3 壺は臭うもの
ちなみに隼人、ハヤブサに
そして僕、
なんて言ってる場合じゃない。いきなり隼人が戦線を離脱し、僕を慌てさせる。隼人のヤツ、小柄なほうの人狼、つまり
「バンちゃん! 見てないで何とかして!」
隼人の声が聞こえた。
えぃ、チクショウ! 仕方なく屋根に戻り、嫌だったけどコウモリに
「バンちゃん! なんでボクを一人にしたんだよっ!?」
今、それを言うか? だいたい、僕を屋根に置き去りにしたのは誰だよ?
で、
「バンちゃん! 寒くて死にそう。今度こそ死ぬかな?」
「ええぃ! 煩い。死ねないから安心しろ!」
って言うか、隼人の相手をしている暇はない。とりあえず、神通力でモアモアをフッ飛ばそう! 二・三メートルは飛ばせるはずだ。
って! モアモアちゃん、なんにも感じていなさそうだぞ? 僕の神通力がこいつらには効かない?
「バン、こいつら実体がないんだ」
朔が唸った。
実体がない……だから朔でさえ太刀打ちできなかった。なす
「実体はあるよ。固形じゃないだけ」
ガタガタ震えながら隼人が言った。
「ちょっと待って。もう少し身体が暖まったら、ソイツら入れる容器を出すよ」
「そんなこと、できるの?」
「カノプス壺なら出せる、巨大化すればいけると思う」
カノプス壺……古代エジプトでミイラ作りの際、死者の臓器を収めた壺だ。
なんだ、せっかくここに来たけど、僕はやることがない。いや、違う、隼人が僕に何とかしろって言ったのは、暖めてくれってことだ。キツネに姿を変えた僕を隼人が嬉しそうに抱き寄せた。そして立ち上がり、僕には判らない言葉で何か言った。
ゴロンと音がして、縁側に何かが落ちた。高さ五十センチくらいと結構大きくて、濃い装飾がほどこされた石壺だ。これがカノプス壺なのだろう。それが現れるとゆっくり横倒しになった。
見る見るうちに二メートルくらいになり、パカッと蓋が外れた。
「クゥン……」
二頭のオオカミが頭を下げて縮こまる。なんだ、この悪臭!
「内臓が入ってたんだから、臭いよね、うん」
「防腐処理は?」
「さぁ……ボク、ミイラになったことも作ったこともない」
そーですかっ! そりゃそーだよねっ!
こんな臭い壺にモアモアちゃんたちは入ってくれるのか? 僕の予測に反して、壺の出現とともに動きが止まっていたモアモアたちが、ぞろぞろと壺の入り口に向かっていく。どうやったって入りきらないだろうと思っていたのに、ひとつ残らず壺に収まった。
「うはぁ、ぎゅうぎゅう詰めだ」
嬉しそうに隼人が言い、壺の蓋が閉まる。そして元の大きさに戻った壺は立ち上がると消えた。
「えっ? どこにやったの?」
「とりあえず、墓地に帰した」
「誰の?」
「なんとかって言うファラオ――って、バンちゃん、なんでボクに抱っこされてんだよっ!?」
いきなり僕を放り出す隼人、僕は瞬時に
ちなみに……僕も隼人も朔も満も、服までは
「いきなり庭に湧いて出たんだ」
コーヒーカップを口元に運びながら朔が言う。もちろん服を着て、庭に放り出されたソファーなんかを部屋に戻してからの話だ。僕と隼人はこんな時のために、この屋敷に用意しておいた服を着た。冷凍庫のようだった寒さはモアモアとともに解消されている。
「ね、びっくりした――なんか変な雨だ、って朔が言うから一緒に庭を見てたんだ」
臆病な満は恐怖からまだ立ち直れずに目を潤ませている。
朔と満は人狼兄弟、母オオカミと
そんな二人は隼人と出会い、生きる
「固体じゃないとしたら何だったんだ?」
朔が隼人に尋ねる。
「うん、とね……煙?」
「煙? 気体か」
「何も期待してないよ――てーか、お腹すいた。ラーメン食べたい」
はいっ? ラーメン? 美都麵はどうなった?
「隼人! 奏さんところに帰らなきゃ!」
「奏ちゃんの店はもう終わってる。バンちゃん、馬鹿なの? こんな時間に美都麵、やってない」
「隼人ぉ! 雨が降ったじゃん、思い出してよっ!」
「天気が悪けりゃ、雨も降るよ」
このニワトリ頭っ! 小突いてやろうかっ?
「月が出てるのに雨が降って、で、追い返そうとしたけど、朔に呼ばれて……」
「ん?」
隼人、やっと真剣に思い出す気になったらしい。
「なんで奏ちゃんを放っておくんだよっ! バンちゃん、コーヒー飲んでる場合じゃないっ!」
まったく……僕の
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