幼少期

状況を整理しよう

僕は今、ベッドの上で眠っている。


女神様に送り出され、今の身体に入った瞬間、元の持ち主の記憶がなだれ込んできた。

あまりの情報量に、いつの間にか意識を失った。


そして、眠っている間に徐々に頭が整理できてきた。

もう起き上がり動き回ることも可能だが、その前に再度、情報を整理したい。


僕の名前はウィリアム。

みんなからはウィルと呼ばれている。

年齢8歳の男の子だ。

貴族の三男で、けっこう裕福な生活を送っている。勝ち組だな。

病気なども無く、健康そのものだ。


運任せの割には、意外と良い条件を引けたと思う。



ただし、まったく問題が無い訳ではない。

『ジョブ』だ。


この世界はモンスターが普通にいる世界だ。

人々は戦う力を持たなければならない。

その力を左右するのが『ジョブ』だ。


『ジョブ』は通常、10歳になった時に神官が行う、『就職の儀』を受けて『ジョブ』に就く。

お金のある貴族などはフライングして8歳で『就職の儀』を受けるのが通例になっている。

早く就職して、少しでも他の人と差をつけたいということらしい。


じゃあ、もっと早く『就職の儀』を受けた方がいいと思うけど、そこまで単純にいかないらしい。あまりに早く『就職の儀』を受けると、ランクの低い『ジョブ』になりやすいらしい。

そのため、ランクを維持しながら早くできる限界が8歳らしいのだ。



『ジョブ』にはランクがある。

下から順番に、

標準職

中級職

上級職

伝説職

という4段階に別れる。


ランクが変わると明確に差がある。

主な差は、

レベルアップ時のステータスの上昇率。

レベルの上限。

覚えられるスキル。


しかし、産まれた時に標準職であっても、ランクアップの道は残されている。

標準職でレベル30になれば、中級職に転職が可能になるのだ。

また中級職でレベル50になれば、上級職に転職が可能になる。


それなら、そんなに気にしなくてもいいのでは?と思うかもしれないが、現実には転職によるランクアップができる人はほとんどいないのだ。


理由は2つ。

モンスターにトドメをさした人だけが経験値を得ることができる。

つまり、パーティーを組んでいても、経験値は最後にトドメをさした人の一人占め。他のメンバーには経験値は入らない。

自力でモンスターを倒すしかないのだ。


そして、もう1つ。

レベルが同等以上の相手じゃないと経験値が手に入らない。

自分より弱いモンスターをいくら倒してもレベルアップできないのだ。

レベルを上げ続けようと思ったら、常に苦戦する相手と戦い続けるしかない。


しかも、

ステータスだけを比較すると、

同じレベルの場合、モンスターの方がだいたい高いのだ。

人は装備でステータスを補って、スキルを駆使することでモンスターに勝利できるという状況なのだ。


だから、この世界で転職できる人はほとんどいない。

できるのは貴族や豪商の子供などが標準職に産まれた時に、大金を使って腕利きの護衛を雇って、モンスターを弱らせてトドメだけをさす。それでレベルを強引に30まで引き上げるのだ。



僕は、王国内でも有数の権力者、ドラクロア伯爵の息子だ。しかもドラクロア家は武門の家系として有名で、高レベルの騎士を多数部下に抱えている。

そんな環境だから、本来なら僕は標準職は簡単に卒業できるはずだったんだ。。。



でも、それは叶わなかった。

僕が『フリーター』になったから。


『フリーター』は非常に特殊なジョブだ。

過去にも『フリーター』はいたらしいけど、かなりレアなジョブである。

そして、救いの無いジョブとされている。


『フリーター』

毎日、違うジョブに転職をするのが特徴だ。

しかもレベルは常に1からスタート。


例えば、

今日僕は『剣士(フリーター)』だったとする。頑張ってモンスターを倒して、レベル5まで上げたとしよう。

でも翌日には『踊り子(フリーター)』レベル1になっているのだ。


つまり、転職不可、レベルアップは毎日リセットされる、『フリーター』はそんなジョブなんだ。

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