第3話

 寝ているにも関わらず、唸り声のようなものを漏らし見た目からして二日酔いによる頭痛に苦しんでいるのも関係なく、耳元でパンパンと手を叩いていた。


「う、うるさい、止めて、頭が痛いのよ」


 朝とは言っても時刻は10時過ぎ。痺れを切らしたメイドのメイによって起こされていた。

 しかし、起き上がろうとしないモニカに対し、メイは容赦なく音を鳴り響かせ止んだと思ったのもつかの間で、カランという金属の音が聞こえていた。


 モニカは慌てて体を起こし、これから何が起ころうとしていたのかを目の当たりにする。


「おはようございます。モニカ様」


「おはようメイ。本当に頭が痛いからそれだけは止めて」


 メイは大きく振りかぶると、モニカは慌てて耳をふさいだ。

 二つのフライパンをワゴンに載せ、薄目を開いたモニカの視界には水の入ったコップを持っているメイの姿があった。

 納得出来ないような顔をしたまま、コップを取り一気に飲み干していく。


「うー、お酒を飲むと頭が痛くなるっていうのは本当なのね」


 空いたコップに、水が注がれる。


「あのような飲まれ方をすれば当然です。モニカ様、まずはお水をお飲みください」


「え、あーうん。ありがとうね」


 ぷはーっと声を漏らして、二杯目を飲み干すが三杯目が注がれる。


「二日酔いには水が必要不可欠です。後一杯お飲みください」


 モニカは渋々水を飲んでいくが、二杯ならともかく三杯目は少し多かった。

 とはいえ、飲まないでいるとあのフライパンを手に取っているので飲むしかない。


「朝食は不要かと思われますが、昼食はスープのみになります」


「うん、そうね」


 そう言ってモニカはまた布団の上で大の字になるが、メイは容赦なくフランパンを叩きつける。


「や、止めて、頭に響く……」


「横になられる前に、着替えてください」


 ようやく自分が着ている服に気が付き、重い体をなんとか立たせる。

 立っているだけで吐きそうになっているが、メイは気にすることもなくドレスを脱がせていく。


「今日一日ゆっくりしていてください」


「ええ、わかっているわ」


 寝ようとするもののふつふつと湧き上がってくる怒りを何度も枕にぶつける。自分が昨日何をしたということよりも、ディオールに対しての怒りが一向に収まる様子を見せない。


「ディオのやつ。なんでよ!」


 枕を壁に投げつけ、シーツを頭まで被せる。


「どうして、私じゃだめなの?」


 泣き叫びたいのを殺すが、溢れ出る涙は止まることはなかった。

 メイは扉に背を当てて、中の様子をうかがっていた……しかし、その表情は呆れた顔をして大きくため息を漏らし、仕事へと戻っていった。

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