第29話 再インストール

まるでチーズを切るが如く、獣人は何の苦もなく宝箱ごと真っ二つに切り裂いた。


えっ、僕これで終わり?


不思議と痛みは感じなかった。

僕は地面に横たわりながらも。今自分に起きていることが理解できていなかった。


剣を収め、立ち去る獣人。

魔法使いの女も後をついて行ったが、途中で引き返し僕の所へ来た。


(今回は見逃してあげる、これで借りは返したわよ)


そう告げて、彼女は獣人の元へと走って行った。


彼女は何を言ってるんだ?

僕は死のうとしているのに…。


僕の視界が狭くなり、光が段々と失われていく。

眠い。そのまま寝てしまいそうだ。

何も聞こえない。何も匂わない。

そして、視界は真っ暗となった。


・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・!!


「生命活動の現弱を確認」

「再生モード機動のため、アプリケーションを全て停止します」


・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・


「スタンダードミミック大破のため、デフォルト装備「木箱」に変更」

「宝箱喪失のため、クラス初級ミミックをミミック見習いに変更」

「ミミックのクラス変更のため、ミミック固有スキルを喪失しました」

「ステータスの補正値を喪失しました」

「現在の環境をバックアップします」

「バックアップが終了しました。再起動します」


・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・


「インストールが完了しました。再生モードを終了します」


・・・・・

・・・・・

・・・・・

・・・・・


気が付くと僕は、毒の沼地のほとりにいた。

すでに獣人たちも魔法使いの女もいない。

僕と旅を共にした、カエルの死体はそのまま残っていた。


あれ?僕は生きている?

確かに僕は獣人に切られた。

自分でも死んだと思っていた。

しかし、なぜか僕は生きている。意識もはっきりしているのだ。


ただ、僕の体はどこか今までとは違った。

動きが軽くどこか頼りない。

口を開けてみても重さは感じず、すっと開けることが出来る。

あれ、宝箱じゃない!?

僕の入れ物がいつの間にか木箱に変えられていた。


僕は鑑定Lv5で自分の身に何が起こったのかを調べてみた。



【ステータス】

名前:光

種族:ミミック

クラス:ミミック見習い

称号:モンスターイーター、ラッキーマン、マンイーター

Lv:10

HP(体力):1800

MP(魔力):2000(+2500)

SP(スキルポイント):2500

筋力:650

耐久:1000

知力:1500

器用:700

俊敏:400

運:40000

【スキル】

攻撃系

食べるLv8、早食いLv4、舌Lv6、溶解Lv4、体当たりLv6、毒針Lv5、狙い打つLv2、飛びかかるLv3、悪食Lv6、不意打ちLv3、振り回すLv1、格闘Lv3、落とし穴Lv1、投石Lv1、鞭Lv3、斬撃Lv2、呪いLv1、奪うLv7


耐性

毒耐性Lv6、溶解耐性Lv2、暗闇耐性Lv1


補助

方向転換Lv5、、鑑定Lv5、擬態Lv5 逃げるLv5、異空間収納Lv1、身体強化Lv1、応急処置Lv2、甘い匂いLv4 、マッピングLv1、癒しの光Lv2、鉄壁Lv3、攻撃回避Lv2、羽ばたくLv1


恒常スキル

視覚Lv5、聴覚Lv5、味覚Lv4、這うLv5、意思疎通Lv4、嗅覚Lv1




確認したところ、クラスがミミック見習いとなっており固有スキル、限定スキルの欄が削除されていた。

補正値もなくなっており、ステータスにも若干の操作がされていた。


Lvやスキルはそのままだったのは不幸中の幸いだが、戦闘力が大きく削がれてしまった。

しかし、いつまでもこの場所にとどまっていることはできない。

獣人に襲われたことや護衛のカエルたちの斬殺。

一刻も早く長に知らせないと。


僕はカエルたちを落とし穴Lv1で作成した穴に埋め、長たちが住む沼に向かって来た道を真っすぐ戻りはじめた。


箱の重量が軽くなった分、移動は楽になったが蔓などの障害物に引っかかることが多くなった。

しかし、泣き言は言ってはいられない。

早く伝えないと長たちに危険が迫るかもしれない。


途中で何度かモンスターに襲われたが、戦わずに逃げ続けた。

傷つき、箱が破損をしても僕はひたすら沼へと向かった。



・・・・・



ようやく沼に到着したが、辺りはひっそりと静まり返っていた。

沼は相変わらず毒々しい臭気を放っている。

長たちはどこにいるのだろう?


沼には潜れない僕は、周囲をくまなく探し始めた。

近くを散策すれば、カエル一匹くらいは出会うかもしれない。

しかし、どこを探してもカエルたちは見つからない。


僕は沼のほとりでカエルたちの出現を待つことにした。

1時間、2時間、5時間、8時間、12時間経っても一向にカエルたちは現れない。


すでに獣人にやられてしまったのだろうか?

いやいや、戦ったのなら痕跡くらいはあるはず。


僕は待っている間、なぜ長が僕に獣人退治を依頼したのかを考えてみた。

明らかに実力差があるというくらい、長たちが分からないはずがない。

そんな僕にカエルを2匹も護衛につけてくれた。

なぜ?


そういえば、長は獣人はカエルを倒す以外に宝も集めていると言っていた…。

…!?

疑問が解決してきた。

僕はおとりにされたのだ。

宝物が好きな獣人にとって僕は格好の餌。

素材集め対象のカエルと共に行動をしていれば、彼の興味を惹けるだろう。

カエルたちが急いで、離れたのもそのため。

彼らも長たちを逃がすためのおとりになるつもりだったのだ。


カエルたちが僕を助けてくれたのも、囮を最大限に生かすため。

友情が築けたと思っていたのは僕自身の錯覚だったのだ。


段々と怒りがこみ上げてきた。

僕はカエルらが逃げるのを助けるために、死にかけたのだ。


独りぼっちだったこの世界。僕は孤独から抜け出す機会を得たと思っていた。

しかし、この世界は僕が思っていたよりも遥かに腐っている。

信じる者は騙される。


僕は創造主たちのことを侮っていた。

彼らは思ったよりもクズだったのだ。


甘い心は一切捨てよう。

僕はミミック。

だまして食べるだけのモンスターだ。


絶対に生き残ってやる。

例え、誰を食べようとも。


その時、僕の耳に機械音が響く。


「称号【闇落ち】を獲得しました」

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