第25話「ぬいぐるみ戦闘」

 王都の街壁を越えると、またまた庶民街の大通りに二本足の恐竜みたいなヤツがいた。二階建くらいの巨体が、兵士たちに囲まれている。

 子供が! 

 すぐそばに人がうずくまっていた。襲われているみたい。

 また幼女だ。縁がありすぎだよ。

 真っ直ぐ降りてそのまま頭に剣を突き刺す。頭部が爆砕し、後ろにキーック! 恐竜君をそのまま倒した。幼女の前に降り立ちしゃがみ込む。

「大丈夫かな?」

 おっと、声が出た。すごいじゃん! 僕は進化したぞ。

「うん、クマさんが助けてくれたの」

 なゃにぃ! この子、ユルクマ人形を抱いている。

「いやあ、助けたのは僕かな?」

「ううん」

 と横に首を振る。分かっていない子供だなー。

「あれ~」

 と後ろを指差す。

 はっ!

 建物の影から、等身大のクマ着ぐるみがこちらを見ている。

 つまり、僕が来たからクマは逃げた?

 いや。先に幼女を助けたのがクマ? 僕は二回目の危機を助けた? そんな感じかな。

 ユルキャラのイベントでもやってたのかなあ。中はアルバイトとか――。

「あれは魔獣かなあ? 動物だし」

「森のクマさんよっ!」

 幼女に怒られた。う~む……。

「大丈夫、早く逃げてっ!」

 おっとー。女子騎士さんが駆けつけてくれた。幼女の保護は任せよう。

「じゃあね。あのお姉さんに助けてもらって」

「クマさんと仲良くしてねー」

「僕は人見知りするタイプでさあ……」

「ダメよ~」

 また怒られた。とにかく僕は謎のユルクマ追跡だ。

「うわあー」

「こいつ変化した」

「魔力を込めろ」

 突然後ろの兵士たちが盛り上がる。

「なに?」

 振り返ると、兵士たちが槍を突き立ている恐竜の体から、触手が生え出していた。

 気持ちワリ~。あれで死なないんだ。あとは任せた。

 魔獣の後始末は、僕の仕事じゃないし。

 こっちが優先。とにかくクマさんを追う。行き先は気配で分かる。路地裏に入り、こちらをまこうとしている。甘いな。

 おっ。見つけた。

 相手はまんまぬいぐるみ体なので、ギャグみたいな走りだ。簡単に追いつける。

 しかし……。首回りと背中にチャックがあるよ。中に人が入ってるー、とちびっ子たちにツッ込まれるヤツだな。

 まさかユルクマが存在するなんて。デザインを真似た? 参考?


 相手は庶民街を抜けて、周辺はかなり貧民街(僕の主観)っぽくなってきた。王都にはこんな所もあるんだ。貴族街住民の僕には社会勉強だなー。

 逃げられないと止まったユルクマが振り返る。丸い両手からシャキーンと爪が伸びた。

 クマはやる気だ。こちらも剣を抜く。

 気がついた貧民住人たちが集まって来た。野次馬根性丸出しである。貧乏はこれだ。危ないよ~。

「皆さん。逃げてください!」

 もうすぐここは戦場になる。離れてもらわないと、巻き込んでしまうかもしれない。

「頑張れー。クマさーん」

「負けるなクマさん」

 あれ? クマ人気?

「帰れ。黒いのっ!」

 鎧の色・・・を中傷されてしまった。

「悪党は出て行け」

 悪党? 僕? 偏見じゃね?

「クマさんは悪くないぞ」

「ファイッ! クマさん」

 なんとなんと、なんとクマさん大人気~っ! ユルさが貧民に大人気!

 一方の僕は暗黒の鎧。ビジュアルで悪役確定。

「いたぞ!」

「魔人だーっ」

 げげっ! 一般兵士までやって来た。僕魔人じゃないし。

 まずいじゃん。逃げようっと。

「とうっ!」

 空を飛べば人もクマも兵士も追えまい。やれやれだ。

 あのクマもアバター化身具現だよなあ。

『そうである』

 それにしても、ぬいぐるみ? 僕みたいなのばかりだと、思ってたけど。

『魔獣は引き始めたようである』

 帰ろうか。疲れたよ~。

 なんだか達成感がない戦いだったな……。

 しかし、話せるようになったのは助かる。このアバター化身具現とやらは成長するんだ。

 コミュ問題を抱えていては、黒騎士人気は盛り上らないしね。

 でも戦いが進化をうながすのかなあ。ちょっと嫌。ラノベのテーマみたい。


 貴族街に脅威の侵入はないようだが、我が家は騒然としていた。まあ、そりゃそうだ。

 人目を避けつつ僕は部屋に帰る。

 眠い。体の中に戻ると猛烈な睡魔に襲われた。赤ん坊にはハードワークすぎるよ。

 魔力も体力みたいなものみたい。


 僕の戦士デビュー戦は散々な結果だった。その次の今回も、まるでヒール悪役のような展開になってしまった。

 ほとぼりが冷めるまで静かにしよう。どのみち僕の魔力では毎晩は夜遊びできない。

 遊びはしばらく昼間だけで我慢しようか……。

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