なんか、天位ってすごい人達が階梯上げに来てて、結構間引いてくれてるって~」

「ああ、聞いてるよ。でもちょっとあぶねえやつらしいじゃん」

「でもさ、その人たちの行った道を行けば、魔物居なくなってるんじゃないの?」

「う~ん……そこら辺はヤーザックさんに相談してだね」


 ヤーザックは、ここドゥードゥルバレーの前線の指揮を取っている男だ。ここに着いてすぐに挨拶に行ったが、とても不思議な男だった。周りを見ると「魔物を殺すぞ!」といったギラギラした荒くれ者が多い中、なんとも……やる気の薄いというか。初めて会う俺達にも始終愛想笑いを浮かべているような感じだった。



 ドゥードゥルバレーの街は、取り戻した街の中で一番近々での取り戻した街だ。奪取後まだ1年ほどしか経ってないため、一般の住人はまだまだ殆ど戻っては居ない。というより、デュラム州の生き残った人数や、ほかの地域に疎開した人を考えると致し方ない現状らしい。

 もともとこの街に住んでいたという避難民も50年という時間の中で新しい故郷が出来てしまっている。奪還が成功したと言っても故郷に帰ってくる者は少ない。ヤーザックも全く困った話だよと嘆いていた。


 それでもここを前線基地として更に先へと進めたい州軍としては、大事な街となり、そこらへんに関しては、州を越えてホジキン連邦としても移住者は募っているようだ。




 俺たちは階梯を2つ上げた。この2つというのがこの世界じゃ大事らしい。この2つの階梯を上げるのはどんな人間でもだいたい同じ様に割と上がりやすい。と、言うよりこの世界で生まれ、神の光を浴びていない者たちは、精霊の守護を持たぬものが多い。そして精霊の守護を持たぬものは階梯の上限が5前後だと言うのだ。そしてその階梯自体も上がりにくく3に上げるのですら大変であるため、大抵の人は2までしか上げない。


 この魔物のはびこる世界で生きるために、若い頃に階梯を2まで上げるというのが習わしとしてあった。2つ上げれば下級の魔物でもイザというときは対処できるようになるためだ。



 取り戻せただけあり、ドゥードゥルバレーの近辺の魔物も下級の物が殆どだというが、流石に最前線と言うことも有り中級クラスの魔物も出る。その為、階梯を2つ上げるまでヴァーヅルで戦闘訓練をしたのだが……。


 ……こんなんじゃ何時になったら先生を……。


 考えれば考えるほど手詰まり感が否めない。



 ガヤガヤ……。


 階梯上げに来ている天位の人の話を聞こうと州軍の詰め所に行くと、中が妙に騒がしい。なんだろうと思っていると、ヤーザックさんの部屋の中で何かあったようで、部屋の周りに州兵達が集まり中の会話を聞こうとしている。


「どうしたんだろう……」

「なんか、あったのかなあ、聞いてみよーか」


 トコトコと桜木が聞き耳を立てている州兵に近づく。


「すいません、どーしたんですか?」

「え? いや。姉御が来てるんだ」

「姉御?」

「あ、いや。カミラ将軍だ」

「カミラさんが? ………なんだろう」

「カートンがやられたとかどうとか」

「え? 例の天位の人ですか?」

「ああ、ちょっとよく聞こえねえんだけどな」


 桜木は物怖じもせずに、強面の州兵のおじさんに話を聞く。州兵も突然声を掛けられ戸惑いながらも答えてくれていた。と、勢いよくドアが開く。


 バタン!


「うるせえぞテメエら!」


 蹴破るような勢いで開かれたドアからカミラが顔を出し怒鳴りつける。


「ん? タカトとミキじゃねえか、丁度いい入れ」

「僕たちですか?」

「ああ、ちょっと聞きたいことがある」


 部屋に入ると、ヤーザックさんがニコニコと椅子に座るように言う。ヤーザックさんの部屋は簡単な会議も出来るようにテーブルと、その周りには木の背もたれのないベンチが配置してあった。俺たちはおとなしくカミラの前に座った。


「シゲトクスノキ、その名前を知ってるか?」

「え? はい。知ってます……え? 見つかったんですか???」


 カミラの口にした先生の名前に思わず身を乗り出す。


「いや。そいつは見つかってない。ただな、そいつが生きていることは分かった」

「??? どういうことですか?」

「お前らはまだ知らないかもしれないがな、ランキングはわかるな? あのランキングは能力値の強さだけじゃなく、ランキングの上位の人間を倒せばそのランキングと置き換わって上に上がることができる」

「は、はい……」

「最近この近辺で階梯を上げに来ていたカートンと言う奴がいるって話も知ってるな?」

「はい、天位の人だとか……」

「そいつの順位の名前が置き換わったんだ。シゲトクスノキに」

「え?」


 思わず隣にいた桜木と目を合わせる。

 実際、楠木先生のことは信じていた、だけどあまりの成り行きに付いていけなかった。問題は、どうやらカートンという男は5人のパーティーだったようだ。その中でもう一人フォーカルという男もかなり順位の高い魔法使いらしく、もめ事があったとしても2人の強敵を考えると両方を殺ったとは考えにくいようで、状況が読めないらしい。

 さらに「お前らの故郷まで連れてってやる」と、数人の州軍の兵までひきつれた大人数だったというのだ。


「状況がわからんが、出来る限りの戦力を集めて街道を進んでみるつもりだ」

「僕たちも一緒に行っていいですか?」

「強い魔物が出てきたらどこまで守れるかわからんぞ?」

「……はい、それでも。桜木は?」

「行く。行かせてください」

「……まあ、お前たちはそのためにうちに来たんだもんな。分かった。一時間後に出る。準備をしておけ」

「はい」

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