月時雨(つきしぐれ)が降る夜は きっと誰かが泣いている
寄賀あける
1 月夜に雨が降り始め
鳥類は敏感だ。ちょっとした異変にいち早く気が付いて、即座に警戒態勢を取る。どうやら僕の
「隼人、おまえも感じたか?」
そう言ったのは
「うん……なんだろう、あれ?」
「さぁなぁ……」
隼人と違って奥羽さんはラーメンを食べ続けている。
「関わらないほうがいいのは確かだ」
奥羽さんが言い終わるのとほぼ同時に、外からザーーーーッと雨の降る音がし始めた。ここに来た時、空には月が
「バン!」
「開けるな!」
「座ってろ!」
奥羽さん、隼人、
ここ
今、店は
美都麵の
「月、出てたよ」
今も雨音は聞こえてくる。
「
奏さんが静かに言った。
「いや……少なくとも、この店の前は降ってない」
すると奏さんがギョロリと僕を
「なぁに、すぐに降り出すさ。やむまで外に出るな」
「何が起きているの?」
僕の問いに奏さんの返事はない。
隼人を見ると、ラーメンの続きを食べるのに夢中のようだ。ピヨピヨとご機嫌モードに戻っている。奥羽さんは食べ終わり、
「ねぇ、奥羽さん、外で何が起きてるの?」
「フン! 吸血鬼
「奥羽ちゃん! バンちゃんを
ピヨピヨをやめて隼人が横から口を挟む。そこへ奏さんがさらに横入りする。放っておくと隼人と奥羽さんが
「隼人、さっさと食べろ。食べ終わったらアイスクリームがあるぞ ―― バンも食っちゃえ、伸びたら旨くなくなるぞ」
アイスクリームと聞いて
「
奥羽さんと僕にコーヒーを配りながら奏さんが言う。
「キツネの嫁入りってお天気雨。昼間なんじゃないの?」
「そうだな、どっちにしろ、晴れているのに雨が降る」
「ふむ……奏の淹れるコーヒーは毎度旨いな」
「だけど、今、降っているのはただの雨じゃない。何かが
「なにか、って?」
「それが判らないから『関わるな』って言ったんだよ。隼人でさえ動かないんだから、なおさらだ」
「フン! 隼人はハヤブサの割には臆病だ。俺のことを食うぞと脅すくせに、未だに食ったためしがない」
「だって、カラス、不味そうなんだもん。絶対不味いに決まってる」
アイスクリームは終わったようだ、隼人が話に加わってくる。
「なにをぉ! 食ってみなくちゃ判らんだろうが!」
「奏ちゃん、ボクにもコーヒー」
珍しく隼人が奥羽さんを無視した。奥羽さんは気にする様子もなく、
「なんか、いっぱいいるよね……人も混ざってるのが気になるな」
「人? 人だったもの、ではなくて?」
隼人の言葉に奏さんが顔色を変える。
「うん。人だったものもいっぱい――幽霊とか亡霊とか、
「それって?」
尋ねる僕、
「隼人、関わるなよ、間違っても俺を引っ張り込むなよ」
あからさまに嫌がる奥羽さん、
「関わるなって言っても無理そうだぞ、奥羽」
奏さんが面白そうに笑った。
「それって、と訊かれても、まだ判らない。で、奥羽ちゃんはいつも通り情報収集お願いね――今回の拠点は『ハヤブサの目』じゃなくて
「拠点? つまり、長期戦になるってこと?」
「今度は一筋縄ではいかないよ。バンちゃん、頑張ってね、頼んだよ!」
おぃ、隼人! おまえ、自分じゃ何もしない気だな? 何もかも、僕にやらせる気でいるな? いっつもそうだ、面倒なことは、いつも僕。いい加減にしてよと言いたが、結局僕は言えない。いつも言えない。いつも……
隼人こと
妖怪退治の看板を掛けた覚えはないはずなのに、なぜかヘンなのが絡む事件に巻き込まれる。お陰で仕事は妖怪退治ばかり、しかも報酬ナシのボランティア。まぁそれでも僕たちに食いっぱぐれはない。食わなきゃ生きていけない訳じゃない。そもそも生きてるかも怪しいもんだ。
お判りとは思うが、僕たち自身が人間じゃない。
隼人の右目は薄いレモンイエローで全てを焼き尽くす『ラーの目』だ。左目は薄い灰銀色で全てを見通す『ウジャトの目』――オッドアイの隼人は
そして僕、
奏さんが隼人の前にコーヒーを置く。
「お砂糖、いくつ入れてくれたの?」
不安げな眼差しで、隼人が奏さんを覗き込んだ時だった。
「来るっ!」
いきなり立ち上がって叫ぶ隼人、奥羽さんは椅子から転がり落ち、奏さんが鉢金に手を伸ばす――
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