スクナビコナとネズミ馬⑥―逃げるスクナビコナ!はたしてチュルヒコを救う妙案はあるのか!!―
「…ハアッ、ハアッ!」
スクナビコナは山道を必死で走る。
老婆がチュルヒコを外に連れ出したときに、途中で通った木の戸が全て開けっ放しになっていたために、スクナビコナは簡単に老婆の家から脱出することができた。
家を脱出したあとは、チュルヒコが老婆によって無理やり家から少し離れた馬小屋に押し込められるのも目撃した。
しかしスクナビコナはそんなチュルヒコと老婆に背を向け、家から逃げ出した。
もちろん本音ではなんとかしてチュルヒコを救い出したい。
だが今の自分には老婆に打ち勝ってチュルヒコを助け出す自信はまったくない。
下手なことをすれば自分のほうが老婆に捕まってしまいかねない。そうなれば今度こそ全てが終わってしまう。
だいたいなんとか無事にチュルヒコを助け出したところで、どうやってチュルヒコを元の姿に戻すかがわからない。
結局のところ今のスクナビコナはないないづくしの状態である。
それゆえ不本意でも自分の身の安全を第一に、老婆の家から脱出するほかない状況である。
「…ハアッ、ハアッ!」
スクナビコナは息を弾ませながら山道を全力で駆け抜ける。
走っている途中で一度だけ後ろを振り返ってみたが、自分を追ってくる人影は見当たらなかった。
どうやら老婆から逃げ切ることには成功したようである。
しかしそれでもスクナビコナは走ることを止めようとは思わない。
何しろいまだにチュルヒコは老婆に捕らわれたままであり、老婆はチュルヒコを容赦なく鞭で叩くような存在なのである。
今こうしている瞬間にも、チュルヒコが酷い目にあっている可能性は否定できない。
その事実がスクナビコナを〝全力疾走〟に駆り立てる。
そして走りながら考える。
今後自分はどうすべきなのか?
残念ながら、今後こうすればチュルヒコを助け出せる、という当ては一切ない。
それゆえ、ここに行けばいい、という見込みも皆無である。
そのためスクナビコナはまったく本能的に自分の家を目指すことにする。
スクナビコナはただひたすらに〝自宅〟への道を走り続けるのである。
「…着いた……!」
スクナビコナは息を切らせながら、ようやく自分の家の入り口の前にたどり着く。そして家の入り口の戸を開けて、家の中へと入っていく。
「…ただいま……」
『…お帰り。…うぬ、チュルヒコ殿の姿が見当たらぬな?』
出迎えの言葉を言ったウスヒコが、チュルヒコがいないことに気づく。
「…ああ、ちょっといろいろあったんだよ……」
そう言いながら、スクナビコナはツボの上に登って、ツボの中からワカメヒコを取り出す。
「…実はお前たちにおりいって相談したいことがあるんだ……」
そう言うと、スクナビコナは自分たちが昨日この家を出てから、再び今日ここに帰ってくるまでに起こった一連の出来事を全て説明する。
「…お前たちに頼んでもいい考えはないかもしれないけど…。僕はどうやったらチュルヒコを助け出せるんだろうか……?」
スクナビコナはウスヒコとワカメヒコに、なんとかチュルヒコを救うための知恵を貸してくれるよう懇願する。
『…うーむ、…チュルヒコ殿を助けるための考えか…。…残念ながらこのウスヒコには……』
『…うーん、…僕にも……』
ウスヒコもワカメヒコも異口同音にチュルヒコを救うためのいい知恵は思いつかないと答える。
「…そうか……」
彼らの言葉を聞いてスクナビコナは落胆する。ある程度は予想された答えだったとはいえ、はっきりと言われるのはやはり辛いものがある。
『…あ、そうだ!スクナ!僕今思ったんだけど……!』
そのとき、突然ワカメヒコが大声でスクナビコナに対して言う。
「ん、なんだ、ワカメヒコ?いい考えでもあるのか?」
『うん、このことをクエビコ様に相談してみたらいいんじゃないかな?』
「クエビコ様?」
『そうだよ!クエビコ様だったら僕たちには考えつかないような知恵をスクナに貸してくれるんじゃないかな?』
「そうか!確かにこの辺りにはクエビコ様以上の知恵者はいないな!早くチュルヒコを助けたいと思って焦ってたから、そのことをすっかり忘れてたよ!」
スクナビコナは自分の不明をぼやく。
『うん!スクナ、そうとわかったら善は急げだ!一刻も早くクエビコ様の元へ!チュルヒコは今でも苦しい思いをしているかもしれない……』
「そうだな!ありがとうよ、ワカメヒコ!」
そう言うと、スクナビコナは急いでクエビコの元に向かおうとする。
『あっ、ちょっと待って!スクナ!』
そんなスクナビコナをワカメヒコが呼び止める。
「ん、なんだ?」
『…チュルヒコを助け出せるのはきっとスクナだけだよ。だから頑張って!』
『うむ、ワカメヒコの言うとおりだ!スクナ殿なら必ずチュルヒコ殿を救えるとこのウスヒコは固く信じる!』
「ああ、ありがとうな!じゃあ行ってくるぜ!」
そう言うと、スクナビコナはワカメヒコをツボの中に戻し、ツボから降りて家から出ようとする。
その背にはウスヒコの、頑張れー、という声がかけられるのだった。
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