第14話「はいはいで冒険」

 僕は成長した。ついにスキル【はいはい】を手に入れたのだ。

 活動領域はベッドオンリーから絨毯の上、そして更なる外の世界へと広がる。

 まずは部屋の中をグルグルと【はいはい】し体を温める。

 ようし。すばらしいスキルだぜ。

 かなり早く動けるようになったぞ。これならイケる!

 本日は休日だけど、お父さんとお母さんは二人そろってお出かけなのだ。デートかねえ。

 ミルクタイムが終わり、ここからしばらくはお遊びタイムとなる。

 さて。やるか……。

 扉まで【はいはい】する。

「んーーっ」

 と手を上げて魔力行使っ!

 カチャリとドアノブが回り扉に隙間が開く。

 よーしっ。

 腕を入れて今度は腕力スキルを行使。

 ふふふっ。道は開けた。いざ冒険の大海に乗り出さん!

 シュバババッ。

 と【はいはい】で廊下を爆走する。イケる、イケるぞっ!

 おっ――。

 廊下の姿見に僕が映り込む。

 黒が混ざった茶髪、青い眼。これが今の姿だ。目の色はお父さん。髪色はお母さんから受け継いだ。

 まあまあのイケメンに育つかな?

 廊下の内装は、壁に絵画、剣などが飾られている。

 先に鎧が見えた。エントランスの手前まで行くけど、ここは人が来るからな。使用人たちは、この先で休憩中だ。

 僕は回れ右して逆に進む。シュバババッ。

 廊下の突き当たりは右に曲がっている。そのまま屋敷の裏側に進むと広い空間があった。

 そこの壁には剣やら何やら武器が並んでいた。窓から林が見える。裏口があり、外には修練場のような小さな空き地があった。

 組まれた丸太は模擬剣の仮想敵だ。矢を射る標的もある。

 なかなか……。僕も早くここで鍛えたいものだね。

 ソファーセットとローテーブルがあって、休憩や接客もできるみたい。そして壁には大きな絵が飾られていた。

 伏せた状態で僕は思いっきり首を上げた。

 男性四人、女性三人の合計七人が何やら黒い塊を背にしている。

 端っこには、こちらを見ているような目がギラリと光っていた。

 スゴイ! これは黒いドラゴンだ。討伐記念の絵画なのかな?

 右端にいる少年と少女は、お父さんとお母さんの面影おもかげがある。中学生ぐらいごろだろうか? 二人は緊張している。

 そして左側にいる五人。はじけるような笑顔の女子とすまし顔の女子。笑っている男子と、おどけている男子。厳しい目つきでこちらを見ている男子。ぱっと見ただけで彼らが強いと分かる。

 仕留めた獲物の存在感は別にして、僕の目がそう感じているんだ。

 高校生くらいの五人。直感的に分かった。彼らこそが勇者パーティー。

 お父さんとお母さんは、勇者パーティーと共に戦ったことがあるんだ。

「これはただの、ある冒険者たちさ」

 しまったあ!!

 僕は背後からお父さんに起こされた。そして胸に抱っこされる。

「脱走兵は軍法会議だなあ」

「ばっ、ばばぶー」ちっ! ぬかったわ。

 お主の勝ちだ。お父様。

 うしろにはお母さんもいる。

「あなたと同じで、思ったら即行動ね」

「ははは、あの頃は俺も、君もそうだった」

「ええ」

「ただただ、冒険者を目指した五人と、それに憧れた二人の子供だったね」

「うん……」

 この二人の歴史は面白そうだなあ。そしてこの五人のパーティー。いつか僕に話して聞かせてね。

 この事件以来、僕の部屋は施錠されてしまった。脱走は重罪なのだ。

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