魔神戦 4
巨大な闇がすべてを押し潰しながら呑み込んでいく。
女神の神域が軋む。
空間そのものにもダメージを与える、圧倒的な一撃。
その中心にいたウィルに逃げ場は無い。
・・・普通は。
そう、ウィルは普通ではない。
ウィルは瞬間移動、転移が出来るのだ。
魔神を神域に連れて来る為には使用したが、それ以降の戦闘では一切使用していない。
だから魔神の頭のなかに転移による回避が無かったのだろう。
いや、冷静な状態なら想像していたかもしれない。だが、今の興奮状態では、そこまで頭が回らない。
魔神は凄まじい力を使って、巨大な闇を放った。
それは大失策。
巨大な死角を生み出し、ウィルが何をしているのか見えない。
闇の向こう側でウィルの力が高まった。
闇を受け止める為、と魔神は思い込んだ。
ウィルは、それっぽいことを言いつつ、受け止めるつもりなど毛頭無い。
ウィルは力を集中させ、
闇が最接近した瞬間、
魔神の背後に転移した。
一閃!
貯めた力を解き放つ。
両断!
腹の位置で、上半身と下半身に分かたれる。
「なっ!?」
驚きつつも魔神の上半身は振り向きながら拳を振るう。
ウィルは無理せず後ろに下がる。
下がりながらの雷撃。
魔神は雷撃を殴りつける。
更に間髪を置かずに下半身がはえてきた。
魔神の持つ力なら、この程度のことは簡単に出来てしまう。
魔神は強烈な力の塊だ。
その力が具現化した存在。
だからこそ、ウィルは長期戦を覚悟しているのだ。
腕を斬ろうが、身体を燃やそうが、魔神はすぐに回復して戦い続けることが出来る。
倒す為には、その魔神の力を全て失わせる必要がある。
ダメージを与えるのもそう。
力を放出させるのもそう。
とにかく、魔神の力を減らしていく。
今回の一撃は大きなダメージになった。
なにせ、身体を一刀両断したのだ。
普通の存在なら死んでいる。
だが、相手は『神』。
神殺しは簡単ではない。
ウィルは焦りも慌てもしない。
焦りを感じているのは魔神だ。
生まれて初めての大ダメージ。
しかも、相手は必殺の一撃を簡単に避けてノーダメージ。
敗北の文字が現実味を帯びてきた。
だが、魔神にはカードが無い。
同格以上の相手との戦闘経験など無い。
経験の差は想像以上に大きい。
だが、時間は止まってくれない。
今から手段を増やすことはできない。
今ある手札は単純な力押しのみ。
魔神は力強く前に進む。
自分の存在意義は圧倒的な破壊なのだと証明するために。
魔神は再びウィルを追いかける。
先ほどまでの戦いの再放送のような展開。
魔神が追いかけ、ウィルが逃げる。
道中のやり取りで魔神が被弾する。
小技だけでは状況が変わらない。
だが、安易に大技は使えない。
先ほどの失態。
これ以上の大ダメージは容認出来ない。
くそっ!
くそっ!
くそっ!
何が足りない?
何故勝てない?
どこで間違えた?
魔神は内心で自身の不甲斐ない状況に毒づいていた。
自覚している。
ほんの少しだが、動きにキレが無くなってきている。
スピード、パワーが全快時より低下してきている。
まだほんの少し。
だが、いずれ取り返しのつかないほど落ちるだろう。
その時、敗北だ。
ウィルの能力低下はほとんど見られない。
時間をかければかけるほど、ウィルが有利になってしまう。
魔神は自問自答する。
負けを覚悟で特攻するしかないのか?
・・・それしかない。
自身が生き残る道は?
・・・見当たらない。相討ち覚悟の特攻だ。
どうすれば逃げられない?
・・・普通に放てば逃げられる。
挑発?
・・・ヤツが簡単に挑発に乗るとは思えない。
・・・ある!
かなり不利になるが、方法はある!
この空間そのものの破壊。
元の世界と密接に関わるこの空間を破壊すれば、元の世界にどれ程の影響が出るか想像出来ない。
そのリスクを示せば、ヤツは俺の攻撃を受け止めるしかない。
全てを出しきる魂の一撃。
この空間もろともヤツを破壊する。
魔神は一気に身体中の魔力を集中させる。
巨大な力の全てを次の一撃に賭ける。
おそらく、この攻撃を放てば魔神も無事では済まないだろう。
最悪、死ぬ可能性もある。
それでも退くつもりは無い。
最高にして最期の一撃。
決戦の一撃が今放たれる。
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