バルベン冒険者ギルド

それから1週間後、

ギルドの買取りカウンターでドロップアイテムを売っていると、窓口の女性から声をかけられた。

「皆さんが申し訳ございません。

この後、少々お時間を頂けませんか?」


カシムがチラリと僕を見るから、

僕は軽く頷く。


「少しぐらいならかまわないが、どういった要件なんだい?」

「申し訳ございません。要件までは私も聞いていなくて。

こちらについて来てください。」


応接室に通されて、座って待っていると、1人の男性が入ってきた。

30代後半、眼鏡をかけた温和そうな男性だ。

「みなさん、お忙しいところ、お時間を作って頂いて有難うございます。

私は冒険者ギルドバルベン支部のサブマスターをしているトーマスと申します。

宜しくお願いします。」


Dランクの冒険者をわざわざサブマスターが呼び出すなんて、不自然だね。

「私はカシム、こちらがウィルで、そちらがソニアです。」

「もちろん存じ上げております。

急に呼ばれて疑問を持たれているかもしれませんね。今日、お声をかけたのはランクアップをしませんか、というお誘いです。」

「どうしてサブマスター直々に声をかけてきたのですか?通常、Cランクへの昇格は年に3回開かれる審査会への参加という流れになるはずだと思うのですが?」


「本来はそうです。

ですが、みなさんはこちらに来られて、たった1週間で20階を突破されましたよね。それは異常なスピードです。それほどの実力を持った冒険者を低ランクに留めて置くことはギルド全体の損失です。なので私の権限で昇格試験を実施したいと考えたのですが、いかがでしょうか?」


カシムがチラリと僕を見る。

ランクアップを早くできるのは悪い話じゃない。裏はありそうだけど、受けていいと思う。

僕が軽く頷くと、カシムが

「有難うございます。昇格試験に参加します。最短だと何時になりますか?」

「最短だと明後日の朝かな。」

「では、明後日の朝、お願いします。昇格試験は何をするのですか?」


「昇格試験はBランク以上の冒険者との戦闘だよ。実力を測るのが目的だから、必ずしも勝つ必要は無いから、気楽に参加して欲しい。」

「わかりました。では明後日の朝、ギルドに伺います。」

「あぁ、待っているよ。」



ギルドを出て、みんなで夕食を食べながら、

「あのサブマスターの目的はなんでしょうか?」

カシムが疑問を呈した。

「今のところ不明だね。少し調べてみるよ。

それと昇格試験に落ちるとカッコ悪いから、明日の午後は『帰らずの回廊』でドラゴンレベルアップコースね。昼には宿に戻って来て。」


「そこまでしなくても大丈夫じゃないかしら!」

ソニアが慌てているけど、

「いいじゃん。レベル上げといて損は無いから。でも、さすがにあの雑魚ドラゴンだけじゃあレベル100は無理かな。」

「「は~~~~~」」

何故か2人が浮かない顔をしている。

レベル100にできないのがショックなのかな?近々、時間を作ってレベル100にしてあげよう!



そして、翌日の夕方。

2人のレベル上げも前回より格段に早く終われた。

2人とも強くなったね。うんうん。


カシムたちとは別れて、僕は1人、歓楽街にある酒場の裏路地に来ている。

もちろん子どもだから、お酒は飲まないよ。

情報屋のランドと待ち合わせをしているんだ。

少し待つとランドがやって来た。


「ウィル、久しぶりだな。

もう少しマシな呼び出し方は無いのか?」

「え~、だって子どもの僕が酒場をうろついていたら変じゃない。」

「だからって、呑んでる俺のポケットに知らない間に呼び出しのメモと硬貨を入れるのは勘弁してくれよ。びっくりして心臓に悪いぜ。」

「次からは考えるよ。」

「は~~~、で、俺に声をかけてきたってことは何か知りたいことがあるんだろ。」


「そうそう。冒険者ギルドの上層部について教えて欲しいんだけど。」

「今、俺が知ってることだけでいいのか?」

「とりあえず教えて。聞いてから追加で調べてもらうか判断するよ。」

「そうか、わかった。

ウィルも最近本格的に冒険者の活動しているみたいだから、知っておいて損は無いかもな。」

「僕の活動まで知ってるの?」

「ウィル達は目立つからな。

イケメン騎士が子どもとメイドを連れて歩いてたら目を引くさ。」

「それもそうか。」


「さてと、本題に入るぜ。

この街の冒険者ギルドは3つの派閥ができている。

1つ目はギルドマスターのバイゼルを中心とした『王宮派』だ。

バイゼルは上位貴族の子どもながらに本格的な冒険者になった変わり者だ。冒険者ギルドは非常に重要で国にとっても影響を大きい組織だ。

バルベン冒険者ギルドはエール王国の冒険者ギルドの中心だから、そこに国の意向を反映しやすい人物が中心にいるのは、国にとって望ましい。

だから王宮はバイゼルを支持している。


次にサブマスターのトーマスを中心とした『商人派』だ。トーマスは商家に産まれたが職業が戦闘職だった為に実家を継げず、冒険者になった男だ。

冒険者ギルドの主な仕事が冒険者から素材を買い取って、商人に売ることだが、それを取り仕切っているのがトーマスだ。

商人としてもやり手でトーマスが中心に商人と交渉するようになってから、ギルドの経営はかなり健全化したらしい。


最後が、もう1人のサブマスター、レオナルドを中心とした『冒険者派』だ。

そのままだが、レオナルドは優秀な冒険者で引退してギルド職員になった。

実力主義の現場の冒険者からは一番支持されている。

人気は一番あるが、元々がただの冒険者だからな、組織運営をする能力が低い。だから実務面では大した仕事はなく、顔役として冒険者の面倒を見ている感じだな。


この3人の微妙なバランスで今の冒険者ギルドは成り立っている。

権力者に近いバイゼルが頭に立ち、商売はトーマス、冒険者の世話はレオナルドに任せているというのが現状だ。


今話せるのはこの程度だな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る