スクナビコナとアマカニ合戦①―困っているカニの親子!その身にいったい何が?―
「…うーん……」
スクナビコナはネズミ穴の一室で仰向けに寝そべりながらうなる。
『…ねえ、スクナ、…なんか最近暇だよね……』
やはりチュルヒコもスクナビコナのすぐ隣で、寝そべりながらぼやく。
「チュルヒコ、やっぱりお前もそう思うか?」
『うん、思うよ』
一月ほど前、スズメたちからもらった〝お宝〟のおかげで自分たちやネズミたちの〝食糧問題〟は解決した。
だがその代わりに、スクナビコナとチュルヒコの〝退屈〟という別の問題が生じてしまったのである。
「…なあ、チュルヒコ。クエビコ様のところに行かないか?」
『クエビコ様のところに?』
「ああ、僕たちにはなんの問題もなくても、この近くには何か問題があるかもしれないぜ」
『…そうか、…確かにそうかもしれないね』
「そうだよ!だからとにかくクエビコ様のところに行ってみようぜ!」
そう言うと、スクナビコナは飛び起きる。
『そうだね』
チュルヒコも立ち上がる。
こうして一人と一匹は連れ立ってクエビコの元へと向かうのだった。
「クエビコ様、来たよー!」
スクナビコナはクエビコの元に出向くと、軽くあいさつする。
『おお!スクナにチュルヒコか!久しいのう』
『お久しぶりです、クエビコ様』
チュルヒコもクエビコにあいさつする。
『ところでこのクエビコになんの用かな?やはり……』
「うん、このあたりに何か問題は?」
『うむ、すぐに調べてしんぜよう。アアアアアアアアアーッ!』
クエビコはこれまでにもやったようにうなり始める。
『ムウウウウウウウウウーッ!…出たあっ!』
クエビコは大声で叫ぶ。
「近くに〝問題〟があるんだね?」
『うむ、この近くにある小川の近くにカニヒコとカニヒメというカニの親子が住んでおる。そのものたちが困っているようじゃから、おぬしたちの力で助けてやるとよいぞ』
「わかったよ。チュルヒコ、行こうぜ」
『うん』
こうしてスクナビコナたちは近くの小川へと向かうのだった。
「よし、とりあえず着いたぞ」
スクナビコナとチュルヒコは小川に到着する。この小川は近くの田んぼに水を引く用水路の役割も果たしている川である。
「じゃあ、ひとまず川沿いに上流に向かって歩いてみよう」
『わかった』
この辺りは川のずいぶん下流にあたるため、海もすぐ近くにある。そのため一人と一匹は川を水源に向かってさかのぼっていくことにする。そうしてしばらくの間歩いていくと。
『…あれは……?』
「…カニが二匹いるみたいだな」
川のすぐ横に体の外側は赤く、内側は白いカニが二匹いる。そのうちの大きい方は仰向けに倒れており、苦しそうにしている。そんなカニを、すぐ横にいる小さい方のカニが心配そうに見つめている。
「…とりあえず行ってみようぜ」
『うん』
スクナビコナとチュルヒコは二匹のカニのほうに近づいていく。
「…おい、大丈夫か?」
『…ずいぶん苦しそうだけど……』
一人と一匹はまず倒れているカニのほうに近寄る。
『…あ、あなた方は……?』
すると、小さい方のカニがスクナビコナたちに話しかけてくる。
「僕はスクナ、こっちはネズミタケルだ」
『僕の名前はカニヒコです。こちらは僕の母のカニヒメというのですが……』
そう言うと、カニヒコは母のほうを心配そうに見る。
『君のお母さんはなんでこんなに苦しそうにしてるんだい?』
「…それは、…話すと少し長くなるのですが……」
そうしてカニヒコは母がこのように苦しむことになるまでに起こった出来事を話し始めるのだった。
それは今からずいぶん前の話です。
私と母はその日、一つのおにぎりを持って歩いておりました。おにぎりはクエビコ様の元に供えられていたものを、クエビコ様のご厚意によりいただいたものです。
そしてもう少しで川沿いにたどり着こうか、というところまで来たときのことです。
「おい、お前ら!」
『いい物持ってんじゃねえか!』
僕たちの行く手を遮るように立っているアマノジャクとドブヒコが声をかけてきました。
『このおにぎりは私たちがクエビコ様からいただいたものです!』
『そうだよ!お前たちなんかに渡さないぞ!』
「ハッハッハッ…、おいおい、勘違いすんじゃねえよ」
アマノジャクは肩をすくめながら言いました。
『クックックッ、そうですぜ。俺たちは何もお前らのおにぎりを盗もうってんじゃねえよ』
『なんですって?』
『じゃあどうしようってんだよ!』
僕はこいつらの意図がわからず、尋ねました。
「フッフッフッ、まあこれを見ろよ」
そう言うと、アマノジャクは右手に持っていた物を僕たちの前で見せました。
『これは?』
『何?』
「これは柿の種だ」
アマノジャクは怪訝そうに尋ねる僕たちに対して答えました。
「この柿の種とお前たちのおにぎりを交換しようじゃねえか」
『そ、そんな食べ物じゃない物とおにぎりを交換するなんて嫌です!』
『そうだよ!その柿の種はちっともおいしそうじゃないじゃないか!』
僕たちはアマノジャクの提案を拒絶しました。しかし―
「フッハッハッハッ!」
『クックックックッ!』
僕たちの言葉を聞くと、アマノジャクとドブヒコは腹を抱えて大笑いしました。
『な、なんでそんなに笑うんですか?』
『そうだよ、何がそんなにおかしいんだよ!』
「ハッハッハッハッ、こんなおかしい話はないぜ!」
『まったくですぜ!お前らはどうしようもないバカだ!』
『わ、私たちがバカ?』
『なんで僕たちがバカなんだよ!』
僕たちはアマノジャクとドブヒコの言葉に猛抗議しました。
「ハハッ、だって考えてもみろよ。お前たちが持っているおにぎりは食べてしまえばそれっきりだ」
『だが俺たちが持っている柿の種は地面に植えればやがて成長して木になる』
「そして木になれば木に柿の実がいっぱいなって柿を食べ放題だ!」
『それなのにお前たちはおにぎりにこだわり柿の種を受け取ろうとしない!』
「これでは筋金入りのバカとしか言いようがない!そう思わないか?」
『…う、…うーん……』
『…そうか……』
僕たちはうなりました。アマノジャクたちの言葉を聞いていると、だんだん自分たちのほうが間違っているような気がしてきたのです。
「さあ、どうするんだ?カニどもよ」
『こんなおいしい話を断ったら気が狂っているとしか思えないがな!』
『…うーん…、わかりました……』
『…わかった、交換するよ……』
「よっしゃあ、交渉成立だ!」
『クックックッ、これでおにぎりが手に入りやしたぜ!』
結局僕たちはおにぎりを柿の種と交換することにしました。
「そうそう、一つ言い忘れていたことがあったんだが……」
アマノジャクは〝戦利品〟のおにぎりを両手に持ちながら言いました。
「…その柿の種が木になり、いっぱい実をつけるようになるまでには結構時間がかかるぜ」
『クックックッ、まあせいぜい頑張ることだな』
そういった〝捨てゼリフ〟を残すと、アマノジャクとドブヒコはその場から立ち去りました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます