第2話

 ベディラリーヌ家の馬車に一人で乗りこみ、馭者が慌ててモニカの後を追ってきた。

 何があったのかを理解していないが、ただ事でないその雰囲気に馭者はゆっくりと馬車を屋敷に向け走らせる。


「ディオ……あの、バカ」


 残っていたワインを飲み、淡い青色のドレスが色を変えていく。

 対面にある座席を何度も足蹴にしては、ワインを飲む。

 彼女が侯爵家の別邸に戻る頃には、ワインボトルは空になっており足元に転がっていた。


 整えられていたはずの髪は、苛立ちによってグシャグシャにかき乱されている。フラフラとおぼつかない足取りで、馬車が見えたことで使用人たちは出迎えたものの絶句して声をかけられないでいた。


 予定よりも早い帰宅に、心配になって駆けつけてきたのがモニカの父。

 娘のあられもない姿に血相を変えて近づく。


「モニカ、何があったというのだ!?」


「あー、お父様。ディオール様からようやく、婚約破棄を言い渡されましたよー」


「婚約破棄? な、何の冗談だ?」


「冗談で、ないれす。でへへへ」


 その言葉に使用人たちは騒ぎ、モニカは父親に悪びれる様子もなくそう告げ、ヘラヘラと笑いながら自分の部屋へと戻っていく。

 その後を使用人たちが付いていくものの、手を伸ばせば邪魔だといい、声をかければうるさいと怒鳴っていた。


「モニカお嬢様、ドレスのままでは……それに何かこぼされておられるようですし」


「私はいいの。このまま寝る、出ていって!」


 モニカはそのまま自室のベッドに倒れ込み、大の字になって眠りこけていた。

 そんな彼女の姿を見ていた、使用人たちは両手で顔を覆っていた。

 また、面倒なことになったと……誰もが大きなため息を漏らしていた。

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