空白の断片~世界初の魔法使い~
@kagime1234
「プロローグ」
#1「始まり」
トキオ・クレイスは焦っていた。ここ「ヒューロ魔法学校」に入学早々遅刻しそうになっているからである。
今走っている長い廊下には、絢爛豪華な装飾が施されている。しかし、普通と違うのはそれらに命が込められているということだ。
「やあ!新入生君!新学期早々遅刻かね?目覚まし時計をピクシーたちに弄られたかな?」
シャンデリアが当然の如く喋りかけて来るが、急いでいるトキオは軽く流して走り抜ける。
「シャンディ!ごめん。ほんとに急いでいるんだ」
喋るシャンデリアに別れを告げ、トキオは廊下を走っていく。トキオが生み出した風が「校則:廊下を走るな!」と書かれた貼り紙を撫でる。
「廊下を走るな!」
なびいた貼り紙が男の声でトキオに叫ぶ。トキオはそれに驚き、思わず足を止めた。
「ごめんなさい。アーロン先生」
「よろしい。次はないぞ」
そう言うと貼り紙は何もなかったかのように元に戻っていった。
「アーロン先生怖いんだよなあ・・・」
貼り紙の方を振り返ってトキオは不満を零す。そして向き直って再び歩を進めようとすると、ドンと硬いものにぶつかった。
「聞こえているぞ」
声のする方を見ると、そこにいたのはアーロン本人であった。あまりの出来事にトキオは「ヒッ」と軽い悲鳴を上げてしまう。そして思わず走り出してしまった。
「廊下は走るんじゃない!」
「ごめんなさ~い!」
謝りながらもトキオは走り去っていった。
校則を破りつつも、トキオはなんとか教室の前までやってきた。始業の鐘はまだ鳴っていない。
「はあ、ギリギリ間に合った」
走ったためなのか、ギリギリだったからなのか鼓動が速まっていた。そんな心臓を押さえつけてトキオは教室のドアを開く。
「遅えぞ」
トキオの親友であるレオは頬杖をついて、教室に入ってきたトキオを笑った。
「ごめんごめん。おはよう」
机に座っている生徒や、固まって談笑している生徒を避けてトキオは自らの席に向かう。椅子を引き、机に向かった途端に授業開始の鐘が鳴った。
「ギリギリセーフだね」
隣の席のソフィアが金色の髪をなびかせながら微笑みかけてきた。
「なんとかね」
トキオは乱れた息を整えながら答える。
「寝癖凄いよ?」
ソフィアが手櫛で髪を整えてくれる。が、寝癖は中々治る気配がない。
「大丈夫。くせっ毛なんだ」
そう言い、そっとトキオはソフィアの手をのける。それと同時に教室のドアが開き、初老の女性教員が入ってきた。
「皆さん初めまして。魔法基礎を担当します、ヨランダ・テイメスです。よろしく」
ヨランダは自己紹介をすると、軽く頭を下げた。そして目線を下に移すと、名簿と席を照らし合わせるようにして指でなぞる。そしてあるところで指が止まると、再び顔を上げた。
「トキオ・クレイス、服装が乱れていますよ」
そう言うと、トキオの方に指を向けた。すると、ネクタイをはじめ、服が意思も持ったかのように整い始める。
「それに先程アーロン先生にお会いしました。あなた校則を破りましたね。さしずめ寝坊ですか。次からは気を付けるように」
「あ、はい。すみません」
トキオが謝ると、クラスの中にが笑いが広がった。それを見て思わず笑みが零れるヨランダ。しかし、すぐさまコホンと咳ばらいをすると、教卓を軽く二回叩き合図をする。
「静粛に。それでは早速授業を始めていきます。レオ・グリーン、教科書の二ページを読みなさい」
隣の席の友達と話していたレオは不意を突かれた。そして慌てて立ち、教科書を開き読み始めた。
「えー、魔法とは、マナと呼ばれるものが魔法使いの意志を様々な形で受け取り、それに応じた働きをすることで発動する・・・」
「よろしい。ですが、授業中に隣の人とおしゃべりをするんじゃありません」
「すみません」
レオが椅子に座ると、再び教室内に笑いが起こる。
「では続きをソフィア・ロペス、読みなさい」
呼ばれると、ソフィアは席を立ち、教科書を読み始めた。
「また、この世のマナは全て魔法使いの始祖であるヒューロ・ヘッツェファーから供給され、現在もこれからも増減はしないものである・・・。このヒューロ・ヘッツェファーって人、いったいどんな人なんですか?」
教科書を読み進めていたソフィアだが、あるところに躓いてしまい、ヨランダに問いかける。
問いかけにヨランダは少し思考を巡らせてから口を開いた。
「いいでしょう。歴史も兼ねてヒューロ・ヘッツェファーについて説明しましょう。ヒューロは・・・」
こうして長い長いヒューロ・ヘッツェファーの昔話が始まった。
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