幕間 マルコの怒り

数日経った。

来るのはいつも3人組の男たちだ。

飯は1日2回持ってくる。

不味いが体力を温存しなければならない。

いずれチャンスがくれば脱出する。その時に動けないようではいけないからな。

時々話かけてくる。

ヤツラの目的が掴めない。

情報を引き出そうとするが、大きな情報は出てこない。

首に巻かれた呪いのアクセサリーによってスキルを使用することもできない。

足枷がチェーンで床につながっているため、歩ける範囲も限られている。


3人組の男たちを襲って脱出することも考えたが無理だ。動きを見ればわかる。よく訓練されている。足枷をつけ、スキルも装備もなしの状態で戦える相手ではない。それに俺の手が届く範囲には入ってこない。


ベッドで横になっていると、足音が聞こえた。

「マルコ、良い報せだ。」

俺は返事もせず、顔だけを向ける。

「君の父上が戦いに敗れた。」

「なっ」

俺は上体を起こして、

「くだらん嘘だな。父上が帝国の弱兵に敗れることなどあり得ん。」


「やはり、本当に何も知らないようだな。」

「なんの話だ?」

「お前の父親はエール王国を裏切り、帝国に寝返ったんだ。」

「バカな!父上がそんなことをするはずがない!帝国の流言飛語だ!」

「事実だ。」

「嘘だ!父上こそ、軍人の鑑。王国を裏切るなどあり得ない。」

「事実だ。国王陛下はそう認定されている。」

「誤解だ!俺に釈明の場を与えてくれ!父上の無実を晴らしてみせる!」


「上に確認しよう。だが、そのためにもこちらの質問にすべて正直に答えてくれ。」

「わかった。なんでも答える。だから陛下に会わせてくれ。」


「まず実家でドルマ帝国に関する人や物を見たことはあるか?」

「プルートウ侯爵領はドルマ帝国に隣する土地だ。当然、帝国の物産は沢山ある。だが、そんな疑われるような取引は無い。」


「そうか。では、夏期休暇に帰省した時、人員の入れ替えはあったか?」

「あった。数名が領に戻り、新しく王都に配属された。」

「人数と印象は?」

「5名だ。昔から当家に仕える執事など、王都の中心的な立場にいた家臣が新人に入れ替わった。」

「王都の屋敷を取り仕切っていた者が入れ替わったんだな。」

「あぁ。入れ替わってから、多少のミスはあったが父上が選んだだけあり、優秀な男だった。」

「なるほどな。こちらの調べ通りだな。」


「何が『なるほど』なんだ?お前たちの知っていることを教えてくれ。事実無根のことは俺が否定してやる。」

「わかった。話してやろう。まず、お前は父親に見捨てられた。」

「は???」

「夏期休暇のタイミングで必要な人材を自領に集め、見捨てる人材を王都に集めたんだ。さすがに王都の屋敷が無人では目立つからな。お前はその王都組だ。」

「ふざけるな!俺は上級職だぞ!それもレベル30だ!学園でもトップクラスの成績だ!そんな俺を見捨てる訳がないだろ!」


「お前がどう思っているかは関係無い。それに自領にいた家族や家臣もすべて捕まったから結果は同じだ。帝国まで逃げられたのは本人だけだ。」

「父上が帝国に、、、」

「そうだ。戦争の最中に裏切った。当然エール王国軍は壊滅的な被害を受けた。幸い、ドラクロア伯爵たちの活躍により帝国軍を追い返すことに成功した。もしドラクロア伯爵の活躍が無ければ、王都まで帝国軍に攻め込まれていたかもしれない。それほどの危機だった。」


「・・・そんな、、」

「お前の家族も王都に向けて連行されている。同居していた家族からはお前より詳しい話が聞けるだろう。」


もはや話す気力すらも失い、マルコは座り込み、焦点の合わないまま地面を見つめるだけだった。



そして、更に時は流れた。

当初は無気力になり伏せていたマルコも目に力を取り戻していた。


これはドラクロアの罠だ。

父上は嵌められたんだ。

手柄が欲しくて父上を陥れたんだ。

そうに違いない!

父上はドラクロアの魔の手から逃げきったのだ。だから帝国に逃げたと嘘をついているんだ。

家族は連行中だと言っていた。つまり無事だと言うことだ。

まだチャンスはある!

俺がドラクロアの悪行をあばき、家族を救うんだ!


足音だ。

いつもの3人だろう。

悪いヤツではなかった。俺の話を聞いて、上に話をしてみると言っていた。

「ようやくここから出られるぞ。」

「釈放されるのか!」

「残念ながら釈放とは違う。話をする機会が与えられたんだ。」

「十分だ。早く行こう!」

「待ってくれ。ここから出るにはルールがある。手錠と足枷に目隠し。少しの間だけ協力してくれるか?」

「ここまで我慢してきたんだ。それぐらい我慢するさ。」

「ありがとう。ではこれを着けてくれ。」


目隠しをして両手両足を拘束されたマルコが連れられていく。

不意に押し倒され、押さえつけられる。

「なっ!」

戸惑う間に首を、足を、体を拘束されていく。

「何をする!」


目隠しを外されると、そこには多数の人々がいた。

状況が理解できない。

目の前に立つ男が何かを言っている。

言葉が理解できない。


「あり得ない!あり得ない!あり得ない!あり得ない!あり得ない!あり得ない!・・・」


うわごとのように繰り返す。

それは頭が胴体と分かれてもしばらく続いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る