第8話 この世界がゲームだと私も知っている【ロゼリアSide】
締め切り日が迫る大学のレポートを必死に片づけて、それがある程度形になったところで、眠りについたはずだった。
明日になれば大学に行き、塾の講師のバイトをして。
そんないつもの日常を過ごすはずだった。
しかし、目覚めたときにはゲームEverlastingの世界に転生していた。
ただし、主人公のウリアではなく、ライバルキャラ筆頭のローズとして。
究極のクソゲー、Everlasting。略してエヴァラス。
ゲーム好きだった私はこのゲームにハマり、5周ほどプレイした。
確かにクソゲー要素は強いが、それでも面白いゲームだと私は感じていた。
ただ、転生するならこのゲームはやめてほしかった。
このゲーム、難易度が高すぎるのだ。
もっというと、転生するとしてもライバルキャラはやめてほしかった。
ライバルキャラ、ロゼリアの末路は死亡と決まっているからだ。
それを避けるには原作と同じ行動を極力避け、主人公と行動を共にするしかない。
学園でウリアとなるべく早く親しくなり、卒業後は彼女の所属する部隊に参加するのがベストだ。
欲を言うと、親友キャラの立ち位置を奪いたいところ。
とはいえ、主人公の部隊に入ったとしてもその先も地獄だ。
数々の強敵が、それこそ周回プレイでも厳しい敵が待っている。
学園に入る前までに、私自身の強化も必要だと考えた。
歩けるようになり、言葉を話せるようになった私は国王であるお父さまにおねだりし、城内の図書館に入りびたるようになった。
ゲームの知識は持っているが、その知識がこの世界でも通じるかを確認したかった。
不足している知識はあるものの、ゲームで得た知識が異なっているということはなかった。
これでこの世界がエヴァラスの世界であることが確定した。
次に私は原作知識の保管を考えた。人間なので、前世の知識は時間が経てばいつか忘れてしまう。
そうなっても良いように、紙に書き記そうとしたのだが。
「この頭痛……すごすぎます……」
度重なる頭痛で気分が悪くなり、ベッドに倒れ込んだこともあった。
言葉、文字、身振り、その全てで、前世の知識を出すことが不可能だった。
この世界の私に課されたルールのようなものなのだろう。
仕方なく書くことは諦め、私は毎晩前世の知識を思い出すことでなるべく忘れないようにした。
そして3歳の時、私の適性が計測される。
原作ではライバルキャラの中でも最強と言われていたロゼリア、その評価はいかに?
「ロ、ロゼリア・フォン・エディンバラ様の適性は技術力、知力以外すべてBです……す、既に国の魔法部隊や騎士団の隊員並みの能力を持っています……」
うそ……私、強すぎ!?
知力は軍を指揮する能力や戦術を考える力なので、原作ゲームでも重宝されてはいなかった。
技術力はテスタロッサを調整する際に必要なものなので、ロゼリアには必要ない。
少なくとも3歳の段階で学園の卒業生と戦って、良い勝負ができるレベルということだ。
ロゼリア、恐ろしい子!!
自分の才能が怖くなりつつも、その後も私は満足することなく、熱心に勉強をした。
結果として8歳までに専用のテスタロッサとも契約し、適性もAにレベルアップし、かなり順調な強化を達成した。
というよりも、ロゼリアが強すぎて、ちょっと前世の知識を組み合わせるだけでどんどん成長してしまった。
ロゼリア、恐ろしい子!!
そんな私に転機が訪れたのは8歳の時の懇親パーティだった。
国内の貴族が参加するパーティ。そこに、ウリア・アルトリウスの姿を見つけてしまった。
原作ではありえないことだ。
妹であるエヴァ・アルトリウスは確かにパーティに参加していた。
しかし虐げられているウリアは参加しなかったはずだ。
よく見るとエヴァはウリアを守るように一歩前に出ている。
私が知っているエヴァからは遠く離れたその在り方に、一瞬別人かと思ったほどだ。
ウリアもエヴァを信頼しているように見えた。
(私以外の……転生者?)
そうとしか考えられない。
このゲームを知っているなら、ウリアという人物がどれだけ重要か分かっているはず。
仮に私がエヴァに転生したとしても、今のエヴァと同じ行動をとるだろう。
子供たちの懇親会で、接点を作ろうと考えた。
しかし舞台挨拶を終え、大臣たちとあいさつを交わした後に遅れて会場に行くと、2人の姿はもうなくなっていた。
群がってくる貴族の子供たちの相手をしつつ、会場を見回す。
それでも、2人はどこにも居ない。
見間違えた?それならエヴァだけでも見つけられるはずだ。
しかし結局見つからずに、パーティは終わりを迎える。
主催として最後まで会場に残り、全員が出たのを確認した後で、会場から出る。
そのとき、声が聞こえた。
「そうよ!出ていきなさいよ!」
「エヴァ……もういいよ……」
見つけた。
私は微笑み、その集団に近づいていく。
「何の騒ぎです?」
その言葉で全員が私に注目した。
「ローズ様。発言失礼します。ウリア様は伯爵家なのにも関わらず、平民よりも能力がありません。それゆえこの場を去った方が良いとお声がけしたのですが……」
なるほど、ウリア達が居ない理由が分かった。
おそらく私が会場に着く前に同じようなことを言われたのだろう。
それゆえに会場から離れていたのか。
だが、これはチャンスだ。
「そんな理由で他人を見下すあなた達の方がこの場にふさわしくないと思いますが」
本心をそのまま告げる。
前世の塾でも、勉強ができない子は居た。
けれどそれは勉強の仕方を知らないか、あるいは勉強の時間が足りないからだ。
たった8歳でその人を判断するなんて、どうかしている。
人を構成するのは、適性だけではない。
それにその適性も、努力次第で伸ばせるのだから。
「ウリアさん、申し遅れました。私はロゼリア・フォン・エディンバラと申します。私、実は同年代の友達がいなくてとても寂しい思いをしていました。よろしければ、お友達になってくださいませんか?」
「え……えぇ!?お、皇女さま!?」
そのままの流れで私はウリアに近づく。
彼女に近づくために。
「そんなに驚かないでください。私はウリアさんが気に入りました。どうぞロゼリアとお呼びください」
「あ、ありがとうございます……私のほうこそ、よろしくお願いします」
反応は良い。どうやらウリアは転生者ではないようだ。
けれどその一方で。
「あら?あなたはウリアさんの妹ですか?よろしくお願いします、ロゼリア・フォン・エディンバラです」
あなたは絶対に転生者。
ウリアに優しいエヴァなんて、あのゲームがどう転んでも誕生しようがない。
今でも驚いているのがその証拠。
その驚きは皇女に話しかけられたからではなくて、ローズがウリアに優しくしているから、でしょう?
「私、同じような適性を持つエヴァさんと、その姉であるウリアさんが気になっていたんです」
「え?で、でも私の適性は……」
「先ほども言いましたが、適性なんて今は何の意味も持ちません。どのように成長するか、それはその人次第です。私はむしろ、低い適性でも頑張るウリアさんの心の強さに惹かれました。どうです?今度お城で一緒にお話ししませんか?もちろんエヴァさんも一緒に」
「よ、喜んで参加させていただきます!」
ウリアの瞳にやる気の炎が宿るのを見て、私は好ましく思った。
前世でも、やる気のある生徒は伸びた。
私だって人間だ。
熱心に教えを乞う生徒とやる気のない生徒では、やる気に満ちた生徒を可愛がってしまう。
ウリアはまさに、私が好きなタイプの子だった。
「…………」
そして、エヴァ自身も分かったはずだ。
お互いに相手が転生者であると理解したと。
けれど私たちはその情報を交換できない。
つまり私は私のやり方で、エヴァはエヴァのやり方でこのゲームを攻略する形になる。
けれど、これは面白いかもしれない。
私とエヴァ、2人でウリアの才能を限度なく引き出せると思うと、心が躍った。
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