第3話  魔石と危険性

 世界中に五つの重要な何かを守るとされる【】が存在している。

 そう呼ばれる建物がの一つがこの白銀シロガネ巨塔キョトウなのだ。

 そして、それぞれの重要建築物には強大な力を持つ管理者が存在し、ある者は訪れる者の知識を試し、認められたものに叡智を与え、またある者は心の強さを試し、それを乗り越えた者に相応の願いを叶えたという。

 そして、アレクもそんな管理者の一人であり、彼の行う試練はと呼ばれる。





『ふ〜~ん、それでやっと動くことになったのかよ。毎度毎度おっそい奴だなぁ』

「相変わらず嫌味なお前に言われたくはない……」


 日も沈んだ真夜中の塔の頂にて、私は別の管理者達と特殊な水瓶を使い通信をしていた。

 水瓶の中からは聞こてくる声は嫌味ったらしいが彼なりの喝なんだろう。


「それよりもだ、お前等から何か良い提案ないかと思ったのだがどうだ?」

『ってもなぁ、僕達んトコとそもそも試練の仕組みや建物の構造からして違うから大した意味ないと思うぞ?』

「別にいいぞダンテ、私もそれを承知で訊いてるんだ」


 ダンテ、またの名を海神カイシンダンテ。深海に輝く【珊瑚サンゴ神殿シンデン】の管理者だ。このような軽い男だが実は私よりも500年以上前から管理者をしている。

  


『それなら良いけどさ。とりあえずどっから手を付けんの?』

「塔全体の内装や試練の仕組みとか魔物増員とかあるんだが、正直思いっきっただけでどこからしたら良いかはよくわからん……」


 昔馴染み相手だから話せているが、計画自体はかなり漠然としている…。

 それもあって他の奴等に見られないようにこうやってコッソリとダンテと話を繋げたのだが。


『…………、あ、うん。昔から知ってるからそんな気はしてたけどさ…まあ僕もそこの塔の問題はだいたいは分かってるからそこは助言するよ』

「助かる……」


 なんだかんだ人の良い男だ。伊達に調の担当の管理者ではない。


『しかし他の三人いないのは逆に良かったかもな。知を担当してる彼女からは役立つこと教えてくれたかもしれないが。まあ管理者の中で力を担当する君が実力も上なんだからもっとしっかりしてくれよ』

「そうだよな。まあこうやって久々に話せただけでも元気出たよ」

『うんじゃ、まあとりあえず本題の続きといきましょか』


 それからしばらく私はダンテと話し合った。改装の必要だろう箇所について、それだけにどれだけの人手が必要か等。

 そして話してる内に一夜が開けた。


『そういう事で後は頑張りなよ〜』

「そっちも気をつけてな」


 水瓶から声が聞こえなくなるのを確認した私で直ぐにその場を離れようとした。


「あっ」


 やり残した事を思い出した。どうせ早朝でまだ会議もやらない筈で、昨日長めに瞑想した甲斐あって今日分の気は確保出来てるためそちらを先に済ませることにする。

 私は再び水瓶の前に立ち、ダンテとはまた別の相手へと通信する。

 すると水瓶からむさ苦しい男の欠伸が聞こえてきた。


『ふぁあああ、何だよ朝っぱらから。そっちとの時差は殆ど無いの知ってんだろアレク』

「朝っぱら悪いなマクシム。お前に訊きたい事あって」


 マクシムとは昔からの知り合いでかなりの実力者でもあり何度も相手をしたことがあり、私を負かした事もある男だ。


『…………、ははーん。さてはアイツが来たな』

「やっぱりか…」


 アイツ…、やはりセシルの伯父はコイツのようだ。


『可愛い娘だったろ?だけど間違っても手なんか出すなよ?』

「私がそんな事するわけないだろ」

『そう、じゃあ俺二度寝すっから』

「おい、ちょっと待てよマクシム!」


 マクシムから通信が一方的に切られた。コイツはコイツでせっかち過ぎるから困る……。

 まあ確認出来ただけよしとするか。



――――ニ時間後



 私は軽い朝食を済ませて50階にいた。

 ここは広い空き部屋が多かったのでその一つを会議室として使うことにすることに決まっており、誰の姿も見えないのでどうやら私が一番手のようだ。


「あっ、おはようございます!」

「なんだもう来てたのか」


 私が来て直ぐにガットン君も会議室に入ってきた。ドワーフは元々朝早くから仕事を始めると聞くがこういうことも早いとは。


「やることは山積みだが頼りにしてるぞ」

「はい、既にドワーフの仲間には伝えているので何か必要な道具や設備、資材等あれば大概の事はどうにかしてくれる筈です」

「それは頼もしいな。君も何かあったら直ぐに伝えてくれ」

「分かりました。とりあえず僕等で話せる範囲だけでも先に進めましょうか」


 そういうことガットン君と二人で先に内装含む塔の改築関係等について話すことになった。

 私はダンジョンの大改造や強力な者同士が戦いやすいような空間拡張等提案していき、ガットン君はそれを真摯に聞いてくれた上でよく考え、それに必要な材料や工程等を細かく話し、紙に纏めてくれる。


「石造りだけのダンジョンだけだったものを灼熱の空間、全面凍りついた空間等のダンジョン全体の幅広さは特に必要な物が多いですね。ただ、どっちにしろ塔全体がかなり老朽化が進んでるのでこの際大掛かりになりますが全体を改装する見積もりで進めた方が良いでしょう」

「なるほどな。確かにこの際だから纏めてやっておいた方が良い」


 塔は定期的に細かな修繕等は行っていたのだが、如何せんあまりにも巨大で作られた時代がかなり古いために下手に触れづらかったので表面的な修繕ばかりだったのだ。

 なので内面全体を改装するような今回の機会だからこそ全体を取っ替えるぐらいでやった方が塔の状態としても良い筈だろう。


「あくまで僕個人の意見ということで他の方の意見もしっかり踏まえた上でいきましょう。僕より経験豊富な父や他の仲間の意見も欲しいので」

「各改装の固定術式やそれを発動させ続ける地脈からの魔力経路も調整しなければならないからな」

「僕はその手の事は詳しくありませんしね。どっちにしろ各方面で精通した方々揃えてから本格的に着手するべきでしょう」


 ということでこの話の続きは皆が集まるまでひとまず止めておくことにした。

 しかし、仕事となると本当によく喋るなこの子は。切り替えが激しいのだろうか。


 それからしばらく経ち、ガネット等続々と部屋に入ってきたので会議を始まった。

 まずは最高責任者の私から発言をする。


「まず一番の問題として試練の見直しについて話し合おう。何か案があるなら言ってくれ」


 すると近くにガネットの隣に座っていた者が挙手をする。

 ほう、さっそくアイツか。


「それでは我が輩から良いですかな?」

「お前は古参だから期待してるぞ」


 彼の名は飛竜クラウス。

 今は人間大の大きさで四肢も人間に近い状態だが、戦闘時は本来の飛竜の姿で挑戦者の相手をする。飛竜の姿では巨人よりも幅を取るため仕方なくこの状態で参加しているのだ。

 彼はという役職のの内の一体であると同時に私より以前からこの塔にいるかなりの古参で私は今でも彼から色々と教えられる。


「アレク様のご了承を得たのでそれでは我が輩から。オッホン!では大前提として、挑戦者が現れなく最大の原因とは即ちダンジョン! 試練! 魔物の実力! この3つが大きいのは皆は承知しておるね? そして! それは我が輩の責任も大きい!情け無くて悪い! がその事を君達も理解してるが先に確認しておきたい」


 クラウスは大きく頭を下げつつも直ぐに他の魔物達の方を見る。 

 やたらと声が大きいがこの状態だと声量の調整が難しいらしいので仕方ない。むしろこれぐらいの方が誠意が感じられる。

 クラウスの発言で部屋の入口辺りに座っていた一人も口を開いた。


「クラウス様のおっしゃる通りでございますね…私からもよいでしょうか」


 彼女は魔術師フィオレ、顔立ち人間だが、山羊の角と尾を生やした獣人にしてこの塔随一の魔術の使い手の試練長である。


「そのための会議なんだからどんどん言っちゃいなよ」

「ディアナの言うとおりさ、話してくれ」


 フィオレはガネットに並んでこの塔の頭脳なので彼女からの意見はたくさん欲しいぐらいだ。


「それでは。まず、今まではその時その時で挑戦者が来る前に試練やダンジョンの内装を調整したりしておりましたが、どうしても長い年月の中ではその幅にも限界があり魔物を毎回毎回別の種に取り替えてるわけでもないので、ある程度の攻略法というものが外に伝わってしまってると耳にした事があります」

「我が輩も聞き覚えがあるな。前に我輩を負かした者の一人は事前に聞いていた通りだと言っておったからな」

「楽な箇所があっても道中が長いのはまるで無駄に長い作業をしてるようだとすら話す方もいたそうです」


 聞けば聞くほど難しい問題なのだと感じさせられる。我々としては鬼畜的な難しさというより一定の障害、壁としてのスタンスで挑戦者達の相手をしていた。

 だが、我々と違って挑戦者達は自由で考え方も違ったりするので彼等の多くからするとこのような在り方故にある程度分かりやすく、面白みがないのでそもそも来ることすらしなくなったのだ。


「現状世界中にダンジョン等が多くある関係上、行きやすいダンジョン等に行く事が増え、ひたすら長いダンジョン登る連中減ったのは時代の変化を感じるわよね」


 ディアナは痛いところを突いてくる。

 だけどそれをしっかり理解した上で事を進めなければ何も改善されないのもまた事実。


「実際このままでは強力な魔物増やしてもまず舞台となるダンジョン等を改善しないことにはまた同じ事の繰り返しだろうな、基本的に迷宮式のダンジョンだが、他のも取り入れれるだろうかガネット?」

「そうですね。例えば暗闇のような空間なら手軽に出来ますが、それはそれで万が一の塔への誤射を考慮した耐久性の強化による魔力増加を必要とします。地脈からの魔力を使用自体は可能なのですが、それを行った場合、壁の展開に必要な魔力の確保が保証出来かねますね」

「どうしたものか……」


 壁の展開が不完全になればまるで意味がない。結局のところ迷宮式のダンジョンなのは維持に余計な魔力がかからないからだ。


「トラップとかを用意したことありましたけど、それこそ何階か登ってるだけで割とアッサリ仕掛けを把握されたりしてましたね……」

「何度か塔の外側の強風を利用したものも行ったが、我が輩のように飛べぬ魔物が落ちかけるという事態も発生する始末であったな……」


 試練長二人も何か役に立つ案を出したいようだが、いけると思ったら何か別の不備が出るの繰り返しの危険性ばかりなため、二人でもなかなか良い案が浮かばなかった。

 そこでガットン君が小さく挙手をした。


「あのー……、ひとまず魔力面、耐久面でしたら役に立つかもしれない手があるかもしれないです……」

「「ええっ!? 本当(です)か!?」」

「うわぁ!?」


 ガットン君の発言に驚いた試練長達は凄い勢いでガットン君に詰め寄り、椅子から転げ落ちそうになったところを隣に座っていたセシルが支えた。


「大丈夫ガットン?」

「う、うん……。心臓は止まるかと思ったけど……」

「す、すまなかったな少年、我輩達もつい……」

「頭脳と呼ばれていながら冷静さを失うとは情け無かったです……、ごめんなさ……ヒィ!?」


 クラウスに続いてガットンに謝罪するフィオレであったが、セシルの威圧的な睨みに驚き声をあげてしまった。


「……」

「セシル! やめなって! 驚かせたのは僕だし!」

「その怖い目つき抑えなさいって! ほら、深呼吸して!」


 ガットンとディアナまでもが冷や汗を流しながら慌てながらセシルを宥める。

 うん、間違いなくあの男の姪だ…。


「…………ハッ、あの……すいませんでした」


 セシルは気まずそうに謝罪をして椅子に座り、他の者達もそれぞれの席に戻っていった。

 こっちも肝を冷やしたがとりあえず再開するか……。



「じゃあ気を取り直してガットン君。さっきの続きを」

「あっ、はい。実は僕達ドワーフが使ってる魔石の技術が役に立つと思ったんです」


 魔石といば鉱石の一種で膨大な魔力を内包し変異した鉱石の一種と聞いた事がある。それさえあれば少ない数でも地脈からの魔力の代わりとはなるだろう…………、と思えなくもないが引っかかることがある。


「しかし魔石はそもそもの数が少ない筈です。それに魔力の消耗も速いためそう長くは保たないと聞きました」


 フィオレの指摘通り魔石にはこのような問題があり、急に魔力が切れ大きな事故が発生する可能性だってあった。

 だが、ガットン君はそれなりに自信のある表情をしていた。


「そこは安心してください。実は僕等の中で鉱石について色々と研究していく中で魔石のを見つけたんです」


 再活用……?つまり、どういうことだ?


「口で言っては駄目だと思いますのでここは一つ試してみます。ディアナ」

「仕方ないわね。アンタ等見逃すんじゃないわよ」


 どうするのかと思いつつ二人を見る。

 するとガットン君は懐から魔石を取り出す。しかし魔石の輝きは失われており、それは只の魔力の無い石に見える。


「それでは見てください。じゃあディアナお願い」

「ふふ、ショーをしてるようで面白い。じゃあいくわよ!」


 ガットン君がディアナ目掛けて魔石を投げつける。するとディアナは勢いよく炎の魔法を魔石に向かって放ったではないか……、っておい!


「何やってんだディアナ!? ……え?」


 何と炎は魔石に吸い込まれて消失しており、代わりに魔石に魔力の輝きを取り戻しているではないか。これはどういうことなんだ?

 するとディアナは大声で笑いだした。


「アッハッハッ! ビックリしてるわね! 教えてやんなさいよガットン!」

「す、少しは静かにしてよディアナ……、近くにいる僕の頭に響くんだから……。まあとりあえずこういうことで魔石の魔力の補充です」


 補充という言葉に言葉を失う。

 普通、魔石という物は魔力が枯渇したらもう何も役に立たない石でしかないはずだからだ。それに再び魔力のある石にするというのは聞いたことがない。


「どうしてこの様な事が出来たん?魔石自体は世界中にあるが、補充なんて出来るのならとっくに普及してるはずだが」

「そりゃそうよ。なんたってこれはドワーフの魔石の研究とアタシとセシルが見つけた錬金術の成果を合わせた、秘密の発見なんだから」


 ディアナが自慢げに口を開きセシルはそれに呆れ顔だ。

 だが、これで納得がついた。錬金術により性質の変化が起きた石で従来の魔石とはかなり別物なのか。

 セシルはやたら高笑いしながらうるさいディアナは放っておいてガットン君の肩を小突く。


「続きはガットンが言いなよ。今のディアナに説明させるのもアレだから」

「分かったよ。それではこの石について説明を続けます」


 それからガットン君は石のさらなる詳細を説明しだした。

 過程は省くが、元々はガットン君達ドワーフが魔石で動く道具や設備を本格的に導入するために何とかして長持ちする魔石の研究を進めていたらしいが、時を同じくしてディアナ達魔王軍も戦力増強のために協力する代わりに技術を共有し合う話をつけた。

 ディアナは友人のセシルと共に錬金術の書物を掻き集め、ドワーフ等と共に錬金術とドワーフの加工技術により遂に実現を果たし、普通の魔石や使用済みの魔石を先程見せてもらった物と同質の魔石、ディアナ命名したへと生まれ変わらせたのだ。

 何度も再補充が可能な事を証明しており、何よりもある程度の魔力さえ残っていれば時間が経てば自然的に魔力が回復して満タンになるようだ。


「改魔石自体は既に僕達の住む里の洞窟にたくさんあるので此方に提供しても問題ないと思います。ただ……」

「ん?どうしたんだガットン君」


 ガットン君は怯えたような震え声になっている。

 おそらく大体は察せられた。


「皆さんが改魔石を知らなかったように、僕達の里の者と魔王軍の方々の一部しか知りません。他所にその存在が漏れると僕達ドワーフの身に危険が及ぶ可能性が高いからです……」


 それはそうだ。人間、魔物、多くの種を問わずしてこの改魔石の存在を知られるのが危険だということは想像に難くない。下手をすると大きな戦に繋がる。

 私達の中の空気が一気に重くなる中、セシル

がガットン君の前に出る。


「元々、私やディアナも貴方にこの事を話すべきかか悩んでました。ですが、ガットンが他のドワーフと話し合った末にディアナが信頼出来る相手なら大丈夫だということになったんです」


 そこまでの思ってくれてる事には感謝しかない。

 すると、私の後ろにいたガネットがディアナの方に近付く。


「マスターには黙っておりましたが、改魔石については事前にディアナ様から話は通っていました。ただ、貴方様が決心するまであえて言わないことにディアナ様と決めたんです」

「アタシ等が来る前にアンタがヘマやってその存在について漏れてもしたら洒落にならないからね。ただでさえ魔王軍の再編に手間取ってる中で魔族の勢力対立が悪化してピリピリしてるってのに。まあ今回来たのはこの改魔石あるから大丈夫ってのもあるんだけどね」


 ディアナは溜め息を漏らす。

 それ程慎重に進めねばならない事なので私に黙っていたことは正しい。

 ドワーフだけではなく今の魔王軍でも何かあればかなりの損失になるだろう。


「ひとまずリスクはあるがこれがあれば色々とやりやすくなるな。とりあえず全員一度席に戻ろうか」

「まあそろそろお昼ですので、一度ここで中断してからその後でってことでは如何でしょう?」


 悩んだり説明されたりで気にしてなかったがもう昼だったのか、確かに一度整理させるためにも休んだ方がいいか。


「ならニ時間後にまたここで集まろう。じゃあ一旦休憩!」


 各々は解散していき会議室は私、ガットン君、ディアナ、セシルの四人だけになる。


「ところでアレク、分かってるわよね」


 ディアナが私に確認してくる。それが何なのかは一つしかないが。


「ああ分かってる。塔に活気を取り戻すのは第一だがそれを起点に大陸のこの辺一帯の守備を固め、戦力を増やし、を見つけてどうにかするって話だろ?」

「ええそうよ。奴等、アンタのトコ襲ったと同じ時にアタシ等のトコまで襲ったんだから。」


 あの連中、かつて塔の壁が不完全で私が動けなくなった時に襲撃してきた奴等のこと。

 奴等は塔を襲うと同時に別戦力を大陸の西側にある魔王城も襲撃していた。

 どちらも何とか襲撃者を全滅させたものの、魔王軍側の調査でまだまだこの大陸に潜んでる事が判明、捕らえようとするもののいずれも失敗。その後奴等が襲撃してくる事は無かったが他の地域を襲って何かを探しているらしく、どうやらこの十年の間にかなりの被害が出たそうだ。


「数が未知数の相手に今のアタシ等は下手に動いたってどうなるかわからない。アタシやお祖父様、お互いの勢力のトップの実力者はやられることはなくても逃してもおかしくない」

「そこで隙を作られでもしたらディアナのところも、アレクさんのところも魔物が減りかねないからね。私も出来る限り力になるつもりだから」

「あんがとセシル」


 セシルとディアナは相当信頼し合ってる様子だ。

 この様子だと付き合いも長いのだろうな。


「僕もドワーフの里が襲われでもしたら大変ですし力になることは出来るだけ協力します。戦いが出来る訳じゃないけどドワーフなりには」

「その言葉だけでも助かるガットン君。あとすまないが、ちょっとこの二人と話があるから少し席を外してくれないか」


 この話はガットン君がいても問題ないかもしれないがもしかしたらって事がある。


「? わかりました。それでは下の階で昼食でもいただきます。」

「ああ、ゆっくりしてていいからな」


 ガットン君が会議室から出ていくのを見てから私はディアナとセシルの方を見る。


「彼がいなくなった事だからもう訊いてもいいよな」

「何の事か想像ついてるからいいわよ。まあ、別にガットンに聞かれても問題なかったけど。……、じゃセシルからお願い」


 ディアナが珍しく静かな物言いになりセシルを見る。


「……先に確認しておきますがこの事を言いふらさないでくださいね?ガネットさんと魔王軍の一部には既に教えてますが」

「ああ分かってる。私も友人の姪に迷惑かけるつもりはない」


 彼女が慎重になるのもそうだ。魔物間ではあまり知られたくない身分の筈だからな。

 そして彼女はその事について遂に口を開く。


「私の伯父は

「…………」


 ディアナは黙っている。そこには憎しみを感じないがどこか悲壮感を漂わせていた。


「そして私はです」

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