スクナビコナとおむすびころりん④―アマノジャク、クエビコのおにぎりを盗む!どうする、スクナビコナ!!―
「…ふん、あいつらはまだ来ていないみたいだな……」
アマノジャクはクエビコがいるすぐ近くの田んぼの辺りまでやってくると、周囲を見回してスクナビコナたちがまだここまで来ていないことを確認する。
『どうやらなんとかあいつらよりも早く着いたようですぜ』
アマノジャクよりもやや遅れてやってきたドブヒコが言う。
「まあ、ぐずぐずしているとあいつらもじきにここに来るに違いない。急ぐぞ、ドブヒコ!」
『へい!』
そして一人と一匹はクエビコのすぐそばまでやってくる。
『なっ、お前たちは!』
「よう、久しぶりだな、カカシ野郎」
アマノジャクとドブヒコはクエビコに気づかれても、不敵にそのすぐそばにまで近づいていく。
『クックックックッ、残念だったな、クエビコさんよ。これから俺たちが何をしようとも、身動きできない案山子のあんたには文字通り〝手も足も出ない〟だろうよ!』
『むむっ、お前たちこれから何をするつもりだ!』
クエビコは一人と一匹に対する警戒心をあらわに叫ぶ。
「なあに、大したことはしねえよ。ちょっとこいつをいただくだけさ」
そう言うと、アマノジャクはクエビコに供えられていたおにぎりを勝手に奪い取る。
『なっ、何をするつもりだお前たちは!それは近隣の者がこのクエビコのためにわざわざ作って、ここまで持ってきてくれたお供え物だぞ!それをこんな形で盗もうとは!この罰当たりどもが!』
クエビコはアマノジャクたちの行動を見て、その体を怒りにぶるぶる震わせながらわめき散らす。
「はん!お前はスクナビコナたちにはおにぎりを二つもやってたじゃねえか!だったらこっちが一つくらいもらったってなんの問題もないよな!」
『あれはあくまでもこのクエビコが許可してスクナたちに与えたものだ!お前たちのように無理やり盗むのとは訳が違う!』
『アマノジャク様、コイツがなんかあれこれ言ってきてますけど、もう無視しちゃっていいんじゃないですかい?どうせコイツは俺たちからおにぎりを奪い返すこともできないわけで……』
「そうだな、こんなここから一歩も動けないヤツをもうこれ以上相手にしててもしょうがない」
『ええ、おっしゃるとおりです。さあ、スクナたちがここにやってくる前にさっさとここからずらかりやしょう!』
「よし、ドブヒコ!再びネズミの穴に引き返すぞ!」
『承知しやした!』
こうしてアマノジャクとドブヒコはクエビコへのお供え物であるおにぎりを奪ってその場から逃走してしまう。
『こら、待て!アマノジャク、ドブヒコ!誰か、この不届きものどもを捕まえてくれ!』
そしてその場にはクエビコの悲痛な叫び声がむなしく響くのだった。
『…誰かー、…来てくれー……!』
「なあ、チュルヒコ、なんか声が聞こえないか?」
のんびりとクエビコの元に向かって田園地帯を歩いていたスクナビコナが、遠くから聞こえる奇妙な声に気づく。
『うん、確かに。…助けを求めてるみたいな感じだ』
「ちょっと声のしたほうに行ってみないか」
『うん、でもまた声が聞こえるかも。耳を澄ましといたほうがいいんじゃない?』
「そうだな」
スクナビコナとチュルヒコは声のした方向に向かって歩きながらも、よく耳をそばだててみる。
『…おーい…!…スクナ…!…チュルヒコ……!』
「…おい、なんか僕たちのことを呼んでないか?」
『っていうか、声の主はクエビコ様じゃないかな?だいたいこの辺りってクエビコ様に会った場所からそんなに離れてないよね』
「よし、声がしたほうに急いで行くぞ!」
『わかった!』
こうして一人と一匹はクエビコと思われる声の主の元へと急行するのだった。
『おお、来てくれたか!スクナ、チュルヒコ!』
クエビコは駆け寄ってくるスクナビコナとチュルヒコの姿を見て非常に喜ぶ。
「クエビコ様!」
『何かあったんですか?』
『うむ、実はな、お主たちがここに来る少し前に……』
クエビコは一人と一匹に自分へのお供え物であるおにぎりが、アマノジャクとドブヒコによって盗まれたことを説明する。
「…ふざけたやつらだな」
『ひどいね』
スクナビコナとチュルヒコは話を聞き終えたあと、思い思いの感想を口にする。
『今となってはもはやおにぎりを取り返すことは難しいかもしれん。だがそれでもあやつらの行動をこのまま見逃すわけにはいかん。断じてな!』
「クエビコ様はあいつらのことについて何か知ってることはあるの?」
『アマノジャクとドブヒコか。アマノジャクは頭に一本の角を生やし、全身の皮膚の色は黒く、腰に皮の腰巻を巻いている小鬼。ドブヒコは灰色の毛をしたドブネズミ。両方とも体の大きさはちょうどお主らと同じくらい。この辺りでは色々と悪事を行っていることで有名じゃ』
『具体的にどんな悪事を?』
『それはお主たちが今後もこの地にとどまっていればおいおい耳にすることになるはずじゃ』
「ふうん、そうか…。じゃあクエビコ様、あいつらがおにぎりを盗んだあとどこに行ったかはわかるかな?」
『あいつらが行った場所、ふうむ…、そういえば、あいつらは〝ネズミの穴〟に行くようなことを言っておったぞ』
『…〝ネズミの穴〟って…、まさかハツカノミコトたちの……』
「ああ、このあたりでネズミの穴って言ったらあそこ以外考えにくいな」
『あいつらが普段から悪事を行ってるような連中だったらあそこでも……』
「ああ、何かとんでもないことをしでかすかもな」
『それはマズイよ!せっかくあそこのネズミたちとは仲良くなったし、今後も僕たちに協力するって約束してくれたのに……』
「そうだな、これは絶対に放っておけない。よし、チュルヒコ、大急ぎでネズミの穴に行くとしようぜ!」
『うん!』
『スクナ、チュルヒコよ。アマノジャクたちは何かと悪知恵の働くやつらじゃ。くれぐれも油断するでないぞ!』
「もちろんさ!」
『わかりました!』
クエビコの言葉にスクナビコナもチュルヒコも力強く返事する。
『それさえわかっているなら十分じゃ!さあ、アマノジャクたちを懲(こ)らしめてくるがよい!』
「よっしゃ、行くぞ!」
『クエビコ様、行ってくるよ!』
こうしてスクナビコナとチュルヒコは全速力でネズミの穴へと向かって走り出すのだった。
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