第37話 忍びかくれんぼ

 さて始まりました、リサが率いる暗部隊3名と私によるかくれんぼ!

 梅香ちゃんと桜ちゃんは見破れるので、リサと共に私に付いてくるだけらしい。

 そして見つけ次第、もしくはかくれんぼが終わった後に自己紹介をしてくれるらしいです、これをきっかけに暗部隊さんとも仲良くなれたらいいな。


 ルールは建物内全ての範囲で隠れ、私が見付けるだけの簡単ルール、缶蹴りのように移動は出来ないルールで決めた。


「じゃあ、もーいいかーい!」

「「「いいですよー!」」」


 暗部隊さん3人の声が建物内から聞こえてきた、本当に居るよ……マジびっくり。


「じゃ、探しますか!」


 3人の声はそれぞれ違う方向から聞こえたので、1番近い所であろう1つ目の声が聞こえた方面へと向かう。


 声が聞こえたのは、この辺りかな?そう思って私がやって来たのは、お風呂の脱衣場。


「こっち方面から聞こえたと思うんだけど、何処かなー?魔力感知!」


 まずは全体を見渡して、ダメ元で魔力感知を発動!しかし、漂う魔力しか感じられない。


「んー分からない、自力で探すしかないか」


 人の隠れられそうな部分を探していく。

 机の下、掃除用具のロッカー内、洗面台の道具入れ、棚の上。


「んー?居ない、お風呂場の方かなー?」


 私はドアを開けてお風呂場へ。

 お湯は入っており、いつでも入れる状態になっている。

 リサか暗部隊の方々が入ったのかな?お風呂場を洗った後ではなく湯煙が立ち上がっているので、誰かがお風呂に入った後のような感じがした。


「でも、お風呂場で隠れられる場所なんて、お湯の中くらいしかないよね」


 湯船の中をじっと見つめてみるが居ない、お湯の中に潜っているわけじゃなさそう。

 お風呂場には居ないと思い、足を翻そうとしたが……


「……ん?」


 何かお風呂場から違和感を感じた、何だろう?と思い、もう一度お風呂を見渡す。


「そういえば、湯煙ってこんなに濃くなったっけ?」


 いつもお風呂入る時ってこんなに湯煙が立ち込める事は無い、換気もしっかりしてあるから……あ。


「換気のダクトから湯煙が出ていってない、まさか!」


 換気ダクトは結構入口が大きく、ギリギリ人が入れる大きさだったので、入口を覗いてみると!


「あーっ!見つかっちゃいましたぁぁぁ!」


 暗部隊さんの1人を発見!何故か裸で。


「見付けた!……でも、何で裸なんですか?」

「あ、あはは……お風呂中に急にかくれんぼするって話が来たもので……着替える時間がなくてつい、てへ」


 てへぺろする可愛い暗部隊さん、彼女がダクト内からぬるりと出てきて綺麗に着地、そしてすかさずタオルを巻いていた。

 よく見ると、獣耳にリスのような尻尾が見えた、リス族?なんてあるのかな?可愛い。

 足元濡れてるのに滑らないしタオル巻くのも一瞬だったから、さすがだなぁと感じた。


「ふふ、こんなに早くカオリ様に見付かるようでは、まだまだ鍛え足りませんね。それにこんな安直な場所に隠れるなんて、明日からまたキツくしましょう」

「ええぇぇっ!?そんなぁぁぁ……酷いですよ隊長!お風呂中なのに急にかくれんぼの準備しなさいって言ってくるんですもん!」

「限られた範囲で身を隠す訓練も必要ですよ!これが敵で身を隠さねばならない時が来たらどうするのです!」

「そ、それはぁ……そうですけど」

「ま、まぁまぁリサさん、今日は私がギリギリ気付けるようにしてくれてたって事にしといてあげてください」

「カオリ様ぁぁ!!!」


 可愛い暗部隊さんが私の両手握ってぴょんぴょんしている、凄く可愛い。


「はぁ……全く、仕方ないですね。カオリ様、この子はスメラギです」

「はいっ!スメラギです!宜しくですぅ!」

「よろしくお願いします!そして、いつも見守ってくれてありがとうございます!」

「いえいえっ、これもお仕事ですから!それでは、私は着替えてからリビングに行ってますね!ではっ!」


 自己紹介を終え、スメラギがドロンと少量の煙を出して消えた。


「えっ、消えた!?」

「忍術です、瞬間移動に近い物だと考えてください」

「なるほど忍術!凄いですね!」


 忍びって言われるだけあって凄い、忍術かぁ……ちょっと憧れるかも。


「さぁカオリ様、捜索の続きですよ!」

「はい!」


 私は2人目の声がした方へと向かった。


 2人目は客間が集まる部屋の方面から聞こえた。

 客間は2つあり、他にもその近くには道具置き場や食材置き場もある。


「んー、探すのが大変そうだね」

「分からない場合はヒントを出しますので、頑張って探してみてください」

「はい!」


 私はまず、探すのが大変そうな道具置き場から探す事にした。


「スッキリ整頓はしてあるけど、色んな場所で隠れられそうだね」


 私はあらゆる隙間や人が入れそうな空間を確認していく、そして姿を隠せそうな場所にある道具を移動させるが……見付からない。


「うーん、ここには居ないかな?」

「では、次に行きましょう」


 次は食材置き場を捜索!

 ここは日に当たらないように設計されていて、空間を冷やす魔道具も置いてあるので、体感5℃くらいでかなり寒い。


「うぅ、さむ。こんな所に隠れますかね?」

「だからこそ隠れる選択肢もありますよ?」

「た、確かに」

「カオリ様にヒントです、隠密の際に使うスキルや忍術に関する事ですが、何も人の姿だったり、人の大きさで隠密し続ける必要もないのですよ」

「……?と、いいますと?」

「要するに、何かに化けたり身体を小さくする隠密スキルや忍術もあるのですよ、それを踏まえて探してみてください」

「化けてるって……そんなのどうやって探せば?」

「化けている場合は、触れられたり化けている側が動いたりすると解かれます」

「なるほど、それってもしかして……さっきの場所でも、そうやって隠れてた可能性も?」

「いえ、あの部屋には居ませんので大丈夫です、これから意識してみてください」

「分かりました!」


 私は、物に化けてるかもしれない意識で捜索開始。


「小さくなられてたら見付かりにくそうだよね……しっかり見なくちゃ」


 野菜達やお肉達、各材料達二違和感が無いか目を凝らしてみていく。

 しかし、これだけ多くの素材があると時間がかかり過ぎる、向こうもスキルや忍術で隠れるなら私もスキルで対抗出来ないかな?


「私のスキルで役に立ちそうな物……あ、透視とかいいかも!」


 化ける対象が多すぎるから、透視で一気に見ちゃおう!これで時間短縮だ!


「透視!」


 私は透視であらゆる物の更に奥まで見透かして、隠れている暗部隊さんを探す。

 てか、最初からこうしていればお風呂場でも直ぐに見付かったのでは?

 あはは、失敗失敗!てへ。


「なるほど透視ですか、カオリ様は良いスキルを持っていますね。しかし、透視で見付けられるでしょうか?そんな簡単に破られる隠密ではありませんが……」


 リサのそんな心配を他所に、私は肉類、麻袋、粉袋と怪しい物を全て透視完了し、野菜達とにらめっこ。


「……ん?」


 私は積まれた人参を透視していると、1本だけ形が整い過ぎているような……そんな気がした。


「これだ!!」


 その怪しい人参を引っ張り出すとボン!と音と共に変身が解けて、兎っ子な暗部隊さんの姿が現れた。


「あわわわっ!見付かっちゃいましたぁ……」

「あっ、うさぎさんだ!可愛い!!」


 白くて長い耳、そして丸い尻尾がポヨンとお尻から出ている、可愛い!


「カオリ様、よく擬態を見抜きましたね、何故分かったのです?」

「人参にしては形が整い過ぎていましたね、透視で1つ1つ丁寧に見ていないと気付きませんでしたが、少しだけ不自然でした」

「あぅ……人参さんが好きすぎて、完璧にし過ぎちゃいましたぁぁ……」


 さすがうさぎさん、人参へのこだわりが凄かったね。

 長い耳がへにょんと垂れてしまった姿が凄く可愛い、しかも私より身長が小さいから破壊力抜群。

 もう可愛いしか言えない、語彙力がががが。


「か、可愛過ぎる……」


 思わず頭を撫でてしまった。


「あぅ、恥ずかしいのです……」


 そう言いながらも、撫でられて気持ちがいいのか大人しくしている。


「なるほど、整い過ぎていた……ですか、勉強になります。ユキ、この経験を次に活かしましょう」

「は、はいですぅぅ!」

「ユキさん、いつも見守りありがとうございます!」

「い、いえ!もし何か困った事があればお呼びくださいぃ、人前だと出れませんが人目のない場所に行ってもらえればすぐに参りますぅ。常に誰かしらはお傍に付いていますのでぇ」

「はい、その時はお願いします!」

「はいですぅ!では、リビングで待っていますぅ!」


 ユキが耳をピコッとさせた瞬間、シュッと姿を消した。


「また消えた!」

「忍びですから」


 そうだよね、あんな可愛い子も暗殺する程の隠密や殺法を取得しているんだもんね……凄いよ、見た目に騙されちゃダメだね。


「さぁ、最後のツキミを探しますよ」

「はい!」


 最後のツキミは、2階にある自分達の寝室方面だった。


「でも、レイナさんやソルさんの部屋に入っちゃまずいですよね?」

「そちらには入らないように指示していますので、大丈夫ですよ」

「え?なら可能性あるのは私の部屋とその隣の部屋だけですね……」

「ですね、隣は客人用寝室部屋なのでご自由にお探しください」

「分かりました!」


 まずは……自分の部屋からにしよう!

 よく見慣れた景色だし、違和感があれば気付くかも。

 私は自分の部屋に入り、周りを見渡す。


「うーん、見た目変わりなし」


 隠れられるであろうベッドの下やカーテンの裏、ドアの裏側等にも注意して見てみるも居ない。


「何かに化けてる……?」


 でも元から置いてある物にも変わりはないし、物が増えてる様子も減った様子もない。

 念の為に1つ1つ触っていくも変わりない、物に化けてる様子はないみたいだね。


「魔力感知!透視!」


 魔力も変化なし、透視で何処かの裏側に隠れていないか確認するも居ない。


「んー、私の部屋じゃないね」


 私は部屋の奥から歩いてドアに歩いていくと……


「……!?」


 いきなり危険察知が発動、私は咄嗟にバチッと放電して自分の周囲に防御膜を纏う。


「ふふ、ツキミ……なかなか挑戦的ですね」

「リ、リサさん……今のって」

「ええ、ツキミの殺気です。ここに居ますって言っているのです」

「えっ!?」


 どこ……?

 どれだけ探しても居なかったはず、何処にいる……?

 置いてある物、そして隠れられる場所、全て探したはず……

 私のスキルで更に探し出すことは?


「そうだ……観察眼」


 スキル説明の時に、レイナから今は使っても意味が無いと言われていて、ずっと使っていなかった観察眼。

 これは変化や違和感を見れるスキル、これなら普段見慣れている私の部屋の違和感を見付けられるかもしれない!


「……観察眼!」

「観察眼……こんなスキルをお持ちなんですね、カオリ様は」


 リサが感心している中、私の右目から見える景色がスゥっと薄暗くなり、私の椅子に人型のボヤケが見えた。


「……見付けた」


 私は椅子に近寄り、そのボヤケの肩であろう部分に手を置くと、宙に浮くように手が止まる。


「さすがカオリ様ですね、お見事でしたよ」


 ツキミがそう言いながらゆっくりと透明化を解いた、何と椅子に座りながらのんびりとティーカップで水を飲んでいた。

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