喫茶店のマスターは聞き上手
奈那七菜菜菜
プロローグ
「さて。今日も始めますか」
人通りの少ない路地裏に、あまり人に知られていない小さな喫茶店があった。
そこにいるのは、可憐な1人の女性。
見た目は誰もが目を引く魅力的な容姿で、腰まで伸びる真っ黒の髪が特徴的な女性。
物静かな雰囲気ながらも、芯のしっかりとした瞳をしており、女性にしては少し高めの身長が、それを際立たせている。
店内の清掃を終えた女性は、店の扉にかけている木のプレートをひっくり返して、クローズからオープンへと変えた。
「今日もお客さんが来てくれたらいいな」
店内はコーヒーの香りに包まれ、落ち着いた音楽が流れている。
外では会社に向かう人たちが忙しく歩いているが、そんな中で、道から外れたこんな路地裏に来る人はほとんどいないだろう。
実際、すでに開店時間だというのに、誰かが来る気配は少しもなかった。
しかし、女性は慌てることもなく優雅な様子で、お客用に挽いていたコーヒーを、自分に淹れながら、新聞を眺めてる。
「クウウン」
「ふふ。焦らなくても大丈夫ですよ。そのうち、誰かは来ますから」
犬の声が聞こえてきて、女性は答えた。
店内の隅、少し開けたスペースにいるのは大型犬だ。
その犬は、女性を一瞥すると、興味無さそうに目を瞑り、眠る体勢に入る。それを見てから、女性はもう一度新聞を眺めた。
しかし、ふとそこで、店の前に人の気配を感じ、女性は新聞を仕舞って、扉の方に視線を向ける。それと同時に、カランカランという、鈴の音が店内に響いた。
それはお客を報せる鈴の音。
それがなくても、女性は気付いていたが、その音が、女性は好きだった。
「いらっしゃいませ」
そう笑顔で言う女性は、この店に1つしかない、ブレンドコーヒーを準備する。
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