俺のスキルが『魔法少女契約』と言う魔法少女を育成するスキルだったので魔法少女になりたそうなヒロインと契約してきます。

三流木青二斎無一門

第1話 契約

旧壱ふるいち新多あらたは瓦礫の山を掻き分ける。

道路を歩いていた彼は、唐突に地面に亀裂が走り、落下した。


「参ったな…」


土埃を払いながら、旧壱は空を見上げる。

直下して落下したのならば、穴が空いて青い空が見えている筈だ。

しかし、空には何も見えない。

其処から、旧壱新多はある可能性を見出す。


「ダンジョンの崩落現象か…」


旧壱新多は、ダンジョンを連想させる。

この世界では、自然現象としてダンジョンが発生する。

異世界と現実世界が運悪く繋がってしまった為に起こる現象だ。

つまり、このダンジョンは現実世界ではない。

早く出なければ、ダンジョンの扉は閉ざされて、異世界に閉じ込められる。

旧壱新多はスマホを取り出して明かりを点ける。

救援を呼ぼうにも異世界では電波が届かない。

なので懐中電灯しか使い道が無かった。

歩道を歩いていた旧壱新多。


その周辺の車両や人も飲み込まれてしまったらしい。

暗い洞窟の中には、数台の車が転がっていて、地面に叩き潰された一般人の姿もある。

酷い惨状の最中、彼だけが生き残ったのは奇跡に近いだろう。


「ごほッ…」


いや、奇跡の体現者は一人だけでは無かった。

咳き込む声に旧壱新多は反応して、その声の方へと歩き出す。

そして、車両に下半身を潰された学生服を着込む女性を発見した。


「大丈夫か?…酷い怪我だな」


彼は落ち着いている。

それは、諦観に近かった。

下半身が潰れている為に、長く生きる事は出来ないだろう。

それは、少女も同じ事を考えていたらしい。


「…あの、多分、私、このまま、死ぬ、と思います」


口から血を吐きながら、ショートカットヘアの少女が告げる。

弱々しい彼女の言葉に、旧壱新多は元気付けなければと、気休めの言葉を捻り出す。


「そんな筈ない、血を止めれば…」


彼の自信の無い言葉に、少女は首を左右に振った。


「私、スキルホルダー、なんです」


スキルホルダー。

現実世界が異世界に繋がった時。

人間もまた異世界の法則に従う様になった。

スキルと呼ばれる超常能力を、人間が稀に宿す事がある。

それは、人によって種類や範囲、能力の強弱が決定する。


「…あらゆる、結末を、秒数で、カウント出来ます」


彼女のスキルは、『秒読み取りカウントタップ』。

AからBに至るまでの時間を秒数で確認出来ると言うスキル。

これを使用して、自分が何時まで生き残れるか確認したが、絶望の秒数が脳裏に浮かんでいた。


「あと、124秒、過ぎたら、私は、死にます」


約2分。

それが彼女が生きていられる時間だ。

その間に、彼女は何が出来るか考える。

そして、此処で出会った男性に、伝言を頼む事にした。


「なので、せめて、私を育ててくれた、父に、言い残す、言葉を」


何やら、考えている旧壱新多。

口元に手を添えて、思い切った様に、声を漏らす。


「…いや、死ななくても良い方法がある」


旧壱新多は、死に掛けた彼女が唯一救える手筈を考えた。


「え…?」


少女の方に顔を向けて、シャツの袖に付いたボタンを外して腕まくりをする。


「俺はスキルホルダーだ。と言っても、最近なったばかりでね」


旧壱新多もまた、スキルホルダーだった。

それを隠していたわけではなく、彼はスキルホルダーと判断されたのはつい先日の事だった。

診断結果から、その能力の詳細を旧壱は知っていた。


「まだ秒数があるのなら、その間に決断して欲しい」


「なにを、ですか?」


彼女の聞き返しに、旧壱新多は深呼吸をして、馬鹿馬鹿しく彼女に伺った。


「…俺と契約して、魔法少女になってくれないか?」


急な質問。

可笑しな内容。

大の大人が、変な事を言っている。

親しい人物なら笑い話として聞き流すだろう。

街中で知らない男が言い出したら変人と思い気味悪がるだろう。

今にでも死にそうな状態となっている彼女は、笑う気も気味悪く思う事も無く、不思議そうに首を傾げた。


「…何を、急に」


当然の反応だった。

それも、旧壱新多も同感であったらしい。


「まあ、そういう反応だよな…とにかく、契約を承諾してくれるのなら…恐らく、キミは救われる」


死ぬ間際の旧壱の言葉は、彼女にとって魅力的な言葉に聞こえただろう。


「…本当、ですか?」


微かな希望を抱く彼女。

旧壱新多はスマホで時間を確認する。


「あぁ、秒数はどのくらいだい?一応はデメリットも話しておこうか」


30秒もあれば、彼女を救うには十分だが。


「…必要、ありません」


少女は、首を横に振った。


「まだ、生きて、いたい、から…だから、承諾、します」


旧壱新多の言葉を信じて了承する。

スキルホルダーが存在するからこそ。

彼の話は世迷言には聞こえなかった。


「私を、魔法少女に、して下さい」


彼女の言葉に、旧壱新多は彼女に手を翳す。


「…了解した。『魔女の契約者ウィッチメイカー』」


掌から、光の粒子が集まり、固形物となる。

光に満ちたそれは、魔法のステッキの様に変形する。


「…あぁ、悪い、忘れていた」


形成した魔法のステッキを、彼女に渡す。

そのステッキは、どちらかと言えば、銃火器の様な見た目をしていた。

それに、彼女は手を伸ばす。


「俺の名前は旧壱新多。これから、よろしく頼む」


「…私は、昏上、逢です」


二人は挨拶を交わし。

昏上逢は、魔法のステッキに触れた。

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