第15話 ソルの尻尾を手入れしよう

 お湯にゆっくり浸かり、今までの疲れを癒す。

 そして、3人で世間話や家でやる事、これからどうしていくか等じっくり話し合う。

 簡単に纏めると、私は冒険者ギルドで自分の補助スキルが活かせそうな簡単な依頼をこなしていく、そして時間のある時は冒険者ギルドの訓練室で雷属性の特訓をする、更に家事や料理も手伝うとも言った。

 レイナとソルは普段通り依頼や狩りをするようだけど、私がここに馴染むまでは勅命依頼や緊急の指名依頼で無い限り遠出しない、そして私の特訓にはなるべく付き合うと言ってくれた。

 ちなみに勅命依頼とは、国王や側近の宰相からの指名依頼の事だそうだ。

 国としても貴重だというAランクは、そうした特殊な依頼を任される事があるんだそうな……

 余談だけど、個人Sランクはこの世界に5人、PTとしてのSランクは2PTしか居ないらしく、レイナとソルは個人とPT共にAランクだとの事。


 こうして話し合いは終了したが、長湯して逆上せる手前だったのでお風呂から上がる事になった。


 浴室から上がると、私の服が干されているのが見えた。

 私のパンツを2人に見られて恥ずかしかったけど、もう裸も見られてるしね……これから一緒に暮らすのだから気にしないようにしなきゃ。

 用意してくれていたタオルで身体を拭き、干されている服に手を掛けた。


「あ、服が全て乾いてます、こんな短時間で何故……?」


 まだ洗って30分くらいしか経ってないはずなのに……


「それはリサのお陰だ」

「リサさんの?」

「あぁ、リサは火と風と水の3属性を持っていてな、火と風2つを組み合わせて乾かしてくれるんだ」

「火に風?……あ、なるほど!温風ですね!」

「そういう事だ」


 要するに火属性で熱を発生させてから風属性で風を起こす、すると乾いた温風で素早く乾くって感じだね。

 属性の組み合わせで色んな事が出来るんだなぁ……私雷属性だけだから、少し羨ましいかも。


 服を着てレイナの方を見ると、ドライヤーと思わしき道具で髪の毛を乾かしていた。

 でも、コンセントに繋ぐプラグが見当たらない辺り、多分コンドル同様魔法を組み込んだ魔道具?的なアイテムなんだろうな。


 そしてソルの方を見ると、化粧台の椅子に座っており上の服だけを着て下はタオルで巻かれている状態だった。

 台の上には櫛とオイルが用意されており、どうやら今から尻尾の手入れをするみたい。


「あっ、ソルさん!」

「ん?どうしたの?」

「あの、私に尻尾の手入れ……させてもらえませんか!?」

「あら、いいの?」

「はい!」

「じゃあ……お願いしようかしら?今日は触っていいって許可を出したんだしね」

「ありがとうございます!お任せ下さい!」


 タオルで尻尾の水分を拭き取り、尻尾オイルを全体にしっかりと馴染ませていく。

 似たようなオイルが髪用にあるけど、これをしたら櫛の通りが良くなるしサラサラになるんだよね。

 馴染ませ終わると同時に、レイナがドライヤーを使い終わったようなので借りて、ドライヤーをしながら櫛を入れようと思う。

 そして櫛の入れ方にも拘ってみる、ふわっふわに仕上げる為に毛を浮かせるように櫛を入れながらドライヤーする。

 完全なカラカラに乾かすのではなく、オイルの保湿コーティングを崩さないように9割くらいに留めよう。


 ソルの様子を見てみると、気持ちがいいのか顔が少しずつ緩くなっていき、耳がピクッピクッとしていた。


「あぁ〜……上手いわねぇ……気持ちいいわぁ」

「ありがとうございます。少し歳が離れた妹がいるので、よく髪の毛を結んであげたり、乾かしてあげたり、櫛で梳いてあげたり、色々していたんですよ」

「あー、なるほどねぇ……それなら納得だわぁ……わふぅ……♪」


 わ、わふぅ……!?!?

 ああぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 蕩けてるソルがすっごく可愛い……!!!

 キュンってしちゃった!抱き締めていい!?

 あ、いや、後でもふもふするんだから我慢しよう、そうしよう!

 私は、とんでもない物に目覚めてしまったかもしれない……!こんなにソルが可愛いなんて!!


 自分の中に目覚めた物と戦いつつも、尻尾の手入れが終了した。

 どうよ!この仕上がり!サラサラッと手櫛が通るのにふわっふわに仕上がったよ!!!


「す、凄い……こんなにふわふわに仕上がるなんて!いつも自分で手入れしてもしっとりしちゃってたのよね……」

「多分オイル量とドライヤーの加減だと思いますよ、次の機会に教えますね!」

「ありがとう!助かるわ!」


 ソルが私の両手を握って目をキラキラとさせていた。


「……むぅ、尻尾……私にも生えないだろうか……?」


 そんな事を口走ったレイナだったが、普通はそんな事有り得ない。

 ……普通は。


 ちなみに、ドライヤーはドライアと言うらしい。

 ……もうドライヤーでいいじゃん。



 全員着替え終わったと同時くらいに、リサが脱衣場に帰ってきた。


「カオリ様、お部屋の準備が出来ましたのでこちらへ」

「あ、はい!」


 リサに連れられて2階へと上がり、私の部屋となる場所へとやってきた。

 この部屋の廊下を挟んで向かいがソルの部屋で、その隣がレイナの部屋なんだそうな。


 ドアを開けると目の前には少し大きめな窓があって、陽当たりは夕方の時間帯が良好っぽい。

 シングルより少し広めなベッドが隅にあり、タンスや本棚、机に椅子が配置されていた。


「おお!洋風だけど良い部屋!このベッド……セミダブル?いや、ダブルくらいの大きさかな?」


 軽く部屋の探索をしていく。

 日本の家とは雰囲気が違うから、慣れるまでは大変かもしれないけど、多分直ぐに慣れると思う。


「もし、何か気に入らない事があれば言ってください」

「い、いえ!大丈夫です」


 こんな良い部屋をもらって文句なんてあるはずがない、みんなに感謝しなきゃね。


「リサさん、少しいいですか?」

「はい、なんでしょう?」


 私はゆっくり息を吸って吐く、そしてリサの方を向く。


「私はこれからこの家のお世話になります、迷惑掛けることもあるかもしれませんが……精一杯頑張ります!なので、私に出来る事があるなら言ってください!お手伝いします!なのでどうか、よろしくお願いします!」


 私は深く頭を下げる。


「……!」


 リサは驚いた顔をしている、挨拶は1番最初に済ませていたので、改めてこうして言われるとは思わなかったみたいだ。

 リサはまだ私の年齢を知らない、だから見た目からして13歳くらいにしか思われていないと思う、だから私がこうして頭を下げた事に驚いたのだ。


 そしてこれから何をしていくのかリサにも話しておいた、仕事と家事の件だ。


「……なるほど、確かに最初から只者ではない子供だとは思っていましたが……どうやら合っていたようですね。分かりました、今日はお疲れでしょうから明日から家事を覚えてもらいます。教える際は厳しくいきますが、よろしいですね?」

「はい!よろしくお願いします!」


 ギラッとした鋭い視線に少々怖い印象があったけど、今のリサの目を見たら分かる。

 悪意や愚弄、見下しが一切ない。

 そりゃ品定めや警戒はしていたかもしれないけど……今は私に興味が出た目をしている、そんな気がした。

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