最強ランキングがある異世界に生徒たちと集団転移した高校教師の俺、モブから剣聖へと成り上がる(WEB版)

逆霧@ファンタジア文庫よりでびぅ

第1章 逃げる2人

第1話 ドアの向こう


 ヒック。ヒック……。


 悔しそうに俯いて泣いている生徒たちを前に俺は何を伝えれば良いのだろうか。


 剣道の全国高校総体、県大会決勝。僅差で敗れた生徒たちを目の前に俺はただただ「良くやった。県大会の2位だぞ。十分頑張ったじゃないか」そんなことしか言えなかった。

 しかし生徒たちはあと1つ勝てば全国大会という試合での敗北に打ちひしがれていた。



 我が校の教師陣には残念ながら剣道の経験者がおらず、校長の一声で俺が顧問を受け持つことになった。理由は、実家が古い居合道の道場を営んでいる。それだけだ。

 同じ剣の道ということで校長は俺を指名したのだろうが、残念ながら俺は居合をやっていても剣道を習ったことが無かった。剣道の経験者や有段者の中で、居合を習う者はそれなりに存在はするのだが、居合と剣道では全くの別物であり、俺は生徒たちになんら指導をする技術も持たなかった。


 顧問就任当時から、何も教えられない俺に2年3年は反発気味だった。確かに去年離任した前任の先生はそれまで何度も全国大会への出場へ導き、生徒たちからカリスマのように慕われていたのは知っていたが。剣道専門家であった前任者と俺を比べられても困るんだ。


 それでも、前任者に教えられた下地と、地元の有志剣道家達が週に2日ほど集まる「剣修会」なるものへの参加が、この団体戦県2位という結果に繋がったのだろう。

 しかも団体戦では2位という結果に終わったが、前日の個人戦では主将の堂本恭平が見事に優勝し、全国大会の切符を手に入れていた。


 残念ながら女子は団体戦に出場できる人数がそろわず出場は出来なかったが、1人3年の君島が県大会の個人戦に出場した。準々決勝で敗退したが十分立派だと思う。



「団体戦は惜しかったが、堂本はこれからまだ全国大会が控えているんだ。3年も強制はしないが堂本の練習に付き合ってくれ。な?」


 俺としては、こういう時は唯一全国大会を決めた堂本を皆でフォローしていこうという流れで、生徒たちにまた前を向いてほしかったのだが……。


「チッ……剣道の事なんて何もわからないくせに……」


 3年の団体戦で先鋒を務めていた小日向がボソッと呟く。前任の顧問の事を知る2年3年の部員たちの中で、特に小日向は俺に対する敵愾心が強かった。

 顧問になって、剣道を知らないくせに何かをしなければと、学校の武道場に顔を出すようにしていたが、こいつは特にそれが気に入らなかったらしく、事あるごとに俺に敵意を向ける。

 俺としてはなぜそこまで俺が気に入らないのか分からなかったが、だからと言って顧問を辞めることは出来ない。大人の対応を続けるだけだった。


「そうだ、確かに俺は剣道のことは分からないが、お前らがこうして頑張ってきたことは分かってる」

「薄っぺらいこと言うなよ!」

「しかし……」


 ……こいつらは試合で負けて気持ちが相当落ち込んでいる。今はそっとしておくべきか。


「とりあえず、閉会式だ。2位は十分いい成績なんだ。胸張って出てこい」


 俺はなんとか、生徒たちを閉会式の会場へ行くように促した。


 ここは大会の会場に使われた体育館の2階にある観覧席だった。大抵の高校の選手達は2階席でそれぞれが場所を確保し、着替えなどをする場所としていた。下を見れれば、既に体育館の1階のフロアでは閉会式の準備が始まっていた。


 閉会式には男子団体の5人と個人戦に出た女子が1人整列する。他の部員はここで静かに閉会式を見ているように伝える。俺も顧問として閉会式には出ないといけないらしい。


「おい1年! ラウンジに俺の竹刀袋置いてきちゃったから取ってきてもらっていいか?」


 出掛けに3年の副将を務めていた佐藤が観客席に座っていたジャージ姿の1年に向かって声をかける。そばに居た仁科が「はい。僕が行きます」と返事をして付いていく。


 観覧席の後ろにあるドアから、廊下に出て階段を降りればすぐに会場に出られる……はずだった。





 重い鉄のドアを引き開け、堂本が出ていく。それから他の生徒たちが続いて出ていく。俺も生徒たちの後からドアをくぐり廊下に出た。


 ドンッ


 扉を抜けて数歩歩いたところで、前の生徒にぶつかった。先程の生徒たちの反応に少し考え事をしていた俺は、慌てて前を歩いていた仁科に謝る。


「ああ、悪い」

「……」

「……ん? どこだ? ここは……」


 前の仁科に謝るが、ふと周りの様子に違和感を感じる。「どこだ?」という俺の声にも仁科は答えなかった。まだ1年の仁科は、俺の担任するクラスの生徒だった。それに前任の顧問の先生を知らない事もあるため、素人の俺にも普通に接していたのだが……俺は違和感を感じ周りを見渡す。


 試合会場の体育館の廊下だったはずなのだが、周りはゴツゴツとした岩に囲まれ、まるで……洞窟の中のような場所に思えた。振り向くと出てきたはずのドアも見当たらない。先に入った堂本も困惑したようにあたりを見渡していた。


「先生……ここは?」


 俺の前に居た仁科が少し怯えたように聞いてくる。当然俺にもそれに答えることが出来なかった。


 薄暗い洞窟のようだが、それなりに明るさはある。目の前には石でできた祭壇の様な人工物があり、光はその上……20~30m程の高さの天井部分に丸く穴が空いていて、そこから漏れてきているようだ。ちょうど日が上に来ているのか、レーザー光のように一筋の光の束となって祭壇の横を照らしていた。


「どこだよ、ここ」

「え? 今体育館の廊下に出たよな?」

「ドアが無いっ! どういうことだよっ!」


 俺と同じように、生徒たちも戸惑っている。訳がわからないが、今は引率者としては生徒たちの不安をどうにかしないといけない。


 「なんだ? これは」とふらっと祭壇の様な方に向かって歩く堂本に注意をする。


「堂本! むやみに触るなっ」


 堂本が祭壇に近づいた瞬間、天井からの光が完全に真上に来たのか、光の束がピッタリと祭壇の形に合うようにまっすぐ上から照らされる。


 キィィィイイイ!!!


 その瞬間。祭壇も光に呼応するかのようにまばゆく光を発し、洞窟一帯を明るく照らす。眩しすぎる光の中で、俺は得体のしれない何かが体に流れ込んでくるのを感じた。

 そしてその力が溢れ出し、爆発するかのような衝撃が体中を駆け巡り。


 ……そのまま意識を失った。






※長らくお待たせしましたが、ようやく新作始めてみました。本当は追放ざまあでうっひゃ~ってしたかったんですが、書き進めるうちになんか違う感じに……。

プロット作らないオイラのやり方がいけないんだと、言われそう。


まあ、それでも一生懸命オリジナリティーのある作品へと頑張りますのでよろしくお願いいたします。

設定マニアのおいらの変な世界の話。

はじめの10話くらいは世界設定濃いめでございます。そこから物語が進行していく感じで。

まあ、色々言っても仕方ない。

始まります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る