変わっていくモノ
第20話
「私は認めない!」
ミーナは美駒に対して言い放った。
団体対抗戦の記念イベントの日になっても、ミーナは納得していなかった。今からでも先鋒を外してくれと頼んだが、変更されるはずもなかった。
ベテラン棋士たちが間に入って、二人を引き離す。
物わかりの悪い外国人。そう思われるのが、とても悔しかった。けれども、言うべきことは言わなければならない。
一人で五人を倒せば、それはそれですっきりとするだろう。けれども、ミーナは将棋がそう単純なものではないことを知っている。どれだけ強くても、将棋ゲージが減った状態ではなかなか勝てない。そして、実力的にはNJSの方が上で、おそらく大将まで出番が回ってくることも予想していた。将棋ゲージが残った状態で、相手の大将まで討ち取る。そのためには、自らも大将でなくてはならない。
先鋒は、必ず対局する。だから、華やかな存在である自分が選ばれたのだ。
ミーナは悔しかった。壊しに来た世界のやり方にからめとられているのが。そして、どうしても五連勝してやるという気持ちを持てないことが。
乙川の顔が浮かんでくる。人間の限界を越えなければ、達成できないことがあるのだ。今の自分にできることは、限られている。
「ミーナさん、何とか挨拶を」
「わかりました」
対抗戦に向けて、意気込みなどを語らなければならない。それぐらいならば、やり切れる。
壇上に上がったミーナは、唇の端を上げて不敵に笑った。
「将棋に関しては、何も問題がありません。ただ、5局指す体力が心配なので、今日からは筋トレだけをします」
会場は静まり返っていた。ざまあみろ、とミーナは思った。
「さてと」
南牟婁は、盤に向かっていた。棋譜を、次々と並べていく。
「ふむ……こんなものか」
口をとがらせて、両手の甲で頬を叩いた。
「君は、どうだ」
南牟婁は、美駒の棋譜を並べ始めた。途中から、首を振り始める。
「あの生駒さんの娘だから、ちょっと期待したんだけれど」
ただ、最後の数手で目を丸くした。
「ほう、面白い負け方だ」
南牟婁は、両手を内側に向けたまま、拍手をした。
「君たちの世代がやってくれないと……間に合わないかもしれないんだよ」
チャンピオンは、駒をもとの位置に戻すと、すぐに次の棋譜を並べ始めた。
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