精神病闘争記
なつのあゆみ
第1話 幼少期
縁側にいた。
3歳のわたしは不安で体を固めていた。
微風が吹いた。伸びた前髪が目に入ってちくりとした。私の髪は剛毛で針金のように太く硬い。
体は細い。
背が小さく肉がついていない。
サンダルが片っぽ落ちる。足も小さすぎる。
微動だとしない幼児に話しかける大人はいない。
気がついたら母は消えた。
父は真夜中に帰ってくる、たまに見る、見るだけ。
祖母は台所で家事をしている。祖父は仕事だ。ひいばあちゃんが私を一瞥して通り過ぎる。
体の動かし方を忘れそうだった。
にゃあ、と猫が鳴いてわたしに寄り添った。
わたしはようやく息をした。
猫をなでた。
実の母親が突然、いなくなった。
3歳の子供はそれをどう思ったのだろう。
わからない。
わからないから、こわいから、かなしいから、きっと母のことを忘れたのだろう。
※
わたしは祖母を「母」と思い込んで育った。
祖父と祖母が夫婦だと知っていて、父は父であると認識できた10歳頃。
そこに祖母が「母」な訳がなく、おかしいと気づいて行動に出た。
誰も、わたしの出生を教えてくれなかった。
だから探した。家中のタンスの中を漁った。
「母・ひろこ」
そう書かれた、ひなびた物が入っている木箱を見つけた。へその緒だった。
ひろこ。
わたしを産んだ女の名を、11歳の時に初めて知った。
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