シミ

「私の会社でずいぶん昔、事件があったんですよ」

CさんはT市でも歴史が古い会社で勤務している。

「ニュースにもなったんですけど、痴情のもつれって言いますか…不倫してたカップルがいて、既婚男性が相手の女性を殺してしまったんです。よりにもよってオフィス内で」

しかも場所はみんなが使う給湯室だったんだそうだ。

「当時を知るベテランの社員さんから聞いたんですけど、絞殺だったらしいです。警察がいなくなった後、マグカップを置いてたらしいんですけど加害者が触ったかもしれないと考えるとトラウマだって」

そんな部屋は誰も使いたくないと言うことで、事件以来何十年も開かずの部屋になったのだが。

「女性用ロッカールームの隣なんです。私は入社して数年ですが、たまに壁の向こうから変な物音が聞こえる時があります。不気味だからみんな着替えたらすぐ出て行きますね」

つい最近、事件は起きた。

「ロッカールームの壁にシミが増えたんですよ。最初は気のせいかと思ったんですけど」

Cさん以外は誰も気づいてなさそうだった。

「ある日、分かったんです。左右逆に書かれている【鏡文字】だったんですよ。「ゆるさない」って」

加害者の男は被害者が男の家族に話すと言われ、思いつめて殺したそうだ。

被害者は壁に向かって倒れているところを発見された。

壁はロッカールームと開かずの部屋を隔てる壁だった。

「さっきの社員さん曰く、加害者はもう出てくる頃みたいなんです。待ってるんでしょうかね、彼女」


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