第18話 無関係じゃない!
『No. 1』殺さるる。
衝撃的な事件は、一週間経っても生徒たちの話題の中心だった。学校の外はそろそろクリスマスシーズンを迎えようとしていたが、誰も浮かれた気分にはなれなかった。生命を吹き込まれた雪だるま達も、心なしか寂しげに、校舎の隅でうずくまっている。
とうとう学校側も殺人鬼の存在を隠しきれなくなり、学内はすっかり様変わりしてしまった。今学期の授業はほぼほぼ休講になり、代わりに立ち入り禁止の区域が増えた。連日『魔警隊』(魔法界の警察機関)の面々が厳重警備にあたり、敷地内を箒で飛び回っていて、教師達の間にもピリピリとした空気が流れていた。
とはいえ学校の外に逃げれば安全というわけではない。むしろ魔人や魔物など危険も増える分、隙も増える。事実、被害者のうち2人は郊外で惨殺されたのだ。
予定されていた授業がなくなり、代わりに生徒も教師も、みんなが声を潜め、熱狂的に、事件について噂し合った。
①一体誰が殺したのか?
「犯人はとんでもなく強い魔人に違いないわ。魔王よ、魔王。だってあの千鶴さんを殺すくらいですもの」
「人間たちが復讐に来たのさ。彼ら凡人はぼくら魔法少女が、特別な能力を持ってることが気に食わない。動機は嫉妬だよ」
「ドラゴンの王……ドラゴン=キングじゃないかしら? そんな魔物がいるなんて聞いたことないけど……きっとドラゴンより強い生き物よ。そいつが学校内に潜んでて、業平先輩を喰い殺したの!」
「ありえないわ。どんな魔人も、無関係な人間も、魔物だって入れっこない。この学園には特殊な魔法がかけられていて、関係者以外は絶対入れないようになってるのよ」
千代田秋桜がそう教えてくれた。学校の外で、魔物と戦い命を失った事故ならこれまでもあった。しかし、学内となると、必然的に犯人は関係者……と言うことになる。
②一体どうやって殺したのか?
「だって、『No. 1』なのよ? 一体どんな魔法が効くわけ?」
「心臓で一突き……だろ? 卑怯な手を使ったのさ。下劣な人間のやりそうなことだ」
「あのナイフはフェイクよ! だって業平先輩が、あんなモノで殺されるわけないじゃない!」
「業平千鶴は『今最もプロに近い魔法少女』だって言われていたわ。実力は折り紙つき……彼女に勝てる魔法少女なんて、そうそういないでしょうね」
そう、この場合①誰が殺したのか? も疑問だが、②どうやって殺したのか? もそれ以上に謎なのである。生半可な魔法では弾かれてしまうだろうし、ましてやナイフなど、どう考えてもそんなもので勝てるとは思えない。しかし犯人は、現実にそれをやってのけた。
③次の犠牲者は一体誰なのか?
「…………」
「…………」
「…………」
「……このままだと次の犠牲者も、おそらく出るでしょうね。むしろ業平千鶴を殺して、勢い付いてるはずだわ。次もSクラスの生徒か、それとも……」
まだ犯人は捕まっていない。次に殺されるのは自分かもしれない。考えたくないところだが、これからも殺人が続くとみて間違いないだろう。
連日賑やかだった校庭も、今や人影もなく、シン……と静まり返っている。立ち入り禁止の黄色いテープが貼られた前で。入れなくなった校舎裏をぼんやりと眺めながら、小夜子は一人、違うことを考えていた。それは
④犯人は何がしたいのか?
である。①②③はどうとでもなる。しかし、④動機の部分。こればかりは、『魔法だから』の一言では片付かない気がしていた。とはいえ、それでもまだ、小夜子は事件の解明に乗り気ではなかった。『No. 1』を倒すのは自分だ、とずっと思っていたので、むしろ水を差された思いだった。犯人に興味がないわけではないが……。
「犯行現場に、花札が残されていたんですって」
真偽のほどは定かではないが、こうした噂が実しやかに囁かれた。心臓と一緒に、ナイフで一突きされた『鶴』の札が見つかったのだと言う。
これは犯人からのメッセージなのか?
それとも、誰かに罪を着せようとする偽装工作なのか?
犯行予告か? 捜査撹乱か?
……分からない。ポケットに忍ばせた『藤に短冊』の札を握りしめて、小夜子は途方に暮れた。頭を使うのはどうも苦手だった。
まぁそのうち、頭の良い人が解決してくれるだろう。
自分には関係ないことだ。小夜子はそう思ってやり過ごそうとしていた。
しかし……。
『……それでは先ほど入った緊急ニュースです』
事態が一転したのは、それから数日後のことだった。
『魔法省は、先の業平千鶴さん殺人を含む事件の容疑者として、現役魔法少女・スイート・リリィこと白石莉里容疑者を指名手配すると発表しました。白石容疑者は現在行方をくらませており……』
「なんだって!?」
小夜子は持っていた焼きそばパンを取り落とした。魔法TVの画面に『犯人』として大きく映し出されていたのは、他でもない、莉里お嬢様だった。
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