第20話.打ち合わせ
一つの机を取り囲む形で俺達は並んでいた。机の上には文字の書かれた修学旅行のしおりを思わせる紙。
「で、どこに行くんだ?」
気になった俺は3人に問う。実際、知っておかないと色々と面倒だ。
すると、俺の問いには華山が答えてくれた。
「広島の方に行くらしいですよ」
「ほう、広島か」
「楽しみだね〜」
「だね〜」
凛と空宮は手を合わせながらキャッキャ言いながら、楽しそうにしている。それと目的地は広島という事だったが、実際広島のどこに行くんだ?
「宮島ですよ」
華山が不意に口を開いた。まるで俺の心を読んだかの様に。凄くびっくりするから、喋る時はせめて今から話しますよー、って合図的なものを出してくれないと困っちゃう。
「みやじま?」
手を胸に当ててバクバクと脈打つ心臓を落ち着けようとしていると、何だそれ?とでも言わんばかりのトーンで凛が喋った。
(まぁ、知らなくても仕方がないかもな。日本から引っ越した時って多分5歳のときだし)
「宮島と言うのは、広島にある厳島神社がある事で有名な島ですよ」
「そうなんだ」
ちなみに凛の疑問点は華山の解説により無事解決したようだ。確かに厳島神社って言っとけば、大体どんなとこかは想像つきそうだしな。あそこの神社って中々面白い位置に鳥居が立ってるから、一度見たらなかなか忘れられない。
そんな事を思っていると、空宮が口を開いた。
「そういえば広島の宮島に行くのはいいとして向こうではどこに泊まるの?」
確かにそれは俺も気にはなる。何なら、この部室に来てからずっと気になってばかりだ。
「向こうでは宮島の近くにあるホテルに泊まる予定ですよ」
華山がそう言った。
ホテルか。という事は俺は1人部屋でゆっくり出来るわけだな。夏休みに海の近くのホテルでゆっくり出来て、さらには合宿と言う名の観光まで出来てしまう。楽しみだな。
「いつ行く予定なんだ?」
疑問に思った事を即座に口にし、華山に聞いた。すると華山は、紙を見ながら予定について話し始める。
「こちらとしては二週間後に予定しています。ちなみにホテル代や交通費などは、学校側に正式な部として認められたので学校から出ます。なので、私達は特に何か出費をする訳では無いのでそこは分かっておいてください」
華山はしっかりとお金面までも説明してくれた。しかし、俺が一番驚いているのは、正式な部になると部活動としての金銭は全部学校が工面してくれるという事についてだ。
(もしかしてうちの高校、公立にしてはリッチなの?)
✲✲✲
「それじゃあ、帰ろっか」
「そうだね」
合宿についての打ち合わせが終わると、4人一緒に帰り始めた。みんな駅までは一緒で、降りる場所が違うだけなので
そこまではいつも一緒に帰っている。
時刻は12時半。打ち合わせを始めたのが大体12時だったので、まあそれなりに学校に残っていたわけだ。太陽もかなり高くなっている。
「にしても、まさか部活で合宿が出来るとは思ってなかったよ」
「私もそう思います。お姉……せ、先生が、色々頑張ってくれてたみたいで」
「別にお姉ちゃんって呼んでもいいんじゃない?」
「そう……ですかね?」
「うん、そうだよ」
華山と空宮が話しているのを後ろから見ながら俺は凛と歩く。俺は凛の方を向くと、凛はやはり暑いのかハンディファンを使って顔に風を当てながら歩いている。すると俺の視線に気づいたのか凛がこちらを向いた。
「な〜に?刻くんも風に当たりたいの?」
凛は可愛らしい笑顔で俺にそう言った。
(うーむ、暑さを感じさせない美人な女子高生らしい笑顔頂きました!)
「いや、そういう訳じゃない」
一応断りを入れておくが、凛にはどうでもよかったのか俺に遠慮なく風を当ててきた。
「ほら、涼しいでしょ?」
「いや、だから別にいいって」
「もー、人の厚意は受け取っておくものだよ」
凛は朱に染めた頬を膨らませてそう言う。凛の言うことは間違ってはないけど。
俺は必死に理由を考えた。
「ほら、あれだよ。俺ばっかりが風に当たってたら凛が暑いだろ?だから俺はいい」
完璧な理由だ!これなら凛も納得してくれるだろう。
(と、思っていたのだが、何だか俺の右半身に人の体温と柔らかいものが当たってらっしゃいますね。あと顔には風)
「あの、凛さん?何をされてらっしゃるの?」
「ん?刻くんに引っ付いたら一緒に風が当たるかなと思って」
「あぁ、そう……」
あぁ、耳に熱を帯びている気がする。俺は一応凛の方を気づかれないように見て見た。すると、凛の頬と耳も俺と同じ様に少し朱に染っている。
また前を向いて歩き始める。自分の激しい鼓動の音を感じながら。
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