第17話 ただのメイドではない?

 食事も終わり、お風呂は既に済ませているので後は寝るだけになった。

 私は眠くなるまでリビングでのーんびり過ごす事にし、レイナは素振りしてくると庭に出ていく。

 ソルは2つ目のソファーでむにゃむにゃ言いながら丸くなっている、可愛すぎてやばい。

 それを眺めていると、リサがこちらに近付いてきた。


「カオリ様、隣よろしいですか?」

「あ、はい!どうぞ」

「失礼します」


 メイドとしての仕事が終わったのか、「ふぅ……」と言いながら私の横に座る。


「……」

「……」


 2人共背もたれに身体を預けたまま静寂に包まれる。

 数分経ち、口を開いたのはリサだった。


「カオリ様、貴方尋常じゃない程の魔力を持ってますね」

「……分かるんですか?」

「はい、魔力探知を持っていますから。それに私の魔力探知は、人より優れた物なのです」

「同じスキルなのに優劣があるんですか?」

「はい、私の魔力探知は魔力量とその対象との距離まで分かるのです。それは魔力探知の中でも最上位レベルの効果で、使える人は極わずかです」

「……え?」


 私の魔力探知もそうなんだけど……あれ?もしかして私の魔力探知って凄かったの?


「あの……私も魔力探知使えるんですが、私も量と距離が分かりますよ?」

「……えっ!?」


 リサはバッとこちらに振り向いた。


「まさかカオリ様も使えるとは……やはり只者ではありませんね、魔力量からも薄々感じてはいましたが」

「魔力量に関しては少し事情があるので……」


 事情というのも、ミルム様の件と私は転生者って事だ。

 一緒に暮らす事になるリサになら話しても良い気はするけど、どうなんだろ。


「……なるほど、何となくレイナ様と同じような感じがするのですが、そういう事でよろしいですか?」


 レイナの事情を知っている、それならば変に隠す必要はない、かな?


「レイナさんの事情を知っているなら隠す必要もありませんね、その通りです」

「そういう事でしたか……分かりました、口外しないでおきましょう」

「助かります」


 また暫く静寂に包まれる、喋らないでゆっくり過ごす時間も嫌いじゃない。

 ソルを見ると、未だに丸くなったまま寝ている……可愛いなぁ。

 私はソルの傍に近寄り、頭を撫でてみる。


「んんっ……にへっ」


 ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 かっ、可愛いぃぃぃぃぃぃぃ!!

 獣人の可愛さ……恐るべしっ……!


「カオリ様、人には見せられないお顔になられてます、御自身の名誉の為に落ち着きましょう」

「ハッ!?いけない、獣人の魅惑に取り憑かれる所でした」

「いえ、既に取り憑かれておりました。こういう事をするのはこの家の中だけにしてください」

「は、はい……」


 あ、家の中ならいいんだ。

 それならばとソルの隣で私も丸くなり、目の前にあった尻尾を抱き抱えて堪能することにした。


「もふぅ……♪」


 ソルからは『今日は』尻尾をもふもふする権利を得ているからね!

 だから遠慮なくもふもふする!


「……はぁ、全く……レイナ様にソル様、なんてお方を連れてきたんですか」


 リサは思わず溜息を吐くが……


「わふっ……すぅ……」

「もふぅ……すやすや……」

「全く……仕方のない人達、ね」


 私は即座に眠ってしまい、2人の安らかな寝顔を見てリサは誰にも見せない素を出して微笑むのだった。


 ーーーー1時間後ーーーー


「ただいまー……っと」


 庭から家に入ると、リサがシーっと口の前に人差し指を立てていた、2人が寝てしまったらしい。

 リサに近寄り、起こさないように小声で話し掛けた。


「寝てしまったんだな」

「はい、カオリ様もソル様もお買い物や食事ではしゃいでおられたようですから、お疲れなのでしょう」

「かもな」


 私とリサで2人を眺めると2人共良い顔で眠っていた、何故カオリがソルの尻尾を抱いて寝ているのかは気になるが……


「レイナ様にお聞きします、カオリ様ってまさか……レイナ様と同じ事情ですか?」

「む?気付いたのか」

「……はい、カオリ様の魔力が尋常ではなかったので、レイナ様と同じ事情なのかと思い確認した所、そうだと仰られていましたので」

「そうだ、リサの仕事が終わり次第話そうと思っていたが、先に勘づいて聞いてしまったか」

「失礼しました、出過ぎた真似を……」

「気にするな、ちゃんと説明する予定だったからな」

「……はい」

「では今から説明する、しっかり聞いてくれ」

「承知しました」


 私達はリビングから移動してとある部屋へ来た、ここは秘密話をする際の特別な部屋で、特殊な防音仕様になっている。

 ここで私はカオリの出来事を洗いざらい話した、もちろんミルムの件も。


「……なるほど、そんな事があったんですか」

「あぁ、だからこそカオリを守らねばならない……力を貸して欲しいんだ、リサのSランクの力を」

「……承知しました、レイナ様の仰せのままに」


 リサは私に跪く。

 この関係は私とリサとソル、そして国王とその周辺や騎士団のごく一部しか知らず、まだカオリには話していない。

 いずれ話す事になるだろうが、今はまだ秘めておきたい……リサのプライベートに関わるし、まだ解決していないあの事件にも関わる事だ……まだこの世界に来たばかりのカオリにはキツい話だからな。

 あの事件にカオリが巻き込まれる前に解決するか、巻き込まれるようなら事前に話す必要もある、しかし内容が内容なのでその辺は慎重にいきたい。


「リサ、私達がその件で勅命依頼を受けたらこの国を離れる必要がある……その間頼んだぞ、お前達もな」

「「「「「はっ!」」」」」


 リサの後ろにスッと現れ、返事をしてスッと消えた暗部隊、リサが引き連れている忍び達である。

 これもリサの事情に関わってくる話だ。


「お任せ下さい、カオリ様は必ずお守ります」

「よし、この話はここまでだな。戻るぞ」

「かしこまりました」


 部屋を出てリビングへと戻ると、ソルが丁度目覚めたようだ。


「んっ、ふわぁ……はふっ」

「起きたか」

「……あら、今あの部屋から出てきた?」

「あぁ、リサに色々と説明があってな、カオリの件で」

「あー……うん、あの部屋で話すのなら、アレね」

「そうだ」

「リサ、この子の事……頼むわよ」


 ソルが自分の尻尾を離さないカオリの頭を撫でる。


「レイナ様とソル様の仰せのままに」


 ソルが頷き、この件は一旦終了なのだが……


「うぅ……カオリ、離してくれない……」

「「……」」

「もふぅ……むにゃむにゃ」


 カオリがこんなにもふもふ好きとは思わなかったな。


「どんまい……ソル」

「はは……まぁ、懐かないよりは好かれてる方が良いわね」

「くふふっ!」


 リサが久しぶりにはっきりと笑ったんだが、ハッ!としてまた凛とした姿へと戻る。


「……もういいんだぞ?素を出したって……」

「そうは参りません、これは私なりのケジメですから……レイナ様のご指示だとしても、これだけは」

「リサ……」

「まだ早いですが、そろそろ寝る準備に致しましょう。カオリ様は私が運びます」

「あ、あぁ……」


 リサはソルの尻尾からカオリを優しく引き剥がし、部屋へと連れて行った。


「……レイナ」


 ソルが私の服を握り、心配そうにリサを見つめる。


「ふむ……困ったものだな。あの事件からリサを助け出して半年だが、未だにこれだからな」

「……ねぇ、奴隷首輪の密輸ルートはまだ分からないの?」

「今日もギルマスに聞いてきたが……まだらしい、国も総力を上げて調べているようだがな」

「分かればきっと……」

「あぁ、私達に依頼が来る」

「ならそれまでにカオリに力を付けさせなきゃ、ね」

「そうだな、しっかり身を守り、逃げられるよう鍛えさせておこう。リサにも頼んでおく」

「分かったわ」


 しっかりカオリを鍛え上げ、その力で自分の身を守ってもらう。


 その事件の主犯は2人、その内1人のリサに関わる奴は私達が捕らえて情報を吐かせた後に処刑されたが、もう1人は行方をくらましている。

 恐らく行方をくらました先で、また密輸した首輪を使って悪さをしているんだろう。

 本当に許せない……





 実力者や上位冒険者を奴隷化させて私物化し、自分の快楽や陰謀の為に命令で無理矢理服従させる……そんな事、許してたまるか!!

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