神様から役立たずスキル僧侶の呪文を授かった少女、追放されてクラスの委員長に成り上がる

けろよん

第1話

「遅刻遅刻ー!」

 あたしは朝からパンを咥えて通学路を猛ダッシュしていた。今日は入学式だというのに寝坊して遅刻だなんてついてない。

 パパもママも起こしてくれないんだもの。酷いよね。なんて考えていると道の角から男子生徒が姿を現した。

 結構かっこいい感じのいけてる男子だ。だが、今のあたしには前方に突然現れた危険物体でしかない。あたしはすぐには止まれないのだ。

「キャア! どいてええ!」

「なんだ? うおおおお!」

 あたしと彼はごっつんこした。あたしはその場で尻もちをついてしまい。

「いたーい、お尻うっちゃったー」

 彼は、ププーーーン、ごおおおおおお!

「ぎゃああああああああ!!」

 ドカーーーーン! 横から走ってきたトラックに跳ねられてしまった。あたしは立ちあがってすぐに状況を理解した。

「なんてこと! 彼は異世界に転生してしまったわ!」

 だが、状況はあたしが思っているような甘い物ではなかった。そこに禿げた老人が現れた。その光に照らされた神々しさは神様だろう。彼は厳かにあたしに告げた。

「わしは神じゃ!」

「やはり神様!」

「その少年は異世界に転生などしておらんぞい!」

「なんでですか!?」

 あたしには信じられなかった。トラックに跳ねられたら異世界に転生する。それが世界の常識というものではないのか。

 あたしの読んできた数々の物語には確かにそう書かれていた。まさか書物が嘘をつくわけがあるまい。でなければ先生が生徒を賢くする為に学校で読書を推進するはずがないからだ。

 神様は厳かにその理由を告げた。

「異世界転生は隔離されたのじゃ! だからもう誰も異世界転生などしておらんのじゃ!」

「なんてことでしょう。おのれ、なろう運営め!」

 確かに最近そうした物語は見ていなかったと思いだす。目にするのは異世界恋愛とか婚約破棄とかまあそんな物だ。

 この状況をどうにか出来そうな物ではない。婚約を破棄すると言っても命は蘇らないのだ。

「では、死んだ彼はどうすればいいのですか? でえじょうぶだあれば生き返れるドラゴンボールも延期したんですよ」

「スキルを与えよう」

「おお、チートスキル」

「役立たずのスキルじゃ」

「ああ、そっちか。クレクレ。この物語がちょっとでも面白いと感じられたら星5評価をお願いします。つまらないなら1でも構いません」

「それええ!」

「うおう!」

 そして、あたしはスキル僧侶の呪文を習得した。これで回復魔法が使えるぞ。蘇生魔法ももちろん使える。

「ステータスオープン!」

 して、きちんと確認した。で……

「これがなぜ役立たずスキルなのですか?」

「使ってみれば分かるじゃろう」

「よーし、ザオリク!」(MPが足りない!)

「なら、ザオラル!」(MPが足りない!)

「なら、ザオ」(MPが足りない!)

「MPが足りないじゃないですか!」

「だから、役立たずスキルと言ったじゃろうが。カッカッカッ!」

「このう、馬鹿にしやがって。お前なんてこうしてやる。ザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキザラキ!」

「ええい、無駄じゃというのにザラキを連発しおって。お前のような奴は追放じゃ!」

「くっそー」

 こうして役立たずと言われたあたしは追放されたのだった。


 追放されたあたしは学校に来ていた。そして、退屈な入学式を終えて教室でホームルームの時間になった。

 教壇に立った先生がさっそく追放されたあたしに目を付けて言ってきた。

「花咲さん、その棺桶はなんですか?」

「返事が無いただの屍です」

 そう、あたしは返事が無いただの屍となって棺桶に入った彼を連れてきていた。先生が再び教室を見渡して訊ねてくる。

「ところで八木沼君が来ていませんが、誰か何か知っていますか?」

「この棺桶の中です」

「ええ!?」

 あたしの答えに先生が驚いた声を上げる。教室のみんなもざわめきだした。

 八木沼たかし。それが死んだ彼の名前だ。彼の持ち物を調べて知った。ついでにあたしの名前は花咲美晴だ。先生が再び言葉を選ぶように考えてから言ってくる。

「なぜ八木沼君がその棺桶の中に入っているのですか?」

 やれやれ、事情を説明しないといけないようだ。あたしは説明する事にした。

「あたしは神様から僧侶の呪文を教えてもらいました。しかし、MPが足りなくて使えないのです。あたしは無能な僧侶です。それでもロストすると生き返らせられなくなるので彼は棺桶に入ったのです。ここに神父様はいらっしゃいますか?」

 いるわけが無かった。長いざわめきと沈黙。先生は苦渋の決断をしたようだ。袋から何かを取り出した。

「この種を…………使うかい?」

「朝顔の種ですか?」

「ちがわい。これは魔力の種だ。使えば最大MPを増やす事ができる」

「そんな物があるのですか!?」

 さすがのあたしも驚いた。教室もざわめいた。先生は諦めたように呟いた。

「これはとある筋から入手したものだ。使うのもったいないから取っておいたのだが、生徒の為なら……喜んで差し出そうではないか」

「ありがとうございます、先生!」

 あたしはさっそく使わせてもらった。最大MPが上がった。運も味方したのか多めに上がった。これで蘇生魔法を使う事ができる。

「ああ、あれを手に入れるのにツチノコと交換したのになあ。ああ! 全部使いやがった!」

 先生には同情するがきっと思いは報われる。

 後はMPを回復させるだけだ。

「じゃあ、先生。あたし寝ます」

「ああ、おやすみ」


 そして、夜が明けた!


「おはよう、花咲さん。昨日はよく眠れたかい?」

「はい、おかげさまで。MPも回復しました」

 ついにたかし君を蘇らせる時がきた。あたしは棺桶の前に立つ。そして、呪文を詠唱しようとした時だった。

「ガオオオオオオッ!」

 突然悪魔のようなおたけびがして棺桶の蓋が吹っ飛んだ。そして、悪魔となったたかし君が立ちあがった。

「ククク、俺は蘇ったぞ。地獄王の力を手に入れてな」

「どういうことだ? 八木沼たかし君は蘇ったのか?」

「そのようです。でも、あたしの魔法じゃありません」

 先生の疑問に答えるあたし。教室がざわめいている。たかし君が教えてくれる。冥土の土産とばかりに、

「死んだ俺は地獄に落ちた。しかし、俺は諦めなかった! 地獄の魔物どもをぶちのめし、こうして王の力を手に入れて戻ってきたのだ。今の俺は地獄王たかし! この学校を支配してやる!」

 地獄の門が開き、多くの悪魔達が現れる。教室のみんなはパニックになった。先生があたしに助けを求めてくる。

「花咲さん! 君が彼を連れて来たんだろ! 何とかしてくれ!」

「何とかしろと言われても……」

 あたしは全ての僧侶の呪文が使える。だからこそ、多すぎてどれを使おうか迷ってしまう。ウインドウを開いてスクロールバーを動かしながら考える。

「えーと、これにしようかなあ、これもよさそうだなあ、ターンアンデッドでいけるかなあ」

 なすすべもないあたし達に地獄王たかしは勝ち誇る。

「あっはっはっ、お前達にはどうすることも出来まい。禁じられし伝説の魔法ホーリーブラストギャラクティックオメガが使えれば話は別だが、そんな魔法はもう無いだろうしな!」

「じゃあ、それにするか。ホーリーブラストギャラクティックオメガ!」

「うぎゃああああ! そんな馬鹿なあああああ!」

 地獄王たかしは滅んだ。そして、彼の召喚した悪魔達も物言わぬ砂となっていった。

 教室は救われたのだ。あたしはみんなに称えられた。

「ありがとう、花咲さん!」

「あなたのおかげでみんな救われた!」

「ぜひ、わたし達の委員長になってください!」

 あたしは快くその申し出を受けた。白い鳩が飛んでいく。世界は光に包まれている。

 そして、委員長となったあたしは末永くこのクラスを統治したのだった。 

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神様から役立たずスキル僧侶の呪文を授かった少女、追放されてクラスの委員長に成り上がる けろよん @keroyon

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