第22話 水中にて
マッドクラブに投げられた僕の体は大きな弧を描いて、水面へと吸い込まれていった。
(これってやばくない?)
バッシャーン
大きな水しぶきをあげて、僕の体は池の底へと沈んでいく。
池は思ったほど深くは無いようだ。
およそ水底から水面まで3~4メートルくらいだろう。
今は砂が舞い上がっているため視界が悪いが、池の中は意外なほど澄んでいた。
水草が辺り一面に群生し、魚も群れで泳いでいる。
奥の方では大型のタニシのような生物の姿も見えた。
まるでちょっとした水族館だ。
僕はしばし、こののどかな環境を楽しんでいた。
(だめだ、だめだ)
僕はふと我に返った。
僕は今絶対絶命の状況にいる。
マッドクラブに宝箱のまま池の中に放り込まれたのだ。
水圧に阻まれ身動きが取りづらく、口を開けるだけでも一苦労。
幸いにも呼吸はできるようだ。
もちろんマッドクラブは僕を池に投げ捨てただけでは無いだろう。
おそらく僕を探しに来て、ハサミで引きちぎろうとするかもしれない。
ほとんど身動きのとれない僕は、奴らの攻撃をかわすことは出来ないだろう。
一体どうしてこうなった?
僕は奴らの縄張りにうかつに入ってしまったのだ。
チュートリアルも危惧していた縄張り。
僕はまた、慢心していて注意を怠ってしまった。
でも済んだことは仕方がない。
この状況を打破する方法を考えねば。
僕は自身の使えそうなスキルを見るために、ステータス画面を開いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【スキル】
攻撃系
食べるLv8、早食いLv4、舌Lv5、溶解Lv4、体当たりLv6、毒針Lv5、狙い打つLv2、飛びかかるLv3、悪食Lv6、不意打ちLv2、振り回すLv1、格闘Lv3、落とし穴Lv1、投石Lv1、鞭Lv3、斬撃Lv2、呪いLv1
耐性
毒耐性Lv6、溶解耐性Lv2、暗闇耐性Lv1
補助
方向転換Lv5、、鑑定Lv5、擬態Lv4 逃げるLv5、異空間収納Lv1、身体強化Lv1、応急処置Lv1、甘い匂いLv4
恒常スキル
視覚Lv5、聴覚Lv5、味覚Lv4、這うLv4、意思疎通Lv1、嗅覚Lv1
限定スキル
とらばさみLv4、弓Lv3、マッピングLv1
ミミック固有スキル
魔眼Lv1 重力操作Lv1 おびき寄せるLv1
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
現在考えられる方法は2種類。
①自分で脱出する
②脱出を手伝ってもらう。
①に関しては、水中での移動スキルを持つ生物を食べてそのスキルを得ることだ。
効果のほどは分からないが、相手を呼び込むスキル【おびき寄せるLv1】と【甘い香りLv4 】を使用し、近づいたものを食べる。
移動スキルが獲得できるかどうかは運次第ではあるが、比較的容易に行いうる作戦だろう。
②に関しては、【魔眼Lv1】を使用する。
魔眼の8つのスキルのうちの一つに【チャーム】がある。
このスキルは相手の精神に作用し、一時的に相手を魅了・使役させることができるようだ。
しかし、効果や持続時間についてはよく分かっていない。
ぶっつけ本番の博打的要素の塊だ。
しかし、いずれの作戦を採ろうとマッドクラブに見つかれば終わりだろう。
そのためには出来るだけ素早い行動が求められる。
僕が選んだ作戦は…。
①だ。
効果の分からないスキルをぶっつけ本番で使用するのは、かなり危ない橋を渡る必要がある。
早速僕は【擬態Lv4】で身を隠し、【おびき寄せるLv1】を使用。
僕の体から紫色の光が溢れ、広範囲に広がっていった。
まず反応をしたのが、近くを泳いでいた魚たち。
警戒しながらも僕の周囲に集まってきた。
僕は口を開け、【甘い匂いLv4】を数か所に噴出。
甘い匂いに誘われてか、次々魚たちが僕の口元に近寄ってきたのだ。
バクン。
僕は先頭の3匹の魚たちを口の中に入れた。
瞬時に消化される魚たち。
しかし、残念ながら有効なスキルを獲得することは出来なかった。
何度も同様に繰り返すも移動スキルはおろか、新たなスキルを獲得することも出来なかったのだ。
そこへ僕を捜索しに来たのか、先ほどのマッドクラブが現れた。
一匹のマッドクラブは僕が足を切断したので、この場に来ることは難しかったのかもしれない。
マッドクラブは僕の姿に気づいたらしく、僕の方へ真っすぐ向かってきた。
(どうしよう?)
やつは身動きのとれない僕を、ハサミでしっかりつかみ頭上高く持ち上げた。
マッドクラブははさみ切ろうと、力を込めながら僕の体を締め付ける。
まるで万力で圧縮するかのごとく、ミシミシと音を立てながら宝箱に亀裂が入っていく。
(このままではヤバイ)
僕は舌を伸ばし、僕をつかんでいるマッドクラブのハサミに巻きつけた。
もちろんこれだけでは、マッドクラブの締め付ける力を止めることなんてできない。
僕は巻きつけている下に【溶解Lv4】を使用。
ジュッ
マッドクラブのハサミに香ばしい音が鳴り、マッドクラブのハサミに焦げ目がつく。
しかし、これは諸刃の剣。
僕自身の舌も溶解による大きなダメージを受けていた。
それでも僕を離さないマッドクラブ。
より力を込めて僕を締め続けた。
ミシッミシッ…
僕の体に嫌な音が響く。
もうこれ以上は耐えられない…。
【重力操作Lv1】
僕は自分自身に重力操作のスキルを使用し、箱の重さを5倍と変化させた。
突然箱の重さが増し、片手では持ちきれなくなり地面に落とすマッドクラブ。
僕は再度【重力操作】を使用し、箱の重さを1/10に設定した。
浮力が働き、勢いよく浮かび上がる僕の体。
僕の体はプカプカと水面に漂った。
もちろん、このままでは何の解決もない。
僕は舌をオール代わりにし、岸に向かい勢いよく漕ぎだした。
なんとか向こう岸まで渡り切った僕は、間髪入れずに【逃げるLv5】を使用。
急いで池から離れた。
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