第43話「ざまあされ担当、二人組」
僕たちは街壁の上に登った。フェリクス&スミッツペアは、僕のベビーカーを持ち上げる。初めての二人の共同作業。息もぴったりだ。
壁に寄り添うように粗末な建物が密集し、先には起伏のある森が広がる。開拓しても農地には使えなさそうだ。
ここは王都でも、特に危険地帯に突出した壁と言える。
なるほど。森の木が何ヵ所か伐採され、そこに砦が造られ小屋が立っている。その先には切った木を利用した冊が作られていたが、いかにも貧弱だ。
あそこがここの最前線か。
「仕事を探しに、地方から来た人たちが大勢住んでるのよ。半年だけここで暮らして、半年は家族の元に戻る暮らし。農作業もあるし」
「それと地方からやって来た、若い冒険者たちだね。彼らが頑張ってくれているから王都が守られている。冒険者ギルド経由で、王政からのクエスト報酬も出ているよ」
まあ、どこの世界の都市問題も同じだよね。
おじさんはこの景色を僕に見せたいと言ったけど、僕はもっと高いところから散々見てるんだよな。でもいつも夜ばっかりだから、昼間の森は初めてだよ。ありがとう。
「おいおい。スミッツじゃねえか」
「貧民地区担当騎士かあ? あははは……」
冒険者ふう衣装の、若い二人組がやって来た。見覚えのある男たちだ。
やれやれだ。こんなところで、こんなイベントか? 面白いね。
「知り合い?」
叔父さんは怪訝な顔で女子騎士に目配せする。微笑が消えた。
「ええ。まだ王都にいたのですか?」
「こんな面白い戦い、捨てて帰るわけねえだろが」
「領地に帰ったって、田舎は暇なんだよ。雑魚みたいな魔獣しか出ねえし」
あの程度の魔獣に、全く歯が立たなかった二人が何をエラソーに。
今なら分かる。ワンパンスミッツはこの二人に気を遣って戦っていたから、あんなことになってしまったんだ。
まあ、コイツらこの物言いだし相当ストレスも溜まってたんだなー。
「それで冒険者に、ですか……」
「そうだよ。大っぴらに戦える」
「報酬も出るしな。まあ、ゴミみたいな金だけどなあ」
「騎士なんて規律ばかりで、やってらんねえぜ。そいつは誰だ?」
おっと、本能が僕と叔父さんを脅威と感じたようだね。
「僕はここの雑用クエストを引き受けた、冒険者ですよ」
「ばぶー。ばばばぶぶー。ゆー」僕はブラウエル家の嫡子。将来はこの世界を救う勇――……。
「雑用ね。薬草採取とかか?」
コラー。僕の話を最後まで聞けーっ!
「いやスライム退治じゃないか?」
「ぷっ」
「わははっ」
薬草クエストとかもあるし、スライムってやっぱいるんだな。新たな発見だ。スライムはぜひ見てみたい。僕も弱かったらそこから始めるはずだ。
「下級貴族だしな。なんだ、その目はよ」
スミッツは燃えるような目で二人を睨んでいる。まずい。本気で怒ってるじゃん。深呼吸、深呼吸。
「スキル不意打ち、だもんなあ」
「はっ、笑っちゃうぜ。やんのか?」
このバカお坊ちゃまたちは、今でも実力差を理解していないのだ。やれやれだね。
しばし睨み合いが続く。
おっと残念。巡回の兵士さんたちが、こちらにやって来た。
「チッ、行くぜ」
「おう。またな、下級ども……」
スミッツ嬢は息を吐き出して、肩の力を抜く。
「大丈夫かしら? あいつら冒険者になったって言ってたけど、多分嫌がらせとかしてくるわ」
ふーむ。なかなか面白い展開になりそうですな。
「この街に来て冒険者ギルドに登録しましたけどね。僕はカテゴリーAだそうですよ」
「まあっ!」
へえ、やっぱお母さんと同じで強いんだね。さすが僕の叔父さん。
「パーティーの仲間もいます。あいつらは何もできませんよ。そちらは赤い流星団だしね」
「聞いたのね」
「弟ですから」
「騎士をクビになって、私も冒険者に戻ろうかな?」
「この騒ぎを早く終わらせて、学院に戻りましょう」
「そうね。忘れてしまいそうだわ」
二人は笑い合った。僕も何だか学校が懐かしいよ。この世界の学校でもいい。いつになったら戻れるやら。
「ところであいつらは誰なのかな?」
「地方侯爵と辺境伯の息子。幼なじみみたい。見習いで騎士団に研修に来てたけど、クビになっちゃったのよ」
「それで冒険者にね……。王政に不満があるのかな?」
「まさか。それはないわ。そこまでの頭はないみたい。見てのとおりよ」
「なら、良かった」
「ただの田舎者よ」
「上級だけどね」
飛んで火に入るざまあの相手。盛り上げ担当の二人が登場した。
さてさて。どこで懲らしめてやろうかなあ。
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