待ち合わせは第2土曜日

(あ)

第1話

「華のJKが休みの日に予定無しって、可哀想だね」



昼11時。

ソファでテレビを見ていると、寝癖を付けた兄のりんが起きてきた。


「無きゃ、悪いの?」

「悪いね」


いちいちウザい。

自分が社会人だからって偉そうにしたり、私のことお子ちゃま扱いしてくるとことか、全部。


兄を睨むと、本人は何でもない表情で冷蔵庫から牛乳を取り出し、飲み出した。


「ねー、お母さん!お兄ちゃんが超ウザい!!」

真希まき、また兄妹ゲンカ?母さん、これから仕事で忙しいの。こら、凛。紙パック直飲みしないでって言ってるでしょう」


お母さんは、そう言うと私たち兄妹の間を通り過ぎ、仕事へ出かけてしまった。


「何よ、お母さんったら」


兄が牛乳パックを持ってソファへと座る。

何で隣に座るの!

テレビの音だけが聞こえる気まずい空間。

隣を見ると平然と直飲みする兄。


「飲みたいのか?」

「飲まない!てか、口付けてんじゃん!やめてよ!!」

「飲みたくて見てんのかと思った」


兄の視線が私からテレビに移ると、また紙パックに口を付け、ごくりと飲んだ。



「てか、そう言ってるお兄ちゃんは予定あんの?」

「ある」

「…何」

「今日、修哉が来る」

「…ウチに?」

「うん」

「…あっそ」


修哉くんは兄の親友。

高校からの付き合いで、家にもよく来ていた。二人は、大学も同じ学校へ進学する程仲が良かった。


社会人になってからは、お互いの休みが合わないらしい。唯一合う第2土曜日は、修哉くんが家に来るのが決まりになっていた。


「…そっか、今日だった」


慌てて、とぼける。


「真希、忘れっぽいな。小学生の頃は『修哉くん、修哉くん』って、べったりだったのに」

「そんな昔の話、いいって」


知ってた。

修哉くんが家に来るのは。


忘れた訳じゃない。

ずっと待ってた。


初めて会った時は、まだ彼が高一で私が小三だった。今では、彼が24歳で私が17歳。この八年間は早いようで長く、楽しいようで辛かった。


「いつ、来るの、修哉くん」

「あー、もうすぐじゃない?って言っても、約束の時間に来たことないけどな」


兄はそう言うと、全て飲み終えたのか、紙パックを畳みながらキッチンにあるゴミ箱へと向かった。


「俺たちの事、気にしなくていいからな。自分の部屋、行っててくれていいし」

「うん。でも、挨拶くらいしないと」

「そう?お行儀よく、な」


そう言うと、兄は、ふはっと笑った。


「また子供扱い。やめてよ!もう子供じゃないし!」

「そうか?まだ子供だろ」


兄は、冷蔵庫から魚肉ソーセージを2本取り出した。


「食うか?」

「食べない!今ダイエット中!」

「釣れないな」


兄は、1本を冷蔵庫にしまうと、ソファへと戻り、魚肉ソーセージを食べ始めた。


「お兄ちゃん、もっとちゃんとしたの食べなよ」

「食べない奴に言われたくない」

「私、3食ちゃんと食べてるよ。間食はしないって意味」

「てか、真希さ、」


そう言って、兄が私をじっと見つめる。


「…何。そんな見ないで」

「なんか、いつもと顔違くない?」

「ち、違くない!違くない!」


危ない!

メイクしてるの、バレるところだった。

予定もないのに家でメイクしてるなんて、不自然すぎる。精一杯ナチュラルにはしたんだけど…。


「そう?なんか雰囲気違うんだよな…」


兄は、ブツブツ言いながら、魚肉ソーセージを完食した。


「まだ、いけるな」


兄は、もう一度冷蔵庫へ向かった。


「なぁ、真希の分も食べていいか?」

「どうぞ。私、食べないし」

「サンキュ」


そして、もう一度戻ってくる。


「真希、彼氏とかいんの?」

「…!」

「あれ、こういう話、ダメだった?」

「…何で、そんな事聞くの」

「ダイエットって。好きな人でもいんのかなって」

「そんなのお兄ちゃんに言うわけないでしょ」

「んだよ、ケチ。でも、それは居る反応だな」


兄はふはっと笑うと、その後は魚肉ソーセージにしか意識は向いていない様だった。


何で無駄に察し良いのよ。

子供なんて嫌。キレイになって、大人っぽくなって、振り向いて欲しい。歳の差は埋められないから。

早く学生なんて卒業したい。


「…早く大人になりたい」

「お、年上か?」

「そ、そんなんじゃないし」


ぼそっと口から出た、心の声。


「それより、寝癖とかちゃんとしたら??!」


兄に強くあたって、誤魔化した。

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