第17話 犯人じゃない!
「殺人事件?」
焼きそばパンを頬張りながら、小夜子が首を捻った。
「ンなの此処じゃ日常茶飯事だろ。別に珍しくもねーんじゃねえの?」
「そんなこと無いわ。貴女、魔法学校を何だと思ってるわけ?」
小夜子の斜め前で、腕を組んで難しい顔をしているのは、犬のお面の少女・千代田秋桜だった。昼休み明け、小夜子がアテもなくぶらぶらしていると(もちろん授業はあっているのだが)、ちょっと話したいことがある、と秋桜の方から声をかけてきたのだった。
小夜子は初め、(アレか、もしくはコレが見つかったのか)と思い、回れ右をして逃げ出したが、少女警察にあえなく捕まってしまった。一体何事かと身構えて話を聞けば、
「最近この学内で、魔法少女を狙った、殺人鬼が彷徨いてるらしいの。貴女も十分気をつけといて」
という内容だった。全く拍子抜けである。小夜子が一週間ぶり二度目の逮捕をされたと聞いて、松竹梅・里見など、いつもの面々もぞろぞろ集まってきた。秋桜は空き教室に行き、彼女らに事情を説明した。
「そもそも何にも悪いことしてないんなら、人の顔見て逃げなくても良いでしょ?」
「だってよぉ、入学した時校長が言ってたじゃん」
小夜子は慌てて話題を変えた。
「”入学したら、生死は保証できない”って。みんな死んでるんだろ?」
「なワケないでしょ! どんだけ殺伐とした魔法学校なのよ。”保証できない”って、そりゃ危険な任務もあるから、よ。残念ながら死ぬこともあるわ。魔人やドラゴンと戦って、無傷で済む方が少ないんだから。だけどフツーの魔法少女は、殺人なんてしません。そんな子が、朝から子供向け番組に出れると思う?」
「うーむ」
「確かに」
小夜子はてっきり、お互いのポイントを奪い合って、魔法少女同士蹴落とし合い殺し合いが繰り広げられているものと思っていた。みんな、意外と友好的なのだ。秋桜の顔が曇った。
「だけど最近になって……その日常が崩れようとしている。この間、Aクラスの子が死体で見つかったの」
「えぇ!?」
「それも、この一週間で3人も、よ」
「3人も!?」
里見がひぃぃ、と耳を塞いで悲鳴を上げる。この手の話は苦手なようだ。
「そりゃまた物騒だな」
「表向きは任務中の事故ってことになってるけど……捜査してみたら、どうも違うみたい」
少女警察が目を伏せた。できれば信じたくない、が、
「誰かが『魔法少女狩り』を行ってるのよ」
「魔法少女狩り……!」
竹乃がゴクリと生唾を飲み込んだ。
「魔法で犯人とか分かんねーの?」
「相手も魔法少女だったら……防御魔法は張ってるだろうし、難しいでしょうね。とにかく!」
全員の顔を見渡して、秋桜が立ち上がった。
「気をつけてね。警告はしたわ。この学園に、平気で人を殺す輩が潜んでるってこと!」
「とんでもない奴ですね!」
少女たちが憤る。
「きっとソイツは、鬼のような顔してますよ!」
「校舎を爆弾で吹き飛ばすような奴に決まってるっス!」
「魔人の頭を、金属バットで粉々にしてそうね」
「教師だって脅してるに違いないわ! 極悪非道な女よ!」
「こっちを見るなよ」
「まさか……アンタが犯人じゃないでしょうね?」
振り向きざま、秋桜がジトリと小夜子を睨んだ。小夜子は肩をすくめた。
「ちげえよ」
「ホントォ?」
「本当だって! 私が犯人なら、そもそもAクラスなんて狙わねえよ。Sクラス、『No. 1』から殺す」
「え……」
全員がぽかんと口を開ける。小夜子が不敵に笑い、首の骨をポキっと鳴らした。
「だってそうだろ? 三下ばっかいくら相手にしててもキリねえし、こっちの体力も持たねえよ。それよりNo. 1狙った方が早い。組織ってのはな、ドタマカチ割りゃ、一気に瓦解するんだよ」
「三下て」
「ドタマカチ割る魔法少女なんて、聞いたことないわ」
秋桜は呆れたようにため息をつき、くるりと踵を返し教室を出て行った。
あとに残された面々が、恐々とお互いの顔を見合わせた。
「どうします? 姉御?」
「とっ捕まえる! ……って言いたいところだが。手がかりも何もないんじゃなあ。警察も捕まえられない奴を、どうやって探し出せって言うんだよ」
小夜子にしても、悪いことをして逃げ回るのは得意だが、悪い奴を追い回すのはそれほど得意ではなかった。それで、この話は一旦お流れになった。ところが数日後……
「きゃああああッ!?」
学校が大騒ぎになった。校舎の屋上付近、大時計の文字盤の部分に、心臓をナイフでひと突きされた魔法少女の死体が貼り付けられていたのである。
「殺された!?」
松野が大慌てで小夜子の元に飛んできた。
「姉御ぉ! も……ヤバイっス! 一大事ですよぉ!」
「落ち着け! 何があったかゆっくり話してくれ」
「うぅ……」
やがて松野の話で、断片的にだが事件のあらましが分かってきた。被害者は、『夢と希望』の魔法少女・業平千鶴。
この学園の、『No. 1』だった。
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