滂沱




 二人が消えてから、三日三晩寝込んでしまった俺は夢の中を漂い続けた。


 小学校の教室で、図書室で、音楽室で、図工室で、体育館で、調理室で、実験室で、情報室で、下駄箱で、校庭で、中庭で、飼育小屋で。

 並んで、向かい合って、背を向けて。

 二人が一緒に片手読みをしている夢だ。

 

 俺はよっぽど二人が羨ましかったのだろう。

 俺が、梅田さんが抱き続けただけで終わった願望を叶えて。

 年なんて関係ない、いつだっていいじゃないかって話だろうし。

 今、何度だってその願望は叶えられるだろうって話だろうが。

 駄目だったのだ。

 始まりである、小学三年生の俺と梅田さんでなければならなかったのだ。


 しょうもない。

 ただの駄々こねだ。

 だが、その執念が二人を引き寄せたのだと思う。

 迷惑だっただろうな。

 迷惑だっただろうか。

 俺が不甲斐ないばっかりに。


 ああ。

 あっさり、何も言わずに、何の合図も出さずに、居なくなるなよ。


 ありがとうって、ちゃんと言えてないのに。

 

 来てくれてありがとうって。

 留まってくれてありがとうって。

 叶えてくれてありがとうって。

 見せてくれてありがとうって。

 たくさん。


 直接言いたかったよ。











「野中さん」

「うん」


 ごめんな。ごめん。梅田さんには情けない俺を見せてばっかりだな。

 滂沱の涙を拭ってくれる梅田さんの手をそっと握って、上半身を起こして、下半身を動かして、ベッドの端に座り込んで。

 抱きしめてもいいかって弱弱しく尋ねると、梅田さんがベッドの傍に置いていた椅子を俺の前に移動させて座ってくれた。

 俺たちは座ったままで、そっと抱きしめ合った。


 ごめん。ごめん。

 俺は心中で梅田さんに謝り続けた。

 口に出して言うなんて、できないから。

 梅田さんが気に病むから。


 きっと。確実に。俺の身体の震えは梅田さんに伝わっているだろう。

 梅田さんだって本当は身体を震えさせていたんじゃないだろうか。

 でも俺が情けないから。

 きっと。確実に。抑え込んでいるんじゃないかって。


 二人を失ってできたのは、小さな穴なのに。

 薄れていた恐怖を増幅させるには、いや、蘇らせるには十分だったらしい。


(ごめん。梅田さん)


 俺は梅田さんにまた会いたくないって思わせてしまうかもしれない。











(2022.9.14)


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