カクヨムのモヤモヤ

イカワ ミヒロ

株式会社 KADOKAWA 御中


 拝啓、


 御社ますますご清栄のことと存じます。


 御社のカクヨムを利用させていただいておりますイカワ ミヒロと申します。2021 年 10 月 30 日に登録して以来、自分の作品を誰かに読んでいただけるということ以上に、様々な作品に触れる機会を頂いて世界が広がったと感じています。また、世の中にはこれほど文才が溢れる人がいるということに驚くと同時に、同じように書き、読むことに興味のある方々とコメントを通じて交流できることに喜びを感じています。このようなサイトを作って頂いたことにお礼申し上げます。


 さて、そのカクヨムですが、ユーザーとして大変に憂慮する側面があり、筆を取らせていただきました。以下に詳細を記述しますが、簡単に申し上げますとカクヨム web サイト運営に関して、御社の企業としての責任と倫理観が感じられないという点です。以下に、経緯を併せて説明させていただきます。


 2022 年 4 月 3 日に陽向瑠璃様が「レイティング:性描写ありは、”18禁”にすべし!」という自主企画を立ち上げました (https://kakuyomu.jp/user_events/16816927862150567541)。そして、ご自身の意見として「表現の自由の根拠とは? 性描写ありの著者に問う!」を掲載しました (https://kakuyomu.jp/works/16816927862407113198)。更に、それに賛同する形で黒井真様が「小説投稿サイトにおけるエロの扱いについての一考察と提言」という一連のレポートを掲載されました (https://kakuyomu.jp/works/16816927862185741485)。陽向様は、その後もうひとつ作品を同じ企画中に登録していらっしゃいますが、ここで申し上げたい論点には当たらないと思われますので省かせていただきます。

 更に、@wolfstandard 様が 6 月 5 日に同様の趣旨で「カクヨムはやっぱりおかしい。そう思える同士よ、集まれ」という企画を立ち上げています (https://kakuyomu.jp/user_events/16817139555330369876)。これは、陽向様や黒井様以外にも、企画で他のユーザーに呼びかける程度にカクヨムの運営について憂慮されているユーザーがいらっしゃることの現れだと思います。


 陽向様と黒井様の二作品は、カクヨムの運営姿勢に対して重要な示唆を含んでいると思いますので、まずご一読いただけますようお願い申し上げます。また、その際には両作品に対する他のユーザーからのコメントおよび陽向様と黒井様の返信も併せてお読み頂けますようお願いいたします。


 以降は、御社が二作品およびコメントをお読みいただいたものとして申し上げる次第です。


 陽向様の最初の意見は、自主企画の企画内容の文言も含めて理解する必要がありますが、まとめると次のような内容になると思います。


「カクヨムには露骨な性描写が何の規制もなく表示されている。小学生も見るかもしれない年齢制限を設けていない web サイトに性描写の規制が (実質) 無いのは企業倫理に反するのではないか。『カクヨム運営への要望』で意見を送っているが無視される。表現の自由を奪うな、という意見もあるが、露骨な性描写には差別表現も含まれる。差別は憲法で守られている基本的人権を無視するものである。企業の社会的責任を全うして露骨な性描写にはフィルターを掛けるなどの対策を取るべきである。」


 また、陽向様の意見に賛同する形で黒井様が掲載した意見を抜粋すると次のようになります。


「カクヨムのエロ作品の扱いについて、以下二点について早急に何らかの対策を講じる必要がある。

 一つは、未成年ユーザーも閲覧できる中で『タイトル』、『キャッチコピー』に性行為を表現しているものが多数あること。二つ目は、『奴隷少女を買う』、『女子高生を拾う』、『メスガキ』、『ビッチ』など、女性をモノとして扱うことを当然のように表現しているものや差別語が多数あり、さらにそれを出版してトップ画面で推していること。

 安易なエロを未成年に見せてはならない、特に女性差別を助長する内容のコンテンツについては禁止にすべきである。改めてカクヨムに望む対策としては、ゾーニングの徹底 (18禁モノの隔離) と差別表現の撤廃の二点である。」


 さて、これらの意見に対し、現在カクヨムでは、ガイドライン (https://kakuyomu.jp/legal/guideline) に「青少年を含む利用者が気持ちよく利用できるように」「配慮をお願いいたします」と記述しています。しかし、実際にはこのガイドラインが履行されていないように見えます。


 例えば、黒井様が「小説投稿サイトにおけるエロの扱いについての一考察と提言」をまとめていらっしゃる間には、「『夫にナイショ』シリーズ漫画原作コンテスト (妊娠した女性が寝ている夫らしき男性の背後でスマホを見ている絵入り)」が開始されました。「『夫にナイショ』シリーズ漫画原作コンテスト」は、青少年を含む利用者が気持ちよく利用できるサイトの企画にふさわしいでしょうか。

 また、同時期に投稿された公式レビューに「でも、巨乳ですよ?」があります (https://kakuyomu.jp/works/1177354054885253407/reviews/16816927862921780493)。これも青少年が気持ちよく利用できるサイトの公式レビューにふさわしいでしょうか。

 さらに、「『5分で読書』短編小説コンテスト 2022」は小学校高学年から中学生向けに朝 5 分で読める小説を募集するとのことですが、テーマの一つが「だれにも言えない恋(恋愛)」です。企画会議を通ったから、公募が始まったと理解すると、御社の社内基準では「だれにも言えない恋(恋愛)」が小学高学年の朝の読み物に適切だと判断されているのでしょう。

 最後に、「カクヨム Web 小説短編賞 2021」の中間選考 (https://kakuyomu.jp/contests/kakuyomu_web_short_2021) を見ると、タイトルにおっぱいという言葉が含まれている作品が 3 本と巨乳が 3 本 (うち一つには性具の名称を含む)、エロ 3 本、ビッチ 2 本 (うち 1 本は他の用語と重複) 、ヤリたい、レイプ、童貞、えっち、ハーレム、性欲、セックスレス、メスガキ 各 1 本ずつがありました。また、姉妹との恋愛を含むものが 9 本と性的虐待を肯定的に表現しているものも 3 本ありました。これらのタイトルは、青少年が気持ちよく利用できるサイトで実施されている賞の中間選考にふさわしいものでしょうか。

 (あと、R 15 の作品ばかり集めた自主企画が放置されてるのもガイドラインの不履行ではないでしょうか……。)


 御社は、「出版事業の健全な発達、文化の向上と社会の進展に寄与することを目的とする」日本書籍出版協会 (https://www.jbpa.or.jp/outline/about.html#mokuteki) の会員です。この協会の出版倫理綱領には次のようにあります (https://www.jbpa.or.jp/ethic.html)。


「出版物は、学術の進歩、文芸の興隆、教育の普及、人心の高揚に資するものでなければならない。

 われわれは、たかく人類の理想を追い、ひろく文化の交流をはかり、あまねく社会福祉の増進に最善の努力を払う。

「出版物は、知性と情操に基づいて、民衆の生活を正しく形成し、豊富ならしめるとともに、清新な創意を発揮せしめるに役立つものでなければならない。

 われわれは、出版物の品位を保つことに努め、低俗な興味に迎合して文化水準の向上を妨げるような出版は行わない。」


 御社の出版事業が、この綱領に則ったものであれば「カクヨムWeb小説短編賞2021」の中間選考に前述のようなタイトルが含まれるのはどうしてでしょうか。そして、少女のスカートの中が見えそうな表紙絵が小説に使われるのはなぜでしょうか。


 御社の web サイトの会社概要にはサステナビリティというページがあります (https://group.kadokawa.co.jp/sustainability/)。このページの最初には「KADOKAWA グループが目指すコンテンツのサステナビリティの実現」という見出しがあり、その内容として「想像力がはぐくまれ、コンテンツが生まれ、育ち、人々の手元に届き、さらに広がっていくことの土台には、豊かな地球環境と、だれ一人取り残すことのない『健全な社会の実現が欠かせません。』 KADOKAWA グループは、人々の想像力とグループの「IP 創出力」「IT 技術力」を掛け合わせ、『こうした社会課題に取り組んでまいります。』」とあります。

「健全な web サイトの実現」を願って「今現在カクヨムで進行中の社会課題」について意見を出した陽向様と黒井様に何の応答もないのは、「社会課題に取り組んでいます」と言えるのでしょうか。また、陽向様や黒井様の憂慮するタイトルは「健全な社会の実現」に貢献するでしょうか。


同じページからは御社が運営する通信制の高等学校の紹介記事を参照することもできます (https://group.kadokawa.co.jp/sustainability/project/highschool.html)。カクヨムでは、高校生向けの「カクヨム甲子園」も開催されます (https://kakuyomu.jp/special/entry/kakuyomukoshien)。こうして青少年を育成する一方で、同じサイトでこの年頃の少年少女が性行為にふけるコンテンツが満載なのも、事業の一貫性に欠けると思います。


 また、「サステナビリティ」の下位にある「ESG関連情報 > ガバナンス > Ⅲ:内部統制」の「7. 内部統制」のセクションの 1. (https://group.kadokawa.co.jp/ir/esg/governance/internal_control.html) には「取締役及び使用人の職務の執行が、法令及び定款に適合し、企業倫理に則り、かつ社会的責任を果たすため、コンプライアンス規程を定め、取締役及び使用人に周知徹底させる。」とあります。

 陽向様、黒井様のお二人が訴えているのは、まさに KADOKAWA は「企業倫理に則って社会責任を果たすべきなのではないですか?」という疑問です。コンプライアンスは会社経営が法令に準拠していることに限りません。法令に限らず社会的規範や企業倫理を守ることもコンプライアンスです。そして、カクヨムが自ら定めたガイドラインを遵守できていないのは、コンプライアンス違反ではないですか。それに対して疑問を投げかけたユーザーに回答しないこと、つまりはカクヨム運営に問題意識が欠落しているのは、上記の周知徹底が行き届いていないのではないでしょうか。それはすなわち、KADOKAWA にはコーポレート ガバナンスが欠如していると理解できるのではないですか。 (余談ですが、「使用人」とは「従業員」を指すのでしょうか。)


 紙を使わないのがサステナビリティではありません。サステナビリティとは、企業にとっては事業の持続性です。事業を持続させるには、それを取り巻く経済、国、環境といったエコ システムが健全に維持される必要があります。そのために、企業は事業を通じて何ができるのか?それを考え、実現するために グローバル コンパクトと ESG が提言され、国や政府レベルでの目標として SDG が設定されたはずです。日本政府も SDG の実現を採択し、企業にも実施を要請しています。


 御社ではこの SDG 関連の書籍も出版されていて、その一例が「SDGs関連作品一覧」のページに表示されています (https://group.kadokawa.co.jp/sustainability/product/)。このページのトップには SDG の一覧があります。ゴール 5 は「ジェンダー平等を実現しよう」です。自社 web サイトでサステナビリティを謳い、SDG 関連の書籍を多数出版されているのであれば、それを出版する企業として自らも SDG の実現を目指して社員の一人ひとりにその重要性を周知する必要があるのではないでしょうか。そうすれば、カクヨムでの真の R15 を求めるユーザーの声にどのように対応すべきが自ずから決まってくるのではないですか。


 最後に、御社の 2022 年 3 月期通期決算説明資料 (https://ssl4.eir-parts.net/doc/9468/ir_material_for_fiscal_ym1/118366/00.pdf) の 14 から 16 ページを見ると、今後 3 年間の中期計画として「メディアミックス with Technology」が謳われています。カクヨムを通じて投稿される UGC (User Generated Contents: ユーザー生成コンテンツ)、小説の IP (Intellectual Property: 知的財産) を獲得して、コミックやアニメとしても商品化する (コンテンツ メディア ミックス) 計画です。この計画の中では編集力の底上げと、メディア ミックスした IP の海外展開、そして同じビジネス モデルの海外展開が予定されています。

 海外展開で常に問題になるのは、文化の違いではないでしょうか。特に性に関する規制は、日本国内と海外で厳しさが異なっています。御社では既に、「ノーゲーム・ノーライフ」が 2020 年にオーストラリアで販売禁止になっています (https://www.kotaku.com.au/2020/08/no-game-no-life-light-novels-banned-australia/)。インターネット上に自社の販売サイトを持てば、これを敢えて回避できますが、インターネット上のポルノ コンテンツが増え続ける現状を鑑みると、規制は全世界で厳しくなっていくと思われます。また、何らかの形で検閲にかかった場合は、修正コストもかさむはずです。それであれば、規制にかからない IP の基準を明確にし、それを育てることのできる編集者を揃え、そういった IP を見つけ出すことのできるコンテストを企画して行くほうが、単一 IP の複数言語展開もでき、事業としても長期の展望を持てるのではないでしょうか。

 例えば、「千と千尋の神隠し」が世界的なヒットになったのは、家族の誰もが安心して楽しむことのできる IP だったからではないでしょうか (それでも中国で公開されるまで 18 年もかかりましたが)。KADOKAWA として世界に展開する IP は、そういった真に誰もが楽しめるものであるべきではないでしょうか。


 御社の企業理念は「不易流行」とあり、幾つかの出版社にありがちな閉鎖性が無く、海外展開も含め様々な事業を運営されており、先進的な企業であると認識しています。カクヨムもそういった「流行」を取り入れた素晴らしいビジネス モデルだと思います。また、カクヨムのユーザーの方々は一般的にとても丁寧で礼儀正しいことも印象的です。そして何より、素晴らしい作品を書く多くの人々が集まっています。これはカクヨムの文化と言えると思います。

 良い文化を持つ web サイトは、それに合ったユーザーを惹き付けます。そうであれば、ことさら出版社として意識すべきなのは良い文化づくりなのではないかと、カクヨムのユーザーの一人として考えます。


 ほかにも小説投稿サイトはあります。徹底度は様々ですが、年齢によってゾーニングを設けていたり、NG ワードを設けていたりと対策を立てているところもあります。それに対するユーザーの意見もまた様々です。アダルト書籍を中心に出版している企業がカクヨムを運営していたとしたら、陽向様や黒井様は意見記事を投稿しなかったでしょう。お二人が意見記事を投稿したのは、KADOKAWA は社会のためになる書籍を出している出版社だ、という認識があったからにほかなりません。だからこそ、他のサイトで実施できている対策をカクヨムでできないのはなぜなのか、理由があれば説明する責任があるのではないかと考えたはずです。

 企業を前にして、個々のユーザーは脆弱な存在です。大きな企業が所有する web サイトの運営について意見するのは勇気が必要です。しかし、陽向様、黒井様、@wolfstandard 様は、ご自身の良識に基づいて勇気を出し、記事を書いたり、企画を立てたりしたはずです。そして、そういった良識と行動力を持つユーザーがいることの意味とその価値を、御社およびカクヨムを運営するスタッフ一人ひとりは考えていただきたいと思います。


 末筆ながら、御社の今後のご発展をお祈りしております。


 イカワ ミヒロ




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