スクナビコナとネコ退治①―突然のネコの襲撃!さあ、どうする?スクナビコナ、チュルヒコ!!―

「はっはっはっはっ、いやー、旅ってのは楽しいな」

『…はあ……』


 スクナビコナとチュルヒコは湖に沿って北西に向かって歩く。スクナビコナは本当に愉快そうに。チュルヒコは本当に気が重そうに。

 天を見上げると、相変わらず雲一つない青空がどこまでも広がっており、太陽は天高く昇っている。


『…それにしてもスクナは本当に汚いよ。僕の弱みにつけこんで……』


 チュルヒコはスクナビコナに強引に従わされたことを愚痴る。


「ははっ、言っておくけどな。僕はお前に意地悪をしてやろうと思ってこんなことを言ったんじゃないぞ。お前のことを心から心配して、たくましくなって欲しいと思ったからこそ言ったんだ」


『…絶対にそんなこと思ってないだろ!』


「うん?何か言ったか、チュルヒコ?」


『…いいや、何も……』


「そうか、ならいいんだけど……」


 このあとも二人はひたすらに北西へと歩みを進め続ける。スクナビコナは足取り軽く。チュルヒコは足取り重く。


「…おっと、ここで行き止まりか……」


『うーん、この先には歩いてはいけないね……』


 一人と一匹の行く手を水の流れが阻む。


「美保に行くにはここを渡らなくちゃならない」


 そう言うと、スクナビコナは水流が流れているその先を指さす。その先には陸地が見えている。


『向こう岸はそんなに遠くないね。小さな舟でもあれば十分に渡れそうだ』


「うん、そうなんだけど。ただ……」


 そう言うと、スクナビコナは太陽のほうを見る。

 日はかなり西に傾いており、日没までにそんなに長い時間はありそうにもない。


『うーん、そろそろ泊まる場所を探したほうがいいかな?』


「そういうことだ」


『あてはあるの?』


「ああ、ここから東に行けば小さな村があったはず。ひとまずそこに向かおう」


『わかったよ』


 こうして一人と一匹は東のほうへと歩みを進めるのだった。



『…ふーん、地上の人間の村ってこんな風になってるんだね……』


 チュルヒコは生まれて初めて見る村の風景を物珍しそうに見る。

 もうかなり日が傾き、夕暮れ時になる中、スクナビコナとチュルヒコは村にたどり着く。

 村にはネズミ程度の大きさしかない一人と一匹にとってはかなり大きな存在、いわゆる普通の人間が何人か歩いている。

 また周囲を見回してみると、舟が水辺に浮かんでいるのが見える。どうやらここは漁村であるらしい。


「…さて、と。問題はここからどうするかなんだよな……」


『…スクナ、ひょっとしてこれからどうするのか何も考えてないの?』


「ふん、僕だってなんでもかんでも考えてるわけじゃない!」


 スクナビコナはチュルヒコの疑問にキレ気味に答える。


「…うーん、…そうだな、とりあえずこの村で一番大きな建物を探してみよう。おそらくそこはこの村で一番に偉い人が住んでいるか、一番食料がため込まれている倉庫のどちらかだ」


『うん、わかった』


 こうしてスクナビコナとチュルヒコは村で一番大きな建物を探し始めるのだった。



「どうもここがこの村では一番大きな建物みたいだな」


『外から見た感じだと倉庫っぽい建物だよね』


 スクナビコナとチュルヒコはこの村で一番大きな建物の入り口の前に立つ。

 この倉庫のような建物は床が地面からいくらか離れた場所にある。いわゆる高床式倉庫というやつである。


「ああ、おそらく米か何かが中に蓄えてあるんだろうな」


『…うん、倉庫の入り口の辺りに何かいるみたいだよ。…今は横になって眠っているみたいだけど……』


「ああ、あれはネコだ」


『…ネコってまさか、…ネズミの天敵だっていう……』


「…ああ、そのまさかだ……」


 スクナビコナがそう言った瞬間、眠っていたネコが目を覚ます。そしてすぐにチュルヒコのほうに視線を向ける。


「…まずいな、においか何かで気づかれたみたいだぞ」

『…えっ、どどどど、どうすればいいの?』


 スクナビコナとチュルヒコがそう言った直後、四本足ですっく、とネコが立ち上がる。そしてニャオー、と叫び声を上げながら、一人と一匹のほうに猛然と走ってくる。


『わわわわ、こっちに来るよ!』

「こりゃあ、ひとまず逃げるしかない!」

『に、逃げるって、どこへ?』


 チュルヒコとスクナビコナがいずこかに逃げようとした、そのときである。


『こっちです!』


 建物の床下から何者かの声がする。


『えっ、だ、誰?』

「チュルヒコ、とにかく床下のほうに行くぞ!」


 一人と一匹は必死に声のするほうへと走る。


『こっちです、早く!』


 よく見ると、声の主は栗色の毛をしたネズミである。


『…き、君は?』

『話は後です、さあ早く、私の後に!』


 ネズミはチュルヒコの言葉をさえぎり、自分についてくるようにうながす。


「おい、チュルヒコ、こいつの言うとおりにするんだ」

『わ、わかったよ!』

『ニャオー!』


 スクナビコナらが話をしている間にも、ネコはスクナビコナたちを追いかけており、床下にも侵入してくる。


『わっ、こっちに来る気だよ!』

「くそっ、大丈夫なのか?」

『こっちです、さあ、この穴の中に!』


 ネズミはそうスクナビコナたちに言うと、自分は穴の中へと入っていく。


「よし、チュルヒコ、僕たちも続くぞ!」

『えっ、…こんな暗い穴の中に入るの?』

「この状況でそんなことを言っている場合か!さあ、行け!」

『わっ、ちょっと、うわー!』


 チュルヒコはスクナビコナによって無理やり穴の中に押し込まれてしまう。

 そうしてそのあとから、スクナビコナも穴の中へと入っていくのだった。

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