第2話 合同「ごタイ面式」試合ダイジェスト 第四試合「その令嬢は元魔法少女」
「合同ごタイ面式第三試合、只今の試合は羽川さんの逆十字固めが決まり黒冨君のギブアップ宣言で終わりました。両者共にお疲れ様でした」
「いやぁ、打撃戦から疲労の一瞬を狙っての組付と腕十字固め。お見事でしたね」
「続きまして第四試合を開始します。玄歌話学園一年一組出席番号四番『櫛羅 東邦』君、試合に参加しますか?」
「おっす、参戦します」
「では櫛羅君リングに上がってください。白香春女学院一年一組出席番号四番『來未河 玖海子』さん、試合に参加しますか?」
「是非、一試合させてください」
「では來未河さん、リングへどうぞ」
「すみません、全力で正々堂々と戦いたいので儀式を行ってもよろしいですか?」「ええ、構いませんよ」
「それでは遠慮なく。プリティッ‼︎リリィィッ‼︎‼︎セットアッァァァップゥゥゥゥ‼︎‼︎」
その場の全員が思わず彼女に注目し、硬ツバを飲んだ。そりゃあこれから華の女子校一年生がニチアサ少女ヒーローアニメの掛け声と共に光包まれたんだ。誰だってドン引きする。書き手でだって頭抱える。
キラキラと光に包まれた玖海子は見事に可愛らしいヒーロー少女のコスチュームに変わっていた。
「さぁ、櫛羅君。“オドリ”ましょう‼︎」
「あのー、先輩、リングに登った後で対戦拒否って出来ます?」
「すまんな、リングに上がったらもうキャンセル出来ねぇんだ。すまねぇ」
「嘘ォ、オレ、いくらなんでも魔女っ子と喧嘩したく無い……」
「へぇ、何故ですか?」
「なぜって、魔女っ子でしょ?可愛い子でしょ?それ殴ったら男としての価値がなくなる気が……」
「へぇ、私が弱そうに見えるの?一応世界を救ったヒーローの一員よ」
「あ、もういいっす。とりあえず、試合しましょうか?」
「ええ、楽しく戦いましょう」
來未河の表情はまさに歴戦の戦士然としており『鎌倉の海獣王』の異名を持つ櫛羅ですら圧倒するものだった。
櫛羅と來未河がリングに上がるとどちらかと言うとどよめきがリング外周を覆った。カタや身長2m10㎝、推定体重100k前後のつぶらな瞳の海獣王。カタや中学時代ほぼ一年間一週間毎に一回プロの悪役組織と戦い続けたプロ魔法少女。
……どう見積もっても、プロ格闘家対ど素人。櫛羅に勝ち目はない。
気合だ根性だ、そういった言葉で劣勢をひっくり返す漫画もあるが、彼らの現実で現実がひっくり返る可能性は限りなく低い。
「……お手柔らかに、お願いします……」
「手加減無しよ、じゃ無いと“ホンキのケンカ”にならないでしょう?」
「ヒーローっ子とのマジケンカってなんだよ……」
当然と言えば当然だが櫛羅はこの時点で泣きが入っていた。
現場にいた多くの少年少女たちは櫛羅に同情していた。櫛羅の心情は想像しうる限り『もう喧嘩も恐喝もイジメもしないのでこの場は許してください』とでも考えるだろう。
「お祈りはいいかしら、仏様でもイエス様でも好きな方に祈りなさい。それくらいの時間はあげましょう」
「もうほぼ死刑申告じゃナいすか⁉︎だったら棄権するから許してください‼︎なんでもするェアー‼︎‼︎」
「んっ?なんでもするのね?じゃあ私のお尻を舐めなさい……と言いたいところだけど、今日は闘争心が昂まってるわ。変身した時点でもう無理です。諦めて殴られなさい」
「救いはないんですか⁉︎」
「ありません、残念ながら。さぁケンカの時間ですよ‼︎」
「ヒィィェェエエエエェッッッ‼︎‼︎‼︎‼︎」
カンと試合開始のゴングが鳴る。なると同時に來未河が立ちの姿勢から一切の予備動作無しに約6メートルの跳躍を見せる。
「うわーぉ、初登場時のツェップリのオッサンより飛んでる」
「ワタクシ白香春側ですが彼女と当たらなくてよかったわ」
「白香春ってあんな事できるお嬢様ばっかなの?怖すぎるよ……」
リング外の少年たちはみんな揃ってドン引きを起こす。來未河は『いつもの事だわ』と気にする素振りすら見せず空中で姿勢を整え、左脚で構える。
「必殺っ‼︎剛撃脚‼︎」
ゴゴゴッッ‼︎と音が響くような強力な突進蹴りにテンパり混乱その他山盛り状態の櫛羅が避けられるわけもなく、來未河の蹴りがモロに後頭部にヒットする。
「うぎゃ‼︎‼︎うぎゃ‼︎ウギぃっ⁉︎」
強烈な蹴りがヒットし櫛羅がロープまで吹っ飛ばされる、ワイヤーゴムロープの反動で猛烈に吹っ飛ばされた櫛羅に向かって力を込めた來未河が光に包まれながら正拳突きの姿勢を取る。
「必殺奥義ッッ‼︎聖拳突きッッッ‼︎‼︎」
聞くものそれぞれに違うエフェクト音が櫛羅に襲いかかり、櫛羅君が上ベクトルに吹っ飛ばされる。
「……あれは何というか」
「まるで、いえ、まさに『ブレイクヒーローズ』の『カノンドワフ』の必殺技のモーションそのものですわ……」
吹き飛んだ櫛羅に向かってまたしてもノーモーションで飛び上がった來未河は超跳躍のままいわゆる『ジャンピングアッパー』の姿勢を取る。
「決着奥義ッッ‼︎竜砕拳ッッッ‼︎‼︎」
最終的にゼロ重力になった櫛羅君の腹部に向かって渾身のアッパーカットをぶち込む。内臓を猛烈に強打された櫛羅君は再び空中高く吹っ飛ばされ、櫛羅の意識はどこかに飛んでいた。
「……どっちかっていうとさ」
「昔懐かし『至高の拳 剛の巻』超必殺技の『竜眼潰し』じゃん……」
空高く吹っ飛んだ櫛羅君を來未河が空中でキャッチ、そのまま地上へと自然落下しリング外へと魔法の力で軟着陸する。
「場外に出ちゃったね。この勝負は引き分けかしら?」
「全面的に僕の負けでいいです……」
櫛羅は完全に怯え泣いていた。
「……この試合はギブアップ宣言で櫛羅君の負けだね」
「相手が最悪すぎですわね……」
この試合は満場一致で櫛羅君のギブアップ負けで決まった。そもそも超必殺技を三発も繰り出されたら誰だって負けを認める。それに相手はそもそも歴戦の戦士、プロ魔法少女なのである…………。
試合から6〜7分ほど……。
「そういえば何でヴィランっぽい必殺技が多いんですか?來未河さん」
「え?あ〜あれ?わたくし、基本的にヴィランの皆さんが好きなんです。特にブレイクヒーローズおよびルーガの戦績シリーズのメインヴィランのカノン様が大好きなんです♡♡♡」
「…………」
櫛羅君は以後トラウマでチンピラ活動をやめたとかなんとか……。
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