第17話.カラオケ

 華山や凛、空宮達と俺はカラオケの部屋にへと向かう。建物内には常に最近の曲が流れており、今流れているのはどこかのバンドのものだろうか。ボーカルの声にパワーを感じる曲だ。

 久しぶりに来たカラオケの感じを楽しんでいると、紙に書いてあった番号の部屋の前に着いていた。

 防音性の重めの扉を開くと中には大きなソファがL字になって置いてある。


「ほおー、ここがカラオケの部屋の中!」

「私初めて来ました」


 扉を開いた後に、カラオケに来た事がない組の凛と華山が驚いていた。

 狭い部屋は本当に狭いらしいが4人もいるのだ。それなりの広さの部屋に案内される。


(なんならここの部屋の広さ俺の家の部屋より広いけど。どういうことでしょうか)


「さあ、荷物置いて歌うぞー!」


 自分の部屋の広さとこの部屋の広さの差を、目分量で正確に調べているタイミングで空宮がそう言った。


「そうだね!一発目何歌おっかな〜」

「わ、私は最後でお願いします」


 空宮の発言に応えるように、凛と華山が返事をした。

 俺達は適当に扉に近い方から、空宮・凛・俺・華山の順番で座った。

 そして、ここで一つどうしても言いたい事がある。華山も女子の隣に座らせてあげてほしい。初めて来た場所で隣に男の俺と壁しかないんだから、余計に歌いにくいかもしれないし。

 そんな風に華山の事を気にかけていると、空宮と凛が早速曲を予約し始める。


「まずはこの曲から行こうっ!」


 そう言うと同時に、予約の出来る太めのタブレットみたいな機械からピッという音とテレビからは曲を送信しましたとお知らせする文字が現れた。



✲✲✲



「ふぅ、歌い終わった!」


 一曲約5分の曲を空宮は歌い終えると、満足そうにそう言った。

 実際のところ満足なのだろう。点数は92点とかなりの高得点を叩き出している。これはあれだな、後の人が歌いにくくなるやつだな。

 心配になって空宮の次に歌う凛の方を向いた。


「ふんふふ〜ん」


 だが俺の心配などは無用だったらしく、凛は楽しそうに鼻歌を歌っている。

 しばらく凛の鼻歌に耳を傾けていると、タッチパネルを付属のペンでスタタタターン!と高らかに叩く音が凛の方から聞こえてきた。


「この曲で決まりだー!」

「何にしたんだ?」


 テレビの画面に映る曲名を見る。するとそこに表情されている曲名は英語で書かれていた。


(うーむ、全く読めん。何ならどのジャンルの曲なのかさえ分からん。これは凛に聞くしかない)


「凛これ何の曲だ?」


 歌う準備をしている凛に聞いた。すると凛はこちらの方を向き教えてくれた。


「何か日本のアニメの曲らしいよ?イギリスの友達に勧められて気に入ったから覚えたの」

「そうなのか」

「うん、そうだよ〜」


 やっぱり日本のアニメは産業の一つとして確立されてるんだな。というかアニメの曲なのか。後でアニメの題名教えて貰おうっと。

 凛から何の曲なのか聞いた数秒後に曲のイントロ部分が流れてきた。あぁ、何となく聞いたことがあるような無いような、そんなうろ覚えの状態で俺は凛の歌声に耳を傾ける。



✲✲✲



「すっごい綺麗な声」

「ですね」

「ふふ、ありがと」


 凛が歌い終わった後、空宮と華山が凛の声綺麗さに驚いている。だがそれ以前にその異常な点数の高さに俺は驚いていた。


「98点……」

「負けちゃった」


 先程92点を叩き出した空宮が凛の点数を見て悔しがっている。するとその様子を見ていた凛がドヤ顔でこう言った。


「You still have lots more to work on……」

「ゆ、ゆースティ……え、凛なんて言ったの?」


 空宮は頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。だが確かにいきなり言われたら分からないかもな。

 俺が空宮に心の中で共感していると華山が口を開いた。


「意味は[まだまだだね]ですね」


 そんな感じの意味だったのか。


「むむむ……」


 感心しているとどうやら、凛も同じ事を思ったらしく俺よりも少し驚いた顔をしていた。


「華山さんよく知ってたね、しかもあの一瞬で的確な答えを言うなんて」

「あ、ありがとうございます」


 凛が華山の事を褒めると華山は耳の先を赤くして俯いている。どうやら少し恥ずかしかったようだ。

 その様子を俺は暖かい目で見守っていたが、俺は一つだけ解決しておかないことがある事に気づいた。

 俺はその解決しなければならない奴の方へと身体を向ける。


「おい空宮さっきから、むむむってうるさいぞ。何かあったのか?」


 そう、その問題とは空宮の事だ。華山が凛の言った英語の日本語訳を言ったあたりからずっと、むむむって言ってる。


「だって、凛に負けて悔しかったんだもん!しかもまだまだだねって言われたら余計に悔しくなっちゃって……」

「そうか」


 出たな空宮の負けず嫌い。昔からそうだ、俺が空宮とジャンケンして俺が勝ったら空宮は悔しがって絶対に俺に勝つまで続けるんだ。ちなみにしばらくの間は俺が勝つ。なぜなら空宮手が力み過ぎてグー以外出せないからなのだ。

 俺はもう一度空宮の方を向いてみる。するとそこで頬を膨らませて不貞腐れた様子でいた。


「はぁ……」


 ため息を一つ着くと立ち上がる。

 せっかくみんなで遊びに来たんだから楽しまないとな。

 そう思い俺は空宮の方へと行き、あいつの目の前に立つ。空宮は少し困惑しているようだ。だが俺はその様子を特に気にすること無く空宮の頭に手を置く。そして俺は軽く頭を撫でながらこう言った。


「別にこれは競走じゃないんだ。楽しみに来たんだし、何より空宮は空宮で十分上手いから大丈夫だぞ」


 そう言うと凛も大きく頷いて共感してくれた。


「そうだよ蒼ちゃん、楽しまないともったいないよ!」


 華山も凛の意見に賛成なのか、空宮の前に立つ俺の方に少し隠れながらも頷いている。


「みんなもこう言ってるし、点数なんて気にせずに楽しもう。所詮機械が判定した数字に過ぎないんだからさ」


 そう言ってもう一度空宮の方を向き直った。そして空宮は口を開いてこう言う。


「分かった点数は気にしない。楽しんで歌うよ」


 俺は空宮が元に戻ったことに胸を撫で下ろしつつ、その赤くなった空宮の頬と耳に見入ってしまっていた。

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