第3話 ロリコン
お父さんは、俺のことを、休みの日一人で公園をうろついている、変態男だと思っただろう。俺が疑われてもおかしくない状況だけど、子供たちがそうでないことを警官に説明してくれた。
眼鏡をかけたおじさんに「木の中の方にモグラの巣があるよ。見に行かない?」と誘われたそうだ。子供だから動物が好きだし、興味があっただろう。それで、本気にしてしまったようだ。
俺ははっとした。子供ってそんな容易い言葉につられて付いて行ってしまうんだって。俺がロリコンだったら試してみたいが、そうではないので、無駄知識だ。お母さんが盛んに「知らない人について行ったらダメだって、いつも言ってたじゃない!」と、泣いていた。そんな大げさな、と俺は思っていた。
男の人相は・・・眼鏡をかけていて・・・坊主頭で・・・目が大きくて。年齢は20代後半くらいに思えた。俺は人の顔を覚えられない。服装は・・・あまりよく覚えていないけど、逃げて行く時に、紫の安っぽいリュックを背負っていたのを覚えている。
でも、子供の方がより正確に覚えていたらしい・・・。
俺は結構長く交番にいて、隣で痴漢に会った子が泣いてて、自分も被害者になり、ちょっとワクワクもしていた。
初めての被害届も出した。
これが、ストーカー被害とかだったら今後の生活が脅かされるけど、ロリコンの変態野郎だから、俺がこれ以上の被害に遭うことはなさそうだった。
女の子たちは、あの男にまた会ってしまったらと思うと怖かったかもしれない。今思い返すと、俺の対応は適切ではなかった。その時は、俺はまだ若くて、想像力が働かなかったんだ。それでも、俺が通りかかったおかげでそれ以上の被害が出なかったのだから、まあ彼女たちにとっては恩人と言っていいだろう。
俺は興奮して交番から出た。あの犯人にまた会ってみたくなった。犯人を見つけて警察に通報したかった。もっと、警察から事情を聞かれたい。理由は暇だったからだとしかいいようがないのだが。
土日は何の予定もないし、平日夜でさえ飲みに行ったりもしなかった。何もない毎日だった。その頃、丁度、俺は人に会いたくない時期だった。人間関係を完全にリセットしてしまって、携帯もメアドも全部変えたんだ・・・。会社も転職して、引越して。それで、俺の周りには誰もいなくなった。
20代の一番イケてた時期を友達0、彼女なしで過ごしていた。
将来が不安で、日々を鬱々と過ごしていたから、現実逃避だったのかもしれないし、犯罪者の日常の姿を見てみたかったのかもと思う。あの男とちょっと話してみたいくらいだった。
ロリコンっていうのは、ちょっとわかるような気もするし、大人の方がいいんじゃない?という気もする。
だが、俺自身にロリコンの素養はあまりない気がする。俺が子どもの頃、父親が買っていた週刊誌に中学生くらいの子のヌードが出ていた。白黒だった。アート作品としてだったと思うが。それを見て美しいというよりも、気持ち悪いという感じがした。大人の女の人の方が俺にとってはよかった。
でも、禁止されるとむしろ見たくなるもんじゃないだろうか。今は隠されているから、ロリコンがこんなに増えてしまったんじゃないか・・・。
****
俺はカメラがなくなったから、その後は、ジョギングをすることにした。
市民マラソンに出ようと思ったんだ。
今ほどマラソンはブームでなかったけど、それでも全国でマラソン大会があった。
それに、人生で一度はホノルルマラソンに出てみたかったから、長距離を走れるようにトレーニングしたかった。
俺はキャップ、眼鏡という怪しい格好で近所をジョギングするようになった。
もちろん、あの公園にも度々行った。
猥褻犯がうろうろしているエリアだから職質されることもあった。
子どもを対象にした性犯罪者はどこにでもいる。近年だと、認知件数だけで年間1000件ほどあるようだ。日本では、18歳までに女子は2.5人に1人、男子は10人に1人が性被害に遭っているらしい。だから、年間1000件というのは氷山の一角だろう。子どもが親に言わないケースも多いだろうから、実際は何倍もあると思う。
でも、もし公園に女の子がいたら「もぐらの穴があるから・・・」と声を掛けてみたい気持ちがないわけではなかった。本当について来るか気になったからだ。
俺はナンパはあまりしたことがない。タイプの女の子が歩いていたとしても、見ず知らずの人に声を掛ける勇気がない。前にイケメンの友達と街中でナンパしてみたけど、一人も成功しなくて、それからずっとトラウマになっている。女性から無視されること、軽蔑されること、軽い男だと思われること・・・は、顔かが火が出るほど恥ずかしい。
ナンパはすごく難しい。そもそも女の人が出会いを求めていないと成り立たないし、仮にそうだとしても、ナンパをして来るような怪しげで軽い男に心を許す可能性は低い。
だけど、大人の女性に比べたら、子供は引っ掛かる可能性が高い気がした。
想像力が働かない、目先のことに心を奪われてしまう。失敗しても恥ずかしくない。
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