スクナビコナとろくろ首③―再び山奥の屋敷への潜入!しかし前回とはわけが違うぞ!!―

『いやいや、スクナ殿、タケル殿とともに戦う機会を得られようとは。このハツカノミコト一党にとってはこの上ない名誉でございます』


 ハツカノミコトはスクナビコナとチュルヒコの横をいっしょに歩きながら嬉しそうに言う。その後ろからは大勢のネズミたちがつき従う。


 今スクナビコナとチュルヒコはハツカノミコトと百匹ほどのネズミたちとともに老婆たちが住む家を目指して歩いている。


 スクナビコナとチュルヒコはクエビコとともに老婆たちといかにして戦うか、についての方針を決めた。


 そのあと、まずはネズミの穴に向かい、ハツカノミコトとネズミたちに今回の戦いにともに参加してくれるよう求めた。

 ハツカノミコトたちはスクナビコナと〝ネズミタケル〟の頼みを快諾かいだくした。


 そして今はこうして〝大軍勢〟を形成してともに老婆たちの元へと〝行進〟しているのである。


『…それにしても……』


 チュルヒコは横目にスクナビコナの姿を見やりながらつぶやく。


『…やっぱりすごい姿だよね……』

「ふん、僕だって好きでこんな格好をしてるわけじゃないよ。これがあいつらと戦う上で最善の策だからこそやってるんだ」


 スクナビコナはチュルヒコの言葉に少し不満げに応じる。

 今スクナビコナはヨモギとショウブの葉を腰に巻いている帯と服の間に挟んだり、体にグルグルに巻きつけて、葉と茎の先で結んだりしている。

 そのため全身がほぼ緑の草で覆われており、チュルヒコならずとも異様と感じる類の姿になってしまっている。


『ハッハッハッ、まあ勝つことができればどのような格好でもよろしいのではありませんかな?』


 ハツカノミコトがスクナビコナに助け舟を出す。


「フン、そういうことだ!」


 こうしてスクナビコナと大勢のネズミたちは和やかな雰囲気のまま、老婆たちの家へと続く道を歩いていくのだった。



「…着いたぞ、あそこだ……」


 スクナビコナは前の方を右手で指差しながら言う。

 その先には家から漏れていると思われるぼんやりとした光が。


『…最初にここに来たときも確かこんな感じだったよね…。なんかあの光を見たら思い出しちゃって……』


 チュルヒコは緊張した様子で、初めて老婆たちの家を訪れたときとの類似を指摘する。実際、今は完全に周囲は暗闇に包まれている時間帯であり、最初のときとよく似た状況ではある。


「ふん、何言ってんだよ、チュルヒコ!あのときとは何もかもが違うぜ!あのときみたいに道に迷ってここに来たわけじゃないし、何より僕たちは準備万端整えてここに来てるじゃないか!」


 スクナビコナはチュルヒコの意見を打ち消す。


『ハッハッハッ、タケル殿。我々はここに来るまでに全ての用意を完璧にしてきた。そう信じることですよ。さもないと本来だったらする必要のない失敗をしてしまいかねませんぞ』


 ハツカノミコトはチュルヒコの不安を取り除くように、穏やかな調子で諭す。


『…ハハッ、…そうだよね。…僕たちはバッチリ準備してきた…。うまくいくに決まってるよね……』


 チュルヒコは自分自身に言い聞かせるように言う。


「…さあ、ここに立ち止まっててもしょうがないぜ。さっさと行こう!」


 そう言うと、スクナビコナは光に向かって歩き始める。そのあとには、チュルヒコとハツカノミコト以下、ネズミたちも続くのだった。



「…さて、と……」


 スクナビコナは家の扉から少しだけ離れた位置まで来ると立ち止まる。そしてくるりと

 後ろを向き、全てのネズミたちに向かって話しかける。


「とりあえずみんなはここまででいいよ。あとは当初の予定通り、僕一人で家の中に入るから」

『…スクナ、大丈夫……?』


 チュルヒコは不安そうにスクナビコナに言う。


「なあに、心配いらないよ」

『スクナ殿、油断だけはなさらぬように。それといざというときはいつでも我々に助けを求めてくだされ!』


 ハツカノミコトもスクナビコナに注意を促がす。


「ああ、もちろんだ!そのためにわざわざみんなにここまで来てもらったんだ。みんなには大いに活躍してもらうよ!」


 スクナビコナは最後にそう言うと、くるりとネズミたちに背を向ける。


「じゃあ、行ってくるよ!」


 そう言ってスクナビコナは再び家のほうを向くと、右手を軽く振りながら扉に向かってゆっくりと歩き始める。

 そんなスクナビコナの背中にネズミたちが、がんばれー、気をつけてー、などと声の大きさを控えめに抑えながら、声援を送るのだった。



「…だれかいませんかあー!」


 スクナビコナは家の入り口のすぐ前まで来ると、右手でドン、ドンと木の戸を叩きながら、大声で叫ぶ。

 すると戸の向こう側から、はーい、と返事をする声がかすかに聞こえる。それからしばらくするとガラガラー、という音とともに木の戸が開く。


「…あれ、誰もいない……」


 戸を開けた老婆はスクナビコナの姿を見つけることができず、辺りを見回す。


「…フッフッフッ。おばあさん、僕はここだよ!」


 スクナビコナは跳び上がって両手を振りながら叫ぶ。


「…おや、またあなた……!」


 老婆はスクナビコナの姿を見て前回同様に驚く。


「フフッ、これで会うのは二回目だよ。いい加減に僕のことをすぐ見つけてよ」


 スクナビコナはニコニコと微笑みながら老婆に言う。


「…今回はまたどうしてここに……?」


 老婆はいまだに驚きを隠せない様子でスクナビコナに聞く。


「また道に迷っちゃったんだ。だからここに泊めて欲しくて」


 スクナビコナはあっけらかんと答える。


「…そ、そう。…じゃあ、…とりあえず中に入って……」


 老婆は少ししどろもどろしたような様子で、スクナビコナを家の中に招き入れる。


「うん、ありがとう、おばあさん」


 スクナビコナは平然と家の中へと足を踏み入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る