第45話「探索の王都ハウゼン」

 僕は、夜な夜な貧民街を中心に警護活動を続けていた。

 ずいぶんなブラック労働だけど、今の僕はスヤスヤと寝ている状態なのだ。つまりアバター化身具現は寝なくても活動できる、二十四時間戦える体なのだ。


 そしていつもの夜。

 仕方ないなあ。やるかー。人気のためだ。

 学校に行く時も、とにかく何かをする時の気分はみな同じだ。

 さてさて、子供の夜遊び開始ですよー。

 気持ちの切り替え完了。

「ばふばふーっ!」アバターッ!


 屋敷正面には人が大勢いる。裏手から出て、林の中に入り飛ぶ。貴族街の壁を越えて着地すると、ピンク子猫が肩に乗った。

『ずいぶんと魔力使いが上達したであるな』

 分かる? 成長期だし、僕は優等生だね。

 最小の魔力で最大の動作。コツはなかなか奥深い。

 今夜はどこに行こうかなあ。

『戦いは森の深部である。街が手薄なのが、やはり心配である』

 街で待機かあ。まっ、いいけどさ。

『おかしな魔力を感じたである』

 貧民街で?

『そうである。以前つかんでいた気配である』

 早速だね。ああ、そういえば前に言ってたね。

 目立たないように、いつものように路地裏を進む。

『複数接近中である』

 じゃあ行きますか。

 僕は飛び上がり、街壁の上に降り立った。兵士たちが早速こちらに来ます。左右から数人が走ってきた。

 突然現われた怪しい人だしね。

「おい! こいつって手配書にあったヤツだろ?」

「そうだ。話題の勇者仮面だ」

「味方だから攻撃してはならない、の手配だぜ」

「これが敵じゃないなんてな」

「クマ人形は女、子供に大人気だけど、こっちはなあ……」

 何も知らない雑兵たちが勝手なこと言いやがって。助けてあげないぞ! 人形の販売は再開したし、僕はこれからなんだ。

『その話は後回しであるぞ』

 分かってるよお。雑兵ムカつく。絶対酒場で僕の悪口を言ってるタイプだよ。

「君たち。魔獣がたくさん接近中だ。ここは危ないぞ」

「魔獣?」

「阻止線では何も起こってないようだが……」

 兵士たちは暗い森に目を凝らす。そりゃ、そっちを見ても何もないよ。

 ピンク猫は西の夜空を見ていた。以前に警告していた、厄介な魔力がやって来るのだ。

「今見せてやる」

 僕は光の玉を作り思いっきり振りかぶる。夜空に向かって投げた。

 はじける光に、いくつもの小さな影が映し出される。飛行する小物の魔獣。蝙蝠みたいだ。

 さあ、試してみましょうか。魔導弾!

 僕は広げた両手をつきだす。指と指の間に魔力を込める。その手を思いっきり後ろに引いて――、振り抜くっ!

 指の間に三つ、それが八列で合計ニ十四弾。左右に分かれて飛んでから、群れの中でクロスした。蝙蝠たちはバタバタと墜ちる。

 これが十字砲火ってやつさ。

 この群が一気に侵入すれば、王都はとんでもない混乱に巻き込まれていただろう。壁は空からの攻撃には無力だ。

『なぜこのような技を使えるのだ?』

 マンガの応用だよね。異能とかスキルとか、そんなのばっかなんだよ。

『スキルはこの世界にもあるが……』

 想像の力で、現実にはないんだけどね。

 蝙蝠魔獣は数にまかせて突っ込んでくる。僕は次々に指の魔力弾を打ち込んだ。

 これは虐殺ってやつだね。突撃は止められないのかな?

『操られているである』

 例のヤツか。まあ、こんなもんでしょう。

 あらかたの蝙蝠を落とし、とりあえず撃ち方止めとする。


 隊長らしき人が近寄ってきた。

「すごいものだ。このような場所を守って頂き感謝する」

「いや。こっちの都合もあるのでね」

 まあ、行きがかり少女というか、知り合いがここを手伝っているから、この辺がめちゃくちゃになったら僕も困るんだよなあ。

「この地に思い入れのある兵も多い。助かったよ」

「気にする必要はないぞ。こちらの事情だ」

 教会としても信者は平等に扱わなきゃいけないけど、やはり庶民でも裕福な信者を優先対応しなければならない。

 生き延びた数羽が飛んでいる。人差し指で狙いをつけて魔力を発射。撃ち抜いた。


 寄付の額やらまあ、大人の事情ってやつだね。ここが手薄なのは仕方ないよ。

 騎士団は貴族を優先的に守る。金持ちの商人はクエストとかで冒険者に守ってもらえばいいし。

 続いてもう一匹の蝙蝠に狙いを定める。そして撃ち抜く。


 公平公正なんて、ただ差を産むって思っている。多少贔屓したりして、やっと昔のぼくみたいな主流になる。それができないのなら――。

 じゃあどうする? 僕は獣にも鳥にもなれなかった、今は魔獣と呼ばれる生き残りを次々に墜とす。


「ここに思い出のある者も大勢いるしな」

「ん? 森のクマさんとやらもそうなのかな?」

「かもしれんな」

「ふむ……。俺は違うがな」

 頑張ってくれたまえ。いざとなったら俺も助けに来るぞ。この貧民街が必要な人は多い。

「力になる。クマもそう考えているのだろう」

 更に一体。続けてもう一匹――。ここはやっぱり陽動だよ。

「すげえな……」

「ああ。あんな小さい的に……」

 ふう。こんなもんか。こっちは一段落だな。

 多少の撃ち漏らしはあるが、ほぼ全滅できた。何匹か入ってきても、たいした脅威にはやらないだろう。後は雑兵の皆様に任せようか。

 ここの営業は終了だ。なんとか成績に結びついてくれよ。

 次の予定は街だ。

 ん?

 森の木々のあいだに黒い影。ユルクマがこちらを見上げていた。ああやって人知れず警戒しているんだな。とにかく目立ちたい僕とは逆の行動だけど、あれでけっこう目立ったりするんだよなあ。

 人気とはなかなか、奥が深いものだ。


  ◆


 再び路地裏を走る。魔力は節約だ。でも他人のお金と力は使え。

 あの女子記者はなかなか優秀だな。あれ以来様々な場所で聞き込みをし、魔獣の目撃情報を探していた。そして人が行方不明になった場所も、ある程度特定していた。

 場所が絞られたなら、後は勇者仮面の出番だ。


 僕は少し飛んで、庶民街の教会の塔の上に降りた。

 大勢人が住んでいるんだなあ。ここには……。

 ここは王都ハウゼンだ。ここを壊滅させれば、この国を手に入れることができる。

 ふむ……。単なる騒乱じゃなくて、他の一手を? 誰かが計画した陽動?

『狙いは王都である。ならばやはりここで仕掛けるはずである』

 街壁への攻撃は作戦なんだな。

『それゆえに、意見が割れる』

 うん。大聖女の人たちだね。守ると攻めるか……。

 人間の欲望は、どこの世界かなんて関係ない。本質が同じ世界を作り出すんだ。僕はなぜかホッとした。異世界から来た人間として、少し疎外感が薄れたからだ。

 この騒動にも欲がある。


 人が寝静まる深夜となり、僕はその場所へと静かに移動する。

『ここを調べるである』

 了解……。

 倉庫のような建物。中に人がいないなら、魔獣が潜んでいても気づかれない。

 すーっと、壁を通り抜けて内部に侵入する。アバターって、こんな時は便利なあ。

 中は荷物が入った木箱が積まれているだけだった。奥の扉を開けて隅々まで確認する。

『地下室はないであるな』

 うん。床にそれらしき扉もないし、下には行けないよ。

 シャンタルは漏れてくる魔力を探している。地下は探知しにくいのだ。

 じゃあ次に行く?

『そうするである』

 地道に敵を探すしかないか。勇者仮面の人気のためだ。

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