本選 その4
やはり先に変化をつけたのはエリュートロンだった。
エリュートロンが盾でカシムの視線を遮った瞬間、盾を手放し、死角から剣を両手持ちに変えて必殺の突きを放った。
しかし、カシムはその突きを剣で逸らしてしまう。
エリュートロンはその後も怒濤の連続攻撃を放つ。
しかし、カシムの防御を崩せない。
エリュートロンの連続攻撃が途切れた瞬間に攻撃を挟み込み、再び安定した試合展開に戻してしまった。
盾を手放したエリュートロンは防御力が低下、カシムが更に優勢に試合を進めていく。エリュートロンも盾を拾いたいが、そんな時間はカシムが与えない。
どんどん不利になっていくエリュートロン。
その焦りが、蓄積したダメージが、エリュートロンのミスを誘う。
そして、カシムはエリュートロンの攻撃に完璧にタイミングを合わせて盾で大きく弾いた。大きくのけ反ってしまったエリュートロン。そんな隙を見逃すカシムではない。
次の瞬間にはエリュートロンの喉元に剣が突きつけられていた。
「参りました。」
エリュートロンが降参した。
「勝負あり。勝者カシム!」
「見ごたえのある試合でした。しかし、エリュートロン選手は何故盾を囮にして捨てたのでしょうか?盾を手放してから一方的な展開になったようですが。あのまま盾を持って戦い続けていた方が良かったんじゃないですか?」
「それは仕方ない判断だったと思います。勝率を3%から5%に引き上げるような作業だったからね。あのまま戦い続けても敗北は見えていた。だから少しでも勝率を上げる為にリスクを取った。結果としては勝てなかったけど。無意味ではなかったよ。」
「そういう事だったんですね。エリュートロン選手は敗北しましたが、高度な戦いに惜しみない称賛が送られます。」
「カシム様、有難うございました。良い経験になりました。」
「こちらこそ有難う。本来のチームでの戦いでは十分に活躍できる実力だと思いますよ。私はスタンドアローンでの戦闘を前提にしているから、こういう1対1の戦いでは私が有利だったと言うだけだよ。」
「ご謙遜を。私とカシム様ではまだまだ大きな実力差がございます。追いつけるように精進致しますわ。」
「これからもトレーニングに付き合うよ。目標達成に向けて頑張っていこう。」
「有難うございます。」
カシムとエリュートロンが退場していく。
観覧席からは素晴らしい試合に称賛の声が送られている。
「さぁ、この後は第五試合、ガダル選手対ソニア選手です。
ガダル選手は各地の戦場を渡り歩く凄腕の傭兵です。今回の予選でもその実力、そのクレバーさを遺憾なく発揮しました。
ソニア選手はウィリアム氏の専属メイドです。え~、理解はできないと思いますがウィリアム氏の周辺は異常なんです。メイドも強いんです。」
リングに入場するザメイドスタイルのソニアにどよめきが起こる。
これぞ歴戦の戦士という見た目のガダル選手とメイドがリングに入場してくる違和感は半端ない。
リング中心にガダル、ソニア、ウィルが集まる。
「おいおい、メイドが試合の相手とか、ふざけているのか?」
「ふざけてはおりません。主のご命令があればいかなる相手でも掃討するのも私の仕事です。」
「おいおい、あまり調子に乗ったことを言うなよ。いくらなんでもメイドをシード枠に入れるとか、主催者の悪ふざけが過ぎるぞ。」
「ウィリアム様、試合開始の合図を。」
「はじめ!」ウィルが試合開始を宣言する。
刹那、ソニアの早射ちがガダルの右手にヒットする。
「グッ!?」
開始直後に剣を落とすガダル。
反射的に剣を目で追ってしまう。
次の瞬間、目の前に影が迫る。
「ナッ!?」
気づいた時にはガダルの顎はソニアに蹴りあげられていた。
ガダルは何も出来ないまま仰向けに倒れた。
倒れると同時にソニアに胸を踏みつけられ、目の前には銃口が向けられていた。
「何か言いたいことはありますか?」
「す、すまなかった。降参だ。。。」
「勝負あり!勝者、ソニア!」
ウィルの言葉を聞き、そっと足を退けるソニア。
会場を静寂が包む。
観客たちの理解が追いつかない。
そして、どこからともなく拍手が始まり、いつの間にか拍手の嵐が巻き起こった。
ある意味劇的な展開であった。
メイドが大男を蹴り飛ばして、踏みつけ、圧倒的な勝利をおさめる。
間違いなく人生で一度しか見られないような光景だろう。
「圧倒的!圧倒的な勝利です!
あのガダル選手を瞬殺。
何もさせませんでした。」
「ガダル選手の油断もあったでしょう。でもそんなことはどうでもいいぐらいの実力差がありました。最強のメイド、ソニア選手。素晴らしい身のこなしでした。」
「今後の活躍も期待ですね。
さぁ、次は第六試合ウィリアム選手対リディア選手です。準備が整うまでしばらくお待ちください。」
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