ゲーム

ひどく暗い部屋で青、黄、緑の光が弱々しく点滅を繰り返す。光源はコンセントから伸びる太いコードが何本も付いているヘルメット型の機械である。そしてベッドにはそのヘルメット型の機械を被り横になる人影がひとつあった。


***


「空からの遠隔攻撃は反則だろ……」


岩の陰に隠れて空から降り注ぐ矢の雨凌いでいるユウが呆れて呟く。ユウがやっているのはnew fantazy onlineというゲームで、ユウはサービス開始当初の三年前からずっとプレイしている古参勢である。サービスが開始されて三年がたってなおゲームの人気は衰えることを知らず、むしろプレイヤーは世界中で増える一方である。


現在全世界に五千万人のプレイヤーがいると言われるこのゲームにはたった八人の称号持ちネームドと呼ばれるプレイヤーが存在する。ユウはそのうちの一人であり運営直々に《絶対切断》の二つ名をもらっている。そして今上空からの弓による無差別で残ったプレイヤーを殲滅にかかっている彼女もまた《超空の射手》という名を持っている。


今行われているのはバトルロワイヤル形式のイベントで、生存時間やキル数によってポイントが加算されていき、そのポイントが最も高いプレイヤーが優勝となるものだ。


「今三位か」


ユウがメニューを呼び出して順位を確認すると一位が今殲滅攻撃を行っている《超空の射手》フラン、二位が《絶対防御》カルナ、三位がユウとなっている。カルナはユウが先ほど死闘の末に脱落させている。


「残り二人」


殲滅攻撃によって残っていたプレイヤーが全て蹴散らされてここからはユウとフランの一騎打ちとなる。さてどうしたものかとユウが思案していると、爆発する矢が次々に放たれ周囲を焼き尽くす。


「考える暇も与えないってか!?」


おそらくこのままいけばフランは一位は固いし、ユウも生存点で二位に浮上するだろう。しかしそれを良しとしないフランがユウの焼き出しにかかったのだ。


「あの戦闘狂が!」


毒づきながらもユウの顔は笑っている。


ユウが岩の陰から飛び出した瞬間爆発する矢が止み通常の矢が飛んでくる。普通の矢でもフランの持つ弓の攻撃力が高いのと、距離が離れれば離れるほどクリティカル率とクリティカル威力の上昇する仕様によって、よほどの防御特化のプレイヤーでも一発もらえば即死だろう。それもそのはず、フランが矢を射かける距離は明らかに弓がアシストしてくれる距離をはるかに超えているため、クリティカル100%&クリティカル威力二倍になっている。


「まずは接近する」


ユウはメニューに表示された残り時間が181から180に変わった瞬間メニューを閉じてスキルを発動させた。


「『ラストブースト』!」


ユウが使ったエクストラスキル『ラストブースト』は毎秒自らのHPを削ることを代償に全ステータスを15倍に引き上げる。本来ならちょうど一分でHPが消し飛ぶのだが、「バトルヒーリング」というスキルで毎秒HPを回復できるため何とか三分耐久できるのだ。


「最後の三分、必ずお前を倒す!」


ユウは足を止めることなく次々に飛んでくる矢をすべて叩き落す。一度でもミスれば即死というプレッシャーの中ユウは一度もミスすることなくフランとの距離を順調に詰めていく。


「メテオブライトアロー!」


フランが使ったメテオブライトアローは高威力の矢を八連射するという高レベルスキルだ。ユウはそれの最初の三連射を回避すると、ユウは右手の剣を約30度かたむける。すると赤黒い剣が光を増す。


「うおおおおおお!」


片手剣五連撃技ブラッディペンタゴン。赤黒い輝きが水色の輝きを纏う矢を迎撃していく。スキルによる技後硬直を狙って三本の矢が撃ち込まれるが、ユウは左手に握る剣でトライアングルスラッシュを発動させ硬直をキャンセルして迫りくる矢三本を弾き飛ばす。だがまだ窮地は続く。今度はクラスターアローという無数に分裂する矢を浴びせかけられる。


「負けるかぁぁぁぁ!」


すかさずユウはジェットライジングを発動させて一気に距離を詰めつつまんまと矢の範囲外に逃げおおせる。


「ちょこまかと!」

「残り40メートル……」


フランは勢い余って地面を転がるユウに標準を合わせて弓を引き絞る。


「スパークリングアロー!」


引き絞った弓から三連射が放たれる。


「ウエイトスクエア!」


それをユウは四連撃技で迎撃する。


「天刃!」


ウエイトスクエアの最後の一撃が40メートルの距離を一気に詰めてフランに迫る。


「残念っ!」


フランはユウがウエイトスクエアで迎撃にかかった時点で回避行動をとっており辛うじて避け切っていた。


「トリックレイン!」


一発のスキルが乗った矢が放たれると同時に矢の幻影が数百個作られる。幻影に当たったところでダメージ判定はないが、大抵のプレイヤーはこれに騙され足を止めて諦める。だがユウはフランの動きから矢の軌道を読んでタイミングよくジャンプして回避に成功する。そしてスキルを空中発動させる。


「うおおおおおお!」

「くっ……!」


フランは避けようとしたが完全には避け切らずわずかに頭上のHPバーが減る。そこでユウは奇策に出た。ユウは両手の剣を投げ捨てると突進技によって推進力を利用してフランに飛びつく。


「な!」


これが戦闘中でなければ間違いなくハラスメント防止システムが発動していただろう。ユウもフランも防御力は一切あげていない。だが、フランが敏捷一極振りなのに対して、ユウは敏捷のほかに筋力も上げている。全力で抱き着けば筋力地の高いユウから絞めによるダメージが発生し、ジリ貧でフランが負ける。


「こんの!」


フランは「飛行」スキルを解除してユウとともにもつれあいながら落下していく。ユウはフランを下敷きにしたことにより落下ダメージを軽減したが、フランはもろに落下ダメージを受けHPは残り一割を下回った。それに対してユウの残りHPはまだ五割強残っている。


「バックリンクシュナイダー!」


フランが使ったスキルは後方に跳びながら矢を放つものだ。威力はそこまで高くないのだが、接近されたことも考え取るのが必須とまでいわれるスキルである。


「ウォーパルスラッシュ!」


緑とオレンジの光がぶつかって対消滅する。


「デッドリーウイングバースト!」


ユウが左右の剣を交差させそこに白い光が宿る。実装されたばかりの二刀流三十連撃が火を吹きフランの残り少ないHPを削り取る。一撃でフランのHPは消し飛んだが、直後フランのユニークスキル『天使の守護』が発動しフランの背中から白い羽が生え天使の輪が頭上に展開、HPバーが五段に増えてフル回復する。


「飛ばせねえよ!」


ズガガガガ!と全攻撃が命中し五段あるフランのHPバーがほとんど消し飛んだ。しかしまだフランのHPは残っている。


「飛ばないわよ!天聖の矢!」

「エンダ―ストライク!」


ジェットエンジンじみた轟音とともに剣が付き出される。だが、それよりも先にフランが放った光の矢がユウの胸に突き刺さりポリゴンの破片となってユウの体は爆散した。


***


「ちくしょう!」


ログアウトしたユウこと木村悠斗はヘルメット型の機械を外してとび起きた。結局ユウの順位は三位に落ち着くことになった。時計を見れば夜中の三時、外はまだ暗いし悠斗自身負けた直後で何をする気にもなれず、水を飲んでベッドにその身を投げ出した。

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