第16話 崩壊した精神

30匹以上いたゴブリンが半数くらいとなり、勝機が見え始めた頃、


ドドドドドッ…


なんと新たなゴブリンの集団が現れたのだ。

しかも今度は全員盾を装備している。

その数およそ20匹ほど。

おそらくゴブリン共の精鋭部隊だろう。

僕に再度ピンチが訪れた。


容赦なく襲いかかるゴブリン達。

様々なスキルを駆使して対抗するも、被弾する回数が増えている。

しかも盾を持っているゴブリンは僕の飛び道具も盾で受け止めてしまう。

ゴブリン一匹ずつの強さ自体は僕には到底及ばない。

しかし、集団で同時に攻撃をされると、全てをかわすことなどできないのだ。


絶望的な状況の中、僕はゴブリンを食べ続ける。

とらばさみなどで動きを止め、即座に飛びかかってゴブリンを一口で平らげていく。

僕が攻撃をしかけている間、別のゴブリンが僕に武器を打ち付ける。

箱がきしみ、亀裂が走り、破片が宙を舞う。


今このダンジョン内で、ここまで激しい戦いが行われているエリアがあるのだろうか?

僕は【逃げるLv5】を使用し、ゴブリンの囲みから数m離れたところに移動した。

このスキルは囲まれた状況からでも、高速で近距離移動が出来るようだ。


しかし、それも一時的。

この状況を打破する方法を思案したが、足の遅い僕にとっては全員倒さなければ逃げられそうもない。


「#※〇&!」

何やら大声をあげながら、向かってくる集団がいる!

追加のゴブリンだろうか?

僕は声の方を見てみると…。


あの獣人族だ。

猫耳の獣人族が声をあげながら、僕らがいる方向へ向かっていた。

武装した獣人族の男女がおおよそ7~8人。

ゴブリンの集団に気づいたのか、向きを変え、速度を上げながら突進してきた。

数名の獣人たちは弓を構え、走りながらも狙いを定めている。

そして、数本の矢が弧を描きながら前方に射出された。


これで対等に戦える。

僕は迫りくる獣人たちを背に、ゴブリンの集団と向き合った。


ドス、ドス。


僕の背中に鋭い痛みが走る。

射出された矢は僕の背中に的中したのだ。

丁度僕がゴブリンたちとの間にいたせいかもしれない。


しっかりゴブリンを狙ってくれよ。

僕は射出した獣人に目を向けた。


大声をあげながら向かってくる獣人たち。

彼らは真剣な表情で一点を見つめながら、武器を振り上げ走ってきている。

前を走るのは筋骨隆々の戦士タイプ数名だ。

剣や斧、ハンマーみたいなものを持っている。

弓を構えている者もいるようだ。

僕に矢を当てたのはこいつらだろう。


その後ろには槍を持った男女。

ゴブリンに襲われていた女の子もこの列にいた。

その後ろは確認ができない。

おそらく補助的な役割をする者だろう。


ゴブリンも奇声をあげながら向かってきている。

丁度僕はゴブリンと獣人族の間に挟まれたようなポジションとなっていた。


何かがおかしい…。

僕はこの状況に違和感を感じた。

向かってくる獣人族の視線はゴブリンに向いていない。

彼らが見ているものは・・・僕だ!


獣人族はその手に持った武器を僕に向けて振り下ろした。

間一髪かわすも、2列目の槍を構えた女の子の獣人が僕の体を貫こうと突進してくる。


僕は【方向転換Lv4】【体当たりLv5】を使用し、当たる寸前のところで攻撃をかわす。

しかし、逃げた先にはゴブリンたちが待ち構えており、こん棒で僕を殴りつけた。


ドカッ!


頭に激痛が走り、僕は即座に【逃げるLv5】で距離を取る。

一体何がどうなってるの?

なんで獣人族が僕を襲うの?

君たちをゴブリンから助けようとしたよね?


僕は彼女を助けた時の光景を振り返った。

確かに僕はゴブリンたちを倒したが、彼女の目の前でゴブリンたちを食べてしまった。

もしかしてそれがまずかったのか?

僕をゴブリン以上の脅威に感じたのかもしれない。


僕の姿を見つけたのは獣人族の方が早かった。

僕に向かう姿を追って、ゴブリンたちも向かってきた。


君たちを助けようとしただけなのに…。

君らにとって僕はミミックなんだね。

襲ってくるなら仕方がない。

君らを餌にするだけだ。


僕の狙いはすでにゴブリンではなかった。

もしかすると僕はこういう状況を待ち望んでいたのかもしれない。


正当防衛。


僕の頭に事件の時に使われる都合のいい言葉が浮かんだ。

それが僕の心を解放するワードだったのだろう。

もはやゴブリンなどどうでも良くなっていたのだ。


戦闘を切って向かってくる若い戦士風の獣人族に、とらばさみLv3を使用。

足元に急に仕掛けられた罠に足を挟まれ、バランスを崩し前のめりに倒れる。

僕は【飛びかかるLv1】を使用し、彼に上から飛びかかった。


バクッ


僕は一口で彼を平らげた。

なんてことはない。

襲いかかる敵を1匹倒したのだ。


意外にも罪悪感は感じなかった。

ただ、口の中に広がる最高の味わいの中に、どこか苦みを感じていた。


「【飛びかかるLv1】がLv2となりました」

「【早食いLv2】がLv3となりました」

「【味覚Lv3】がLv4 となりました」

「称号【マンイーター】を獲得しました」

「称号【マンイーター】の獲得により、【呪いLv1】を獲得しました」

「称号【マンイーター】の獲得により、恒常スキル【意思疎通】を獲得しました」

「称号【マンイーター】の獲得により、【異空間収納Lv1】を獲得しました」

「称号【マンイーター】の獲得により、【悪食Lv1】がLv5となりました」


人間を食べたのがキーだったのだろう。

また一つ称号が増えてしまった。

人を食べてから【意思疎通】のスキルを覚えるなんて、このゲームの開発者はかなりの糞野郎なんだろう。


でも不思議と怒りは沸いてこなかった。

おそらくこれは開発者の思惑通りなのだろう。


さらに、


「あなたのレベルが上がりました」


名前:光

種族:ミミック

クラス:見習い

称号:モンスターイーター、ラッキーマン、マンイーター

Lv:7→8

HP(体力):600→800

MP(魔力):800→1000

SP(スキルポイント):1000→1200

筋力:180→250

耐久:350→500

知力:500→750

器用:200→300

俊敏:80→150

運:12000→18000


【スキル】

攻撃系

食べるLv8、早食いLv3、舌Lv3、溶解Lv4、体当たりLv5、毒針Lv4、狙い打つLv1、飛びかかるLv2、悪食Lv5、不意打ちLv1


耐性

毒耐性Lv6、溶解耐性Lv2


補助

方向転換Lv4、、鑑定Lv4、擬態Lv3 逃げるLv5、異空間収納Lv1


恒常スキル

視覚Lv5、聴覚Lv5、味覚Lv4、這うLv3、意思疎通Lv1


限定スキル

とらばさみLv3、弓Lv1、マッピングLv1



「HP/MP/SPが回復しました」


これでまだ僕は戦える。

箱はすでにガタガタで、破損箇所が大きい。

HPは回復しているのだが、箱の損傷は深刻な状況となりつつある。


仲間を食べられて、怒りの形相で襲いかかる獣人族。

同じく僕を狙うゴブリン達。


「悪食を使うといいよ」


戦闘を再開する僕の頭にチュートリアルの声が響いた。


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