第32話「人気のために戦うぞ」

 僕を戦いへいざなう夜がやってきた。部屋にピンクの子猫が迎えに来る。こちらもやる気は十分なのではあるが……。

 まずい、まずいよ!

『何が、であるか?』

 人気がないんだ。このままじゃ……。

 なるべく人目のあるところで戦わなければならない。できるだけ目立たなければならない。それが戦いだ。

『何の話であるか?』

 これからどういう王都を守るか、についてだよ。

『効率よく、重要な場所を守る。それが今回の防衛戦の重要項目である』

 それだけじゃダメなんだ。地味な戦いじゃ、人形の売り上げに響く。

『くだらない、であるな』

 僕は将来の出世が約束された聖女とは違うんだ。まずは知名度を上げなくちゃ。

『くだらないであるな。指示はこちらが出すから従ってもらうである』

 二度もくだらないと言われてしまった。

 できれば街壁の内部で戦いたいなあ。

『戦況は逼迫している。より防御に徹しなければならない。必然的に街に侵入した魔獣を撃退することになるかと思うである』

 それでいこう。でも貧民街はアンチが多いからなるべく行きたくないなけど……。

『やれやれである』

 やれやれ? 僕の思考が移っちゃった?

『真似たである』

 防衛戦闘っていうのは厄介だね。相手は好きなところを攻撃できるけど、こちらは戦場を選べない。

『さあ、行くである』

 モチベーションっていうのは大事なんだ。つまり成果が上がらないとやる気も出ないし、力も発揮できない。ぱーっと活躍できる舞台が必要なんだな。

 僕は褒めて育ててもらうのに、馴れきっているんだよね。実際そんな場合はほとんどなかったけどさ。

『アルデルトの力も成長も素晴らしいである』

 とってつけたように……。

 まあ、とにかくやるか。アバターっ!


 僕は池袋的な地域に向かうよう指示された。

 ここが新宿なら、そこは池袋になると思っていたが、現実ほど距離は離れていない。まあ、交通手段は馬車と徒歩だから、感覚的にはそれぐらい離れてるって感じかな。電車がなければ都市の広がりもこれぐらいなのだろう。池袋は王都の西地区だ。

 静かなのですねえ……。

 戦いの気配は感じない。人気取りができる場所はないようだ。

『戦闘はかなり遠いであるな。防衛線は上手くいっているである』

 ふーん、今夜は暇だね。ちょっと先を覗きに行ってみようかな。

『巡回警備は有効である』

 よしっ!

 その更に西は、東京都の境界線を北に越えたような地域である。アンチに見つからないように偵察してやろう。

 人目を避けて裏路地を進みながら貧民街に接近した。建物の影に隠れてこっそりと覗く。

 篝火と魔導の光が貧相な小屋を照らしている。多くの貧困層たちが武装していた。古い剣を持ちボロボロの軽装甲などを身に付けて物々しい雰囲気だ。

 これはもしかしてクーデター? 貧民革命がついに始まるのか!?

『ただの自衛行為である』

 他の庶民街とは違うんだな……。

 意識しているかどうかわからないが、ここは兵の動きや配置も鈍いようだ。それはいけませんなあ。

 優先的に貴族街を守るのは当然だし、金持ちの商人やそんな人たちを手厚く保護するのも理解できる。仕方ない現実なのかもない。

 まっ、貧民街だしね。自立心を養うために、ちょっと突き放しているんだな。頑張れよ。

『そうもいかない。ここが抜かれれば王都全体が侵食される』

 魔獣が動物で助かったよ。でもなんで王政は、そこんとこ気が付かないの? うーん……。

 あっ!

 ユルクマアバター化身具現がやって来た。住民たちは片手を上げたり、気軽に挨拶したりしている。クマもまた手を上げてそれに応えた。立ち止まって雑談を交わし、住民には笑顔なども見える。

 営業活動か……。これが人気の秘密なんだな。こうやって貧乏人たちにユルクマ人形買わせているんだ。

『ここの防衛に参加しているであるな』

 お金持ちが援助活動なんかするのと同じ感じかな。やるじゃないか。なんて意識が高いんだ。

 しかし馴染んでいるな。

 子供たちがユルクマを見つけては寄ってくる。あの丸い手で頭をなでたりしている。手をつないで歩き始めた。何と言うサービス対応、まるで人気アイドルだ。くやしい。

 あれはシャキーンと爪が伸びたりしてとっても凶悪なんだぞ。騙されちゃいけないよ。子供たち。

 僕も貴族街で営業してみようかな……。

 さて、覗き見していてもしょうがない。

 今日は、王都は大丈夫なんじゃない。どこか僕が活躍できる場所はないの?

 着実に営業しているユルクマ。僕は焦った。このままじゃ、差が開くばかりだ。相手に媚びまくってでも大衆の心をつかまねば。

 ピンク猫は西の夜空を見る。

『あの先で厄介な魔力が集結しつつある。今夜は来ないであろうが……むっ!』

 来た?

『一体、東の街壁を越えたである』

 逆かあ。越えられた? ガバガバじゃん。王政は何やってんの!

ステルス隠密持ち魔獣である』

 よしっ行くぞ。あっ!

 ユルクマが走り出した。

 ずるいぞ。抜け駆けしようだなんて。だけど僕は空を飛べる。ずっとこっちが早いもんね。発進っ!

 ギャグ走りをしていたユルクマは、滑るようにスピードアップ。ホバリング走行のように街の道路を激走した。

 あれ何? 前は使ってなかったよね。

『最小の魔力で浮き上がり、最小の噴射で移動する素晴らしい魔導である』

 ほーっ。敵ながらやるじゃん。普通かな?

『前回は魔力切れを起こしていたのである』

 でもこっちが速いよ。スピード、アーップ。

『魔力を絞るである』

 おっと。こっちの魔力が切れてしまう。注意、注意。

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