決戦!スサノオV.Sヤマタノオロチ!!―豊葦原中津国の歴史を作った最初の戦い―
七柱雄一@今までありがとうございました!
一、ヤマタノオロチの生け贄になった娘 ―惨劇の夜―
(…あああああっ…)
少女はあまりの恐怖に声を上げることもできず、その両目から涙を流しながら全身をガタガタと震わせる。
そんな少女にすぐ目の前には真っ赤にただれた両眼が恐ろしい目つきで少女を品定めするように凝視している。
今少女がいるのは川の水面のすぐ上。
すでに夜のとばりが落ち、辺りは真っ暗闇に包まれている。
その体は白い着物の上から一本の木の柱に腰と足首のあたりを縄でしっかりと縛(しば)り上げられ、固定されている。
また両手も後ろ手にがっちりと縛られている。
つまりは身じろぎ一つできない状態でただ一人、川の上に木の柱に固定された状態でいるわけである。
そしてすぐそばには赤い目、さらにはその〝持ち主〟である巨大な蛇(へび)の顔がある。
その巨大さたるや顔だけで少女の全身の数倍はあるほどである。
『…フシュウウウウウ…』
〝怪物〟は少女を見ながらのどを鳴らす。
無論身動きできない少女にはなすすべがない。
何ゆえ少女はこのような過酷(かこく)な状況に陥(おちい)らねばならなかったのか?
少女は決してなんらかの罪を犯したわけではない。
しかもまだ年は十五なのである。
それにはこの土地独特の〝風習〟が関係している。
この土地にはある老夫婦が八人の娘とともに暮らしていた。
しかし今から六年前のちょうど今頃、越(こし)の国から〝怪物〟が老夫婦たちの元にやってきて一方的に告(つ)げた。
これから一年に一人ずつお前たちの娘を我にささげよ、もし拒絶(きょぜつ)するならこの土地の全てを破壊し尽くす、と。
恐ろしく巨大な怪物に言われれば無力な老夫婦と娘達に逆らう術(すべ)などない。
老夫婦は泣く泣くその時十五になっていた長女を怪物に人柱としてささげた。
その翌年にはやはり十五になっていた二番目の娘が。
さらに翌年には三番目の娘…。
こうしてすでに去年までに六人の娘が犠牲になった。
そして今年は自分の番である。
六人の姉たちは皆十五年でその生涯を閉じた。
そうして今は自分がその生を終えようとしている。
本来であればこれから結婚して子供を生み、育てる。
そんなささやかな未来が少女を待っていたはずである。
しかしそれは決して叶うことのない夢である。
かつての少女の姉たちがそうだったように。
『…フシャアアアアアアアアーッ』
今までじっくりと少女を〝品定め〟していた蛇がついにその巨大な口を全開にしたまま、少女に向かって襲いかかる。
「キャアアアアアアアアーッ」
少女の悲鳴が辺りに響き渡る。
しかしそれは少女の体が木の柱ごと蛇に食い破られた直後に終わる。
そのあとには静けさだけが残るのだった。
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