ロマンスの神様

羽弦トリス

第1話おまじない

田中美樹は福祉施設で働く、介護職員。

年齢25歳、毎日が忙しい。朝は入居者の食事介助。それが終わると、男性と女性に別けて入浴介助。そして、昼の食事介助。

職員は交代制で出勤して、早出の美樹は昼食を食べに休憩室へ向かった。

毎日がこんなで、土日祝も関係なく出勤なので、友達が減った。ましては、彼氏なんて……。

今日の美樹の相方は既婚者の川中ちぐさ。

2人でお弁当を食べてると、

「美樹ちゃん、そろそろ結婚していい年頃じゃない?25歳でしょ?」

美樹は人に言われなくても、充分承知している。だけど、結婚の前に彼氏がいない。

この福祉施設では、出会いがない。一人だけ羽弦はづるさんがかっこ良くて憧れていたけど、彼には彼女さんがいる。

「ちぐささん、何ともなりません」

「それならね、いいおまじないがあるの。A4サイズの紙に五芒星を書き中心にろうそくをたてて、豚のレバーを置くの。そうしたら、ロマンスの神様が現れて結婚相手を見付けてくれるの。女性誌に書いてあったわ」

川中ちぐさは真剣な目で話す。

「ちぐささん、な~んか怪しい、おまじないですね。結婚相手は自分で探します」

「ファイト!美樹ちゃん」


早出は朝6時に出勤し16時には上がりだ。

美樹は、お先に失礼しますと言って、さっさと施設を出た。

早く出ないと、帰り損ねた経験があるからだ。

美樹は川中ちぐさのおまじないを気に掛けていた。事務所からA4サイズのコピー用紙を何枚かもらい、スーパーで豚レバーとニラとモヤシを買った。後、ビールも。

今夜はレバニラだ。でも、レバーは半分は冷蔵庫にしまった。

美樹は缶ビールを4本空け、昼間のおまじないを酔った勢いでしてみようと思った。

A4サイズのコピー用紙に五芒星を書き、真ん中にろうそく代わりにお香を焚き、レバーを供え、願った。

【神様、どうか結婚させて下さい。ロマンス神様現れて下さい】

と、願った。


シーン


何も現れない。こんな子供でも信じないおまじないをした自分を恥じた。

【あぁ、やっぱりマッチングアプリかな~】


ピンポーン


インターホンがなる。時間は9時を過ぎている。美樹は恐る恐る玄関の扉を開いた。

そこには、70代くらいのおじいさんが立っていた。

「あんた、私の事呼んだ?」

「え、え、おじいさん誰ですか?」

「誰ですかじゃないよ、私は神様よ。ロマンスのカ・ミ・サ・マ」

美樹は驚きのあまり、声が出なかった。

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