第41話 見殺し

自力で見えない敵の洗脳攻撃を打ち破ったかと思われたシーフ。

しかし、無情にも獣たちに殺されてしまった。

2体の獣に噛みつかれた彼は、大量の血を流しながら息絶えてしまった。


おぼろげながら見えない敵のしようとしていることが見えてきた。

今までの死者の傾向を見ると、①自殺 ②大量の出血 ③種族は問わない。

見えない敵は、何らかの理由でこれらの死体を大量に作っている。

何の目的があるかは知れないが、糞野郎には違いない。


さすがに目の前でシーフが斬殺されるのを見て、抑えきれなくなったハルクが獣に突進していった。

驚いた獣たちだったが、獣ならではの反応の速さですぐに戦闘態勢に切り替えた。


恐らく見えない敵も気付いただろう。

ハルクに【千里眼】を使って何らかのアクションを起こすはず。

僕はその魔力が流れるタイミングを待って、こちらも【千里眼】で相手の正体を探ってやろう。


そのチャンスは一瞬だった。

ハルクが獣の首をつかんで床に叩きつけた瞬間、魔力の流れの乱れを感じた。

僕は、その流れの元の方向を狙って【千里眼】を使用。


するとローブをまとったガイコツの姿が見えた。

おそらく奴がハルクの言っていたガイコツだろう。

周りの壁が現在の壁の造りに酷似しているので、おそらく同フロア内にいるのだろう。

やや壁の間の間隔が広いので、どこかの部屋にいるのかもしれない。

【鑑定Lv7】を使ってやろうと思ったが、気付かれて僕の【千里眼】を遮断されてしまった。


具体的な場所まではつかめなかったが、ガイコツの奴はこのフロアにいるのだ。

早くハルクに知らせてやろう。

僕は最後の一匹の獣の首をつかんでいるハルクの元に寄った。


しかし、ハルクは僕と目を合わそうともせず、生き残っていたもう二人の冒険者の方を指さした。

生き残っていたはずの二人の戦士は、剣を胸に槍を腹部に刺して息絶えていた。

ハルクは無言のまま進行方向に向かって歩き始めた。

僕は無言でその後を追いかけるしかなかった。


僕とハルクはお互いに言葉を交わさないまま、黙々とダンジョンの探索を行った。

今までのような連携はない。

敵を見つけたとしても、それぞれで対処していく。


何度か声をかけようと思ったが、何て話しかけていいのか分からない。

こういう時の対応は現実世界でも苦手だった。



・・・


僕が15歳になった時、友達の両親が離婚をした。

彼は両親のことが大好きだったので、最後まで離婚をすることに反対していた。

しかし、子供がいくら抵抗しても現実は変わるわけはない。

努力もむなしく、彼の両親は離婚をしたのだ。

彼を巡っての親権問題はさらにひどかったようだ。

どちらが彼を引き取るかが難航したのだ。

父親も母親も彼を引き取るつもりは無かった。

相手に親権をなすりつけようとしていたのだ。


愛していたはずの両親から育てることを拒否された友達。

明るく人気者だった友達の姿は、もうどこにも無かった。

僕は彼を慰めようと思ったが、なんと声をかけていいのか分からなかった。

彼の境遇を考えるとかける言葉が見つからなかったのだ。

いつしか僕は彼を避けるようになっていた。


彼と一緒にいる時間が、僕には苦痛でしかなかった。

彼も僕の態度に気付き、僕に近寄ってくることはなくなった。

僕たちは会話をすることはなく中学校を卒業し、二度と会うことは無かった。



・・・


僕とハルクは友達ではない。

会ってそれほど時間も経っていない。

気まずければ関係を切ればよい。

お互い不仲のまま一緒にいる必要なんてないのだ。


ただ、ハルクと離れるのはどこか引っかかる。

なぜか彼と離れてはいけない気がする。

ダンジョンを攻略するには彼の力が必要となると、僕の勘がそう告げる。

彼は僕よりも強い、力がある。

でも、それだけではない気がするのだ。


僕は先行するハルクを呼び止め、冒険者パーティーを見殺しにしたことを詫びた。

「オデ、オデ…。あんなことあっだら黙っていられねぇんだ。おめぇも考えがあるだども、オデは我慢できんねぇ」


僕は彼にハルクの好きなようにしたらいいと告げ、お互いの戦い方には深く干渉しないように取り決めた。


僕はハルクに千里眼でみたガイコツの印象、ガイコツがいたエリアについて話した。


「オデ、その場所知ってる。こっからズァ―ッと行った所にある部屋だ。オデがおかしくされたどもその部屋だ。」

意外にも僕が見た部屋の印象を話すだけで、彼は場所を特定できたようだ。


もうすでに場所を移動しているのかもしれない。

ただ、このままダンジョンを探してもジリ貧だろう。

千里眼を持つ彼にとって僕とハルクの情報は筒抜けだろう。

遠距離攻撃を受けてしまうリスクもある。


それならこちらから攻撃をしかけよう。


注意深い奴のことだ。すでに移動しているかもしれない。

しかし、恐らくその可能性は低いだろう。

ガイコツは何らかの研究をしているようだ。

頻繁に場所を変更するとその研究が遅れてしまう。

僕が【千里眼】を持っていることは知っているはずなので、たとえ場所を変えても察知されることは目に見えている。


それよりは準備を整えて迎え撃つ方が得策だ。

罠もいくつも用意されているだろう。

アドバンテージはガイコツの方にあるのだ。

それでもここでガイコツを倒しておかねばならない気がする。

奴とは何か因縁めいたものを感じる。

僕はマップで位置を確認し、ガイコツがいるであろう部屋に向けて進み始めた。

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