TS少女がメイド服着て化け物たちと戦ったりするお話。

阿月

第1話

 パクりと食われた。

 蛇のような爬虫類なのか。蛸や烏賊のような海生軟体動物なのか。

 先端が大きく割れた口のようなものを持った触手。

 それが、俺を頭から飲み込んだ。


 まさに食われたのだ。


 アサルトライフルは手を離れ、武器を失った俺はそのまま意識を失った。

 食われる恐怖を味わいながら。





 目が覚めると、そこは何かの倉庫のような場所。

 身体中が、何かの粘液に包まれており、衣類は何も身に着けていなかった。


「さっき、俺は『ヤツ』に食われたような……」

 とりあえず、服だ。着るものを探そう。

 暗がりの中、俺は手探りで進む。

 窓から差す月明かりで、段ボールの注意書きが見える。

 どうやら、ここは衣料品の倉庫らしい。

 タオルを探して、身体中の粘液を拭う。

 そして気づいた。

 あるべきものがない。


 鏡を探す。

 倉庫の隅のトイレを見つけて、入り込む。

 そして、そこには。


 かつての自分とは、似ても似つかぬ少女の姿があった。


 年の頃は12~3歳くらいか。

 かなり幼い様子が伺える。

 とは言え、まずは服だ。

 それと、幸いなことに水道がある。

 この粘液を洗い流すことができるということだ。


 床をびしょびしょにしながら、何とかさっぱりとした俺は身に着けられる衣服を探した。

 幸いなことに、この倉庫には子供服も存在した。

 靴のコーナーもあったので、スニーカーを一足拝借する。

 スポーツ用らしい色気のない下着の上下と、ジャージにTシャツ。そして大きなフードのついたパーカー。


 どうも、スポーツ用品店か、その工場の倉庫のようだ。


 大きな扉の脇にある事務スペースの電話の周囲にある電話番号リストや、段ボールのラベルを見ると、ここはアメリカ合衆国。そして、カリフォルニア、LAのどこか、と想定される。

 町の名前もわかるけど、あいにく、カリフォルニアに住んだことはないので、土地勘がない。

 カレンダーを見ると、今は何日かはわからずとも、同じ年の同じ月であることがわかる。

 俺の記憶から、五年も十年も経過しているわけではないことはわかる。


 そして、衣服以外の手持ちは、事務机の引き出しに入っていた小銭くらい。

 しかも、携帯も身分証明書もない上に外見はただの子どもだ。


 一人では無理だ。助けを呼ぶしかない。


 だが、そもそも、自分はなぜ、ここで放置されていたのか。

 いや、放置されていたなら、まだいい。

 こちらが感知できない状況での、監視され続けているとすれば。


 この事務所の電話が使えるのか、使えないのか。

 不確定要素が多すぎて、状況把握をもう少ししないと、リスクがありすぎた。

 そう。

 電話自体が罠の可能性だってある。



 壁にかかった時計を見ると、すでに午前5時。

 よし、一度この倉庫を出よう。


 リュックを探して、替えの下着やら何やらを放り込む。

 すぐに助けを呼べる環境ではない可能性もある。

 それと、粘液を吸ったタオルを一枚、ビニール袋で封をしてしまいこむ。

 棚から小さな水筒を取り出し、ウォーターサーバーの水をつめる。

 事務机を漁ると、カッターナイフがあったので、それも拝借する。



 よし。


 空が次第に白くなってきた。


 俺は、倉庫の扉を開けて、外へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る